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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:FW起用で再認識した、“怪物”の潜在能力

2022年5月5日(木)


完全否定されてしまった。3日に37,068人の大観衆を集めて行われた京都との明治安田J1リーグ第11節で、マテウス カストロはいつになくFWらしい動きを連発。終盤には珍しくヘディングを含むボレーシュートを連発し、思わず記者会見で「一生分のヘディングをしたのでは」と聞いてしまった。そこで笑いながらの返答が、「違うと思います」であり、「大宮時代にはそういったゴールシーンが何度もあったので、それは確認しておいてください」である。少なくとも“名古屋のマテウス”にはレアなシーンだったと思うのだが、気になったので動画を探してみると…。

なるほど、マテちゃん申し訳ない。けっこうあった。軽く探してみただけで5点分は見つかり、何ならコーナーキックをニアで合わせたものまであった。マテウスと言えば出し手側の選手であり、長谷川健太監督に「軌道がなかなか独特」と言わしめるエクストラキッカーのイメージが強かったので、これはなかなか意外でもある。前任のフィッカデンティ監督は常に「ニアに速いボールを蹴れ」と指示していたらしいが、あるいはマテウスのキックの独特さが故に、ピンポイントで合わせるよりは“事故”を起こすことをメインに考えていたのかもしれない。話を戻すとマテウスのヘディングはさすがに身体能力の高い選手らしくパワフルで、ドリブラーの選手にありがちな不得意さも感じられず、だからこそ「FWできたんじゃん!」とツッコミを入れたくなるほど上手かった。

見つけたプレー集の動画ではスルーパスに抜け出してのゴールやクロスに合わせての得点も多く、これまで名古屋で見せてきた“得点も取れるサイドアタッカー”という印象よりはもっとFW的だった。マテウスといえばテクニカルなドリブルと爆発的なスピード、恐ろしい威力を秘めた左足キックがその特徴として語られることが多いが、実は繊細なフィードや守備力の高さも併せ持つオールラウンダーである。チームが3バックにシステムを変え、ツートップの担い手としての抜擢を受けてからというもの、マテウスはストライカーにもきっちり順応している。「自分のヘディングもけっこういけるな、という感覚もあったけど」と不敵に笑うのは、単なるジョークではなく、純粋な手応えがあったのかもしれない。



ただ長谷川監督に聞けば金崎夢生や酒井宣福ら本職のストライカーたちの奮起に期待する。マテウスのポテンシャルはやはり2列目での起用にあり、サイドでのプレーにあると考えているのは間違いない。今は応急処置的な起用法に過ぎないFWマテウスは、戦力状況や試合状況による期間限定のものであるようだ。状況が好転した暁にはオプションとしては懐に忍ばせつつも、背番号10の職場はサイドに落ち着くことが予想される。



でも、もったいない気もするのは筆者だけだろうか。スピードとパワーはチームどころかリーグでも屈指の存在である。おまけにドリブルの突破力と得点力も持っている。FWに必要な忍耐力や集中力、何度でもチャレンジする粘り強さや執念、切り替えの速さはもう少し身に着ける必要があるが、適正としては良いものがあると思うのだが。サイドのマテウスも好きだが、自由を手にしたマテウスはもっと面白そうだ。その潜在能力に制限をかけず、前線で攻撃に専念して暴れる姿を一度見てみたい。

Reported by 今井雄一朗