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【取材ノート:清水】生え抜き中の生え抜き、立田悠悟が完全移籍。言葉の変化に表われる飛躍への準備とは

2022年12月9日(金)
11月30日、立田悠悟の柏レイソルへの完全移籍が発表された。

静岡市清水区生まれで、長谷川健太、西澤明訓、鈴木啓太といった日本代表選手たちも育った入江小学校出身(漫画家さくらももこさんの母校でもある)。中学から清水のジュニアユースに入り、ユース、トップと昇格してきた191cmの大型センターバック。まだ24歳ながら強いキャプテンシーを発揮しており、長く清水エスパルスを背負っていくべき選手としてサポーターの期待も大きかった。

ユース時代からハートの熱さにも定評があり、大一番のゲームで勝ったとき、負けたときに熱い涙を流す姿でも、サポーターの胸を揺さぶってきた。清水愛も人一倍強い選手だけに、移籍報道が信じられなかった人も多かったことだろう。

だが、そこはプロの世界。立田本人も「自分の目標や夢を叶えるためにチャレンジしたい気持ちが強く、自分なりの答えを出しました」と移籍の理由を語っており、それは尊重するしかない。

ただ、2022シーズンの中で彼が見せてきた成長を考えると、来シーズンも清水でのプレーを、チームを立て直す働きを見たかったというのは、筆者としても正直な気持ちだ。

清水のトップチームに昇格してから6年。2年目の2018年からコンスタントに出場を重ねてきたが、完全に定位置を確保していたとは言えず、2021年は目標としていた東京オリンピックへの出場を逃すという悔しさも味わった。

今季もヴァウドがケガから復帰して出場できない時期もあったが、5月から先発を奪い返して安定した守備を見せ始めた。そんな時期に聞いたのが以下の言葉だ。

「去年はオリンピックを大きな目標にしていたので、他の人を意識して自分はもっとこうしなきゃとか焦っていた部分があって……僕はそういうのが裏目に出るタイプの人間だから、気合はすごく入っていたけど、空回りしちゃう感じもありました。もちろん今も毎試合がラストチャンスという危機感を持ってますけど、前よりも一歩引いて(周りを)見られている感覚があります。自分1人で守らなくていいというか……例えば相手にカットインされてきたときに、自分がファーを切るからゴンちゃん(権田修一)はニアを止めてよとか、守備に関しては余裕というか見える幅が広がってきてるのかなと思います」

昨年までは、焦って飛び込んで相手に入れ替わられてしまったり、PKやファウルを与えたりといったミスもあったが、今季はそんなシーンがほとんど見られなくなった。ただ、彼自身はその頃の自分のプレーにジレンマを抱いていた。

「後ろの選手なので無難にやることが一番とは思うけど、その無難にやることが自分のプレーではないなと思う部分もあって……。もちろん大きなエラーをしないことが大事ですが、今みたいに簡単にクリアしたりするのは誰でもできるんですよ。だけど自分にしかできないプレーもあると思っているから、今はそれを出せるだけの余裕がないのが歯がゆいですね」

そんな想いを持ちながらも、立田は試合を重ねるごとに前線への鋭いフィードや長いサイドチェンジを通すシーンを増やしていった。第27節・京都戦での乾貴士の決勝ゴールにつながるパスなど、得点に絡むシーンもあった。自分でボールを持ち上がってチャンスにつなげるシーンも目立ち始めていた。守備でも、待つだけでなく前にチャレンジしてボールを奪うシーンを増やしている。


9月上旬になって、自分に対する物足りなさがまだ残っているのか聞いてみると、彼は次のように答えた。

「その時期をひとつ越えつつあるぐらいですかね。今年出始めたときは、自分のミスから失点しないようにという意識が強くて、それはある程度できるようになってきたと思います。過信じゃなく、客観的に見て試合の中で少し慣れてきた。そこから今は、ボールを運ぶこととかチャレンジするプレーも少しだけステップアップした感じですね。自分が2、3人引き連れて上がればチャンスになるというのも成功体験としてあるし、そこで取られたら逆にカウンターだよということも頭に入れて、責任持ってやり続けていきたいです。ただ、守備も含めてまだうまくいってない部分もあるし、もっともっとうまくやれるようにしていきたいです」

本人はまだまだ満足していないが、彼が日々進化を続けていることは誰の目にも明らかだった。だが、最終節・札幌戦では1失点目のガブリエル・シャビエルのシュートを阻止することができず、チームも2度目のJ2降格が決まって、悔し涙にくれた。

そして大きな決断を下す。立田にとって清水はもっとも居心地の良い場所でもあるが、そこから離れて自らを見つめ直す道を選んだということではないだろうか。

彼をジュニアユース時代から見てきた筆者としては、高校を卒業した子供が一度実家を離れていくのと同じだと考えることにした。今季の彼の言葉を振り返ってみると、飛躍する準備はできていると言えるだろう。ここから一回りも二回りも大きくなって、海外や代表も経験したうえで、また清水に帰ってきてくれることを願っている。

Reported by 前島芳雄