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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:表情に刻まれる日々の闘い。藤井陽也の変化に頼もしさ

2022年6月23日(木)


徐々に“顔”ができてきた。個人的な感想ではあるが、藤井陽也がプロサッカー選手の顔になってきたと感じる。サッカー選手は試合に出てナンボ、という表現をしばしば耳にする機会がある。その通りだが、普段から厳しいポジション争いと生き残りの競争に身を置く選手たちなのだから、プロとして生きているだけでもそれはサッカー選手としての地位は得てはいる。だが、試合に出続けている選手と、そうでない選手には必ずと言っていいほど、その顔つきに大きな違いがある。人によってその違いの出方は違うので一概には言えないが、それでも一目見ればわかるのが、顔つきなのだ。あの本田圭佑でさえ、プロ入りすぐと、主力として試合に出続けた後ではまるで顔つきが違った。精悍さ、と言えばいいのだろうか。とにかく藤井にも、そうした傾向が出始めている。



あるいはそれは、実戦を通して本物の厳しさを体感し、精神的にも成長したがゆえの変化なのかもしれない。今季、チーム事情もあって出場機会を伸ばした藤井は、序盤戦の頃にはまだ取材に対する言葉も曖昧さがぬぐえなかった。無理もない。何かを聞かれても経験が少ないから判断材料が乏しく、もちろんピッチ上では必死に食らいつく毎日だ。3バック変更後の名古屋においては3枚の真ん中を任されることが多く、これは一般的にはDFリーダー的な立ち位置だが、長谷川健太監督は「油断すればまたポカをする選手。ポカしてもいいように彼ら(丸山祐市、中谷進之介)2人をそばに置いている」と手厳しかった。もちろん、そういうプレーが実際にあったのだから、これは愛の鞭とも言えた。

ただし、藤井はそこから現時点で、れっきとした名古屋の主戦センターバックとしての実績を積み重ね続けている。187cmの長身を利した空中戦の強さと、実はスプリントの速さでもチームでは上位に入るスピードも兼ね備える。持ち味は対人と言い切り、インターセプト含め前で勝負する守備にも実戦勘が加わり鋭さを増している。出場時間を増やす中ではロングキックの精度と飛距離においてもそれが武器であることを証明しつつあり、左右両足で蹴られる利点において、3バックの左を任されることもある。対人の追い方、クロス対応、攻撃面での貢献度などセンターとサイドでは役割にも違いはあるが、「シュートには自信があります」と実は攻撃もいける口。日々のトレーニングでもシュート練習は得意中の得意で、前体制時によくあった全員参加のシュート練習では、一番手を務めてビシビシ決めていた姿をよく目にした。



自信を深めていく中では、どこかリアリティが薄かった取材時のコメントにも、具体性や責任感が備わるようになってきた。天皇杯3回戦の金沢戦のあと、連戦の疲労について問うとこんな答えが返ってきた。

「きついなと思うところもあるのですが、そこは自分も後ろの選手ですし、まだまだ若いので。そういう部分では自分が引っ張っていくというか、そういった部分で全然やれるよ、というところを見せていかなければいけません。しっかりいつもよりも身体のケアもやって、試合に臨みたいなと思います」

そしてこの日の勝利について、「天皇杯、ルヴァンカップも残せているので、そこのタイトルに向けてやっていきたい」ときっぱり言い切った。昨季のタイトル獲得にはほとんど関わることのできなかった若手が、1年経たずしてこの台詞を言えることに、成長の跡を感じる。ちなみに新人時代の藤井は細身の身体を大きくするため、日々の鍛錬だけでなく1日5食などを自らに課し、センターバックとしての体格を手に入れようと努力していた。さすがにこうしてコンスタントに試合に出るようになると5食は厳しいらしいが、「もちろんそれでも間食は摂ります。今は体重をキープすることが大事ですね」と基本的な姿勢は変わっていない。見た目はすらっとさわやか男子でも、闘う男の心根はしっかり備わっているのだ。おそらく藤井は今季が終わるころには、さらにたくましい顔つきになっているだろう。かわいい“はるちゃん”が好きだったサポーターにとってはちょっと残念かもしれないが、おそらくその方がよりイケメンのはるちゃんになっていることは間違いない。

Reported by 今井雄一朗