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【取材ノート:今治】引退する駒野友一が今治で実現させた夢

2022年11月13日(日)


稀代のクロッサーが23年間の現役生活に別れを告げる。FC今治の元日本代表DF駒野友一が引退を発表したのは、11月10日のことだ。3日後、明治安田生命J3リーグ第33節のAC長野パルセイロ戦に先発した右サイドバックの腕には、キャプテンマークが巻かれていた。

キャプテンのMF楠美圭史から申し出たという。「今季ホームの最終戦だし、夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)の最後でもあるし、駒さんにお願いしたかった。駒さんはあれだけ実績があるのに、今治に来てからの4年間、どんなときも文句を言うことなく、誰よりも一生懸命トレーニングに臨む姿をずっと見てきて、キャプテンマークを渡すというのは、僕にできる恩返しでもありました。『試合に集中したいから』と駒さんには断られましたが、それは予想していて、僕も粘って、引き受けてもらえました」。

79分、交代する際にキャプテンマークを楠美に託した駒野。16分にCKの混戦から浴びた危険なシュートをブロックし、62分には変わらず精度の高い右CKからMFインディオの決定的なヘディングシュートを導いた。ここ3試合は連続で先発していて、「彼が自分の実力で勝ち取ったもの」と橋川和晃監督も称えるクオリティーと存在感を、最後まで見せてくれた。

勝って最終節までJ2昇格の可能性をつなぎたいチームは、後半、清水エスパルスから育成型期限付き移籍で加入しているFW千葉寛汰の2ゴールで3-2と逆転。しかし、今シーズン初めて後半アディショナルタイムに失点し、土壇場で追いつかれて、昇格の可能性はついえた。

「(キャプテンマークを)託されて嬉しかったけれど、勝てば昇格の可能性がつながったかもしれない試合に引き分けて、結果を残せなかったのが悔しい。自分がゲームキャプテンを務めていたから、なおさらです」。駒野は勝負の世界に生きてきた闘志をのぞかせつつ、交代してベンチに退く際に、この日最も大きい拍手を浴びたことに、「とてもうれしかった。それにピッチにいる選手が次々、僕のところに来てくれて、そうなるとは思っていなかったので感動した」と、ホームで最後の瞬間をかみ締めた。

引退を決意したのは今週の火曜、8日のことだった。「3試合続けて先発しているけれど、そのすべてで足がつってしまった。サイドバックは90分出続けることが使命。その役割を自分が果たせなくなったことと、一つしかないサイドバックのポジションを若手に譲るときだと感じて決めました」。

夢スタを舞台にした4年間で実現した夢は何だったのだろうか。「岡田(武史)会長に、『チームをJ3に昇格させてほしい』と今治に呼んでいただきました。それを、加入1年目のシーズンに実現できたことです」。2019年、JFLからJ3昇格を決めた瞬間に、夢スタのサポーターが涙を流しながら喜ぶ笑顔は、決して忘れることができないという。

今後、しばらくは「7年間、別々に暮らして寂しい思いをさせてしまった」という家族と過ごす時間を最優先させる。そして、次の夢に向かって走り出すことになる。

Reported by 大中祐二