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【取材ノート:神戸】リーグ5連勝で自動降格を回避。その過程にあった吉田監督の苦悩

2022年10月13日(木)
明治安田J1第27節の湘南戦(10月12日)に勝利したヴィッセル神戸は、2試合を残してJ2自動降格の回避(16位以上)に成功した。22日に清水が磐田に引き分けか敗れた場合は、その時点でJ1参入プレーオフも回避となりJ1残留が確定する。湘南戦後の記者会見では、吉田孝行監督に安堵の表情が見られた。


暫定監督も含めると、吉田孝行監督は今季4人目の指揮官だった。ロティーナ前監督からバトンを受け取ったのは6月28日。この時点で神戸は白星わずか2つで最下位(18位)に沈んでいた。

新指揮官の出だしは上々だった。就任4日後に迎えた明治安田J1第19節ではホームで無敗を誇っていた鳥栖を2-0で下して初陣を飾る。続くJ1第20節では終了間際の大迫勇也のゴールで清水に勝利し、翌節の磐田戦も制した神戸はJ2自動降格圏から抜け出した。

その後、中3日で迎えた天皇杯ラウンド16の柏戦ではネルシーニョ監督との師弟対決を制した。ロティーナ前監督が構築した堅守を活かしつつ、攻撃面で吉田流のスパイスを効かせたチームは息を吹き返したように見えた。

だが、じわじわと暗雲が立ち込める。明治安田J1第22節の鹿島戦で武藤嘉紀が負傷すると、アンドレス イニエスタや大迫勇也、菊池流帆ら主力が次々と離脱していく。その中で、J1リーグ、天皇杯、ルヴァンカップ、そしてACLと4つの大会を戦う過密日程を過ごすことになった。夏には小林祐希、飯野七聖、ステファン ムゴシャ、マテウス トゥーレルを補強したが、それでもチームを回すのに苦慮するほど台所事情は火の車だった。

転機は8月10日の「ルヴァンカップ準々決勝 第2戦でした」と吉田監督がオンライン囲み取材の際に振り返ったことがある。

「福岡には敗れて大会を去ることにはなったけれど、あの試合で前から守備をはめて攻め込む感触をチームとしてつかめた気がする」

しっかりとブロックを組んで守るロティーナ戦術も悪くはないが、浮上するためには攻めなくてはいけない。そんなジレンマから脱却した瞬間だったのかもしれない。

これが功を奏し、ルヴァンカップ福岡戦の後の明治安田J1第25節では札幌を2-0で下し、ACLラウンド16では好調の横浜FMとの激しい打ち合いを3-2で制した。完全に息を吹き返したと思われたが、ACL準々決勝では過密日程を考慮してメンバーを大きく入れ替え、韓国の全北に1-3で敗れた。そして明治安田J1第28節の京都戦、天皇杯準々決勝の鹿島戦と公式戦3連敗を喫し、吉田監督に対する風当たりが強くなっていった。

それでも吉田監督は、自分に課せられたJ1残留というミッションの遂行に集中した。そして前節の湘南戦で2008年以来14年ぶりとなるリーグ5連勝を達成し、ほぼJ1残留を手にしてみせた。試合後の会見で安堵の表情を浮かべたのは、そんな苦しい時期を乗り越えてきたからに他ならない。

湘南戦後の会見では、苦悩を物語る質疑応答があった。それを最後に紹介しておきたい。質問は地元・神戸新聞からである。

Q:今だから話せる、苦しかった時期などを教えてください。

「8月ですね。ケガ人が多くて、いっぱいいっぱいの状況をみんなで乗り切りました。あのあたりは苦しかったですし、個人的にはACLが悔しかったです。J1に残留をさせないといけない中で、(過密日程の全北戦に)思い切ったメンバーを選べなかった。クラブとしっかり話し「我々(の目標は)はJ1残留だ」と方向性を決めた中での判断だったので悔いはないですが、やはり個人としては悔しかったです」

Reported by 白井邦彦