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【取材ノート:長野】右サイドで新境地を開く原田虹輝。攻守に成長を遂げ、マルチな存在に

2022年11月17日(木)


「彼は面白いですよ」――シーズンが開幕して間もない頃、シュタルフ悠紀リヒャルト監督がそう微笑んだのを覚えている。

“彼”というのは、原田虹輝のことだ。昌平高を経て、2019年に川崎フロンターレへ加入。昨季はガイナーレ鳥取に期限付き移籍し、今季はAC長野パルセイロで再び武者修行を積んでいる。

昌平高や川崎Fで磨かれた高い技術が特徴。正確なトラップやパス、密集を打開するターンやドリブルは、川崎Fの先輩・大島僚太を彷彿とさせる。キャンプから4-3-3を敷いたチームにおいて、インサイドハーフやアンカーとしての起用が期待された。

しかし開幕以降は約2ヶ月間、メンバー外が続いた。ようやく初出場を果たしたのは天皇杯県準決勝・アルティスタ浅間戦。0-0の71分から途中出場すると、アンカーの位置からテンポの良いパスとドリブルを見せ、チームにリズムをもたらす。指揮官も「特に目立っていた」と評する好パフォーマンスで、1―0の勝利に貢献した。

その後は天皇杯県決勝・松本山雅FCとの“信州ダービー”で初先発。インサイドハーフに入ったが、相手の激しいプレスを受け、ボールロストが少なくなかった。得意のドリブルで密集の打開を試みるも、それも人数をかけて阻まれる。80分に途中交代となり、チームも0-1と敗れた。

「練習の中だと全然やれている自信もあったし、負けていないと思っていた」。それがダービーという大舞台で思うように発揮できず、以降もリーグ戦でなかなか出番が訪れなかった。

攻撃のポテンシャルが際立つ一方で、シュタルフ監督が挙げた課題は「守備の強度」。川崎F、鳥取と攻撃的なチームでプレーしてきた原田は「今まで守備で細かく言われることは少なかった」と明かす。トレーニングマッチではサイドバックやウイングバックにも挑戦し、「より守備を意識するようになった」。

チャンスが巡ってきたのは、古巣対決となった第32節・鳥取戦(●1-2)。右ウイングバック・佐藤祐太の出場停止を受け、そこに原田が先発起用された。攻撃時は右サイドバックとなる可変システムにおいて、公式戦では初挑戦ながら存在感を放つ。ビルドアップに落ち着きをもたらし、33分には正確なクロスで得点を演出。「今まで出た試合では何も残せていなかったので、ほっとした気持ちがあった」と安堵の表情を浮かべた。

右サイドでの起用について、指揮官は「練習やトレーニングマッチを積みながら準備してきたカードだった」と話す。チームは左サイドの攻撃をストロングとする一方で、右サイドの攻撃を課題としていた。そこで時間が作れる原田をワイドレーンに置き、鳥取の弱点であるクロス対応を見事に突いた。

続く第33節・今治戦(△3-3)でも先発出場すると、5分には左サイドのクロスから大外でフィニッシュ。これはGKに阻まれたが、逆サイドからの積極的な攻撃参加を示した。さらに38分、守備でも見せる。左サイドで縦パスを受けた近藤高虎に対し、激しいチャージでボールを奪取。取り返しにきた相手にも競り負けず、マイボールに持ち込んだ。

「前半戦は守備の強度が出せなかったが、それも徐々に改善されている。今日(11/16)のトレーニングを見ても、寄せのスピードや1対1の強さが備わってきた。安心して送り出せる」。そうシュタルフ監督は原田に成長を感じている。

それは本人も同じだ。ここまで公式戦9試合の出場に留まっているが、「いろんなポジションと戦術をやって、自分でも成長を感じられた。今年一年は本当に充実したと思う」と手応えを口にする。その一方で「試合の中で課題を見つけたいので、もっと絡まないといけない」と現状には満足していない。

川崎Fも認めた逸材は、まだまだ成長過程にある。まずは今季の集大成として、最終節・藤枝戦でピッチに虹をかけられるだろうか。


Reported by 田中紘夢