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【取材ノート:清水】早くもブレイクし始めた待望の新戦力、神谷優太の異能とは

2022年3月29日(火)
エースのチアゴ サンタナをはじめ攻撃陣に故障者が多く、開幕から苦しいやりくりが続いている清水エスパルス。だが、そんな中でも光明はある。急成長中の若きエース・鈴木唯人と新戦力・神谷優太が攻撃を牽引し、勝点につなげていることだ。
鈴木唯に関しては別の機会に譲るとして、今回は柏から完全移籍してきた才気あふれるアタッカー・神谷優太の魅力についてお伝えしたい。

今季ここまでの神谷は、公式戦8試合全てに出場。リーグ戦では5試合連続で先発して、チームの4得点のうち3点にラストパスを供給。ルヴァンカップでは武器のひとつであるプレースキックが光り、徳島戦では直接FKから移籍後初ゴールを決めて、直前の広島戦では鋭いFKから原輝綺の決勝点をお膳立てした。
ドリブル、パス、キックの質と精度。攻撃のさまざまな要素で高い能力を発揮し、守備でも献身的なハードワークを惜しまない。「このイケメンは、こんなに良い選手だったのか!」と驚いている清水サポーターも多いことだろう。

彼のプレーを観ているとセンスや閃きを感じさせるシーンが多く、一見“感覚派”と思われがちだが、平岡宏章監督は「すごく頭を使っている選手」と評価する。神谷本人もそれを裏付ける発言をしている。
「つねに考えながらプレーすることは、プロになってから意識し始めたことですね。そこからサッカーを見て自分なりに勉強するのが楽しくなって、ちょっと監督目線になってしまうんですけど、ここで数人が連動して動けば、こういうスペースができるんだなとか、そういう目線でサッカーをよく見ています。思い描いていることが全てピッチで起こることはないんですけど、頭を使って崩すのはすごく楽しいので、ピッチ外でもそういうことを考えながら日々過ごしています」

高校2年まで東京Vユースで育ち、そこから青森山田高に編入したという異色の経歴を持つ神谷。足下の技術には元々強い自信とこだわりを持っていたが、それだけでは足りないと自覚して青森へ渡る決断をしたことは想像に難くない。そしてプロに入ってからは、頭を使ってプレーする楽しさも覚えた。
プライベートでもセンスの良さを存分に発揮し、アメリカの古着が大好きで、希少価値の高い旧車を大切に乗り続けている。本当に“自分を持っている選手”という印象がある。当然、自分の道は自分自身で切り拓いていこうとする自立心も旺盛だ。
だからこそ、選手個々の特徴を生かすことを大切にする平岡監督の信頼も得やすい。感覚だけでプレーしている選手は好不調の波が出やすいが、頭を使ってプレーできる選手は波が少ない。

見どころが非常に多い神谷のプレーだが、最後にそのうちのひとつを紹介したい。それはドリブルの緩急だ。
「もちろん速いドリブルをするときもありますけど、僕は途中からスローダウンしたり、ゆっくりドリブルしたりすることがけっこう多いです。そうすることでタメを作って味方の動き出しを待つこともできますし、相手が取りづらいタイミングでパスを出すのがいちばん味方の受け手をフリーにできると思うので。その中で、相手が飛び込んで来れないように、つねに顔を上げてプレーすることを大事にしてますし、ドリブルしながら自分の中で選択肢を増やすこと、そこからいちばんゴールにつながりやすいプレーを選ぶことをつねに意識しています」

彼が顔を上げながらゆっくりとドリブルしているときは、最高の選択肢を探り、最適なタイミングを計っている時間だ。だからドリブルが得意な選手にありがちな「球離れが遅い」という傾向は一切見られない。明治安田J1第4節・C大阪戦で髙橋大悟のゴールをアシストした美しいスルーパスは、まさに神谷のサッカー観が結実した一例だった。
清水のホーム=アイスタと練習グラウンドは、彼の特徴を生かしやすいシルキーなピッチが自慢で、環境という面でも相性が良好。チームにとっても、彼のように多彩な崩しのアイデアを実戦で体現できる選手は、待ち望んでいた存在だ。
プロになって4チーム目だが、まだ24歳。技術と頭脳を兼ね備える異能の男が新天地でブレイクしていく予感は、早くも濃密に漂っている。

Reported by 前島芳雄
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