Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:長野】クロスで魅せる杉井颯。レイソルの先輩・山中亮輔の如く

2022年8月23日(火)


“若き苦労人”が本領を発揮している。今季からAC長野パルセイロに加わった杉井颯。昨季限りでガイナーレ鳥取を退団し、トライアウトを経て加入した22歳だ。前半戦は先発出場が17試合中4試合に留まったが、後半戦はここまで4試合連続スタメンと巻き返している。

きっかけは他力だったと言えるかもしれない。前半戦ラストの第17節・鳥取戦後、センターバックの喜岡佳太が移籍。それを受けてボランチの秋山拓也がセンターバック、左サイドバックの水谷拓磨がボランチに入る“玉突き人事”が起き、左サイドバックが本職の杉井にチャンスが巡ってきた。

とはいえ、シュタルフ悠紀リヒャルト監督が「良いアピールを続けてくれた」と話したように、自力でつかみ取ったチャンスでもある。後半戦初戦のテゲバジャーロ宮崎戦で7試合ぶりに先発すると、指揮官の期待に沿うように“一発回答”を示す。

2点ビハインドで迎えた47分、左サイドをフリーで抜け出して高速クロスを送り、佐藤祐太のダイビングヘッドを演出。待望の今季初アシストを記録すると、チームはこれを機に2点差をひっくり返し、3-2と大逆転勝利を収めた。


勢いは止まらない。続く第19節・カマタマーレ讃岐戦では、土壇場の90+3分に決勝弾をアシスト。中央やや左からふわりとしたクロスを送り、藤森亮志がヘッドでそらした。さらに第21節・ヴァンラーレ八戸戦では35分、コーナーキックのこぼれ球から左サイドで低めのクロス。ニアで相手の足にわずかに当たると、最後は池ヶ谷颯斗が右足で押し込んだ。



直近4試合で“実質”3アシストの活躍。杉井は讃岐戦後に「今までは手前でフリーな選手がいるとそこを見てしまって、クロスを選択していなかった。悠紀さん(シュタルフ監督)から『もっとクロスを上げてほしい』『相手はクロスを入れられたほうが嫌じゃないか』と言われて、その通りだと思った」と明かした。もともと左足のキックの精度は武器だったが、指揮官の助言を受けて結果が出始めている。

狙いとしているのは、GKとDFの間を通す高速クロス。参考にしている選手を問うと「特にないけど、『このクロスいいね』と思ったのを真似したりしている。それで言えば山中(亮輔)選手もそうだし、水沼(宏太)選手も途中から入ってきて結果を出していて凄い」と2人の名前が挙がった。

山中亮輔(セレッソ大阪)と杉井は、柏レイソルのアカデミーで育ってトップ昇格を果たしたという共通項がある。“悪魔の左足”を持つ7歳上の先輩に対して「あんなふうになれたら良い」と憧れを抱く。しかし、プレーを比較すると「(山中は)シュートもあるけど自分はそこがない」と差を感じているようだ。

「悠紀さんから『シュートも打てたら(クロスの時に)GKが出られなくなる』という話もあった。今はクロスを上げた時に『シュートを打てたな』と思ったり、その後にシュートを打ったら『これはクロスだったな』と思ったり…なかなか難しい」。試行錯誤を重ねている段階だが、それもまた伸び代。ましてやトライアウトから這い上がってきた選手で、逆襲はまだ始まったばかりだ。

「今はクロスが調子良いので、(チームとして)良い感じで点が取れている。ただ、他のバリエーションも増えたら相手も嫌だと思うので、もっと上手くならないといけない」。ファン・サポーターからは“盛り上げ隊長”として愛されている杉井だが、その左足で盛り上げてくれるのが本望だろう。

Reported by 田中紘夢