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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:史上3人目の高校生プロ誕生。名古屋は貴田遼河にクラブの未来を視る

2023年5月4日(木)


まさかこの短期間で、貴田遼河のことを再び書くことになるとはちょっと予想外だった。二種登録選手として記録したルヴァンカップでの2得点は実に鮮烈で、長谷川健太監督も負傷さえなければ直後のリーグ戦での起用を考えていたという。しかしそれもあくまで二種登録のままで十分にできることであり、杉森考起、菅原由勢に続くクラブ史上3人目となる高校生プロになるとは良い意味で驚かされた。

激戦だった神戸とのホームゲーム、その試合後に行われたプロ契約締結の記者会見は堂々たるものだった。次々と投げかけられる報道陣の質問に対し、時々返答に困った顔を見せつつも、17歳の高校生は自分の意思をしっかりと表現していたように思える。小学校1年生の際に患った白血病の克服についてはかなり詳細な問いかけがされたが、少しも逃げることなく素直な言葉を紡ぐ。家族の支え、半年間の入院生活、そこで味わった辛さを克服できた理由。その延長戦上にプロサッカー選手という道を切り拓いた彼は、まさに太陽のような存在だ。

「自分が白血病になって、入院している時にも自分は”世界一のサッカー選手になる”って思い続けて、病気と闘ってきました。本当に夢として、まだプロになって間もないですけど、いつか諦めなければ本当に夢は叶うっていうところで、もう本当に自分はそう感じてたので。小さい子どもたちには、自分もまだ子どもですけど、そういう子たちには夢や希望を諦めずに持ってほしいなって思います」



世界一。そのひとつの形として「バロンドール」という目標をはっきり口にした貴田は、しかし憧れだけでそう言っているわけではない。彼を中2の全国大会で見初めた山口素弘GMはその特徴を「得点に尽きる」と断言し、「節目、節目で彼は得点を取っている。今後もゴールにこだわって、道を切り拓いてもらえれば」と評した。ストライカーとしての貴田の強みは様々ある。「何でもできるFWになりたい」とは以前からの願望だ。だが、その大前提にあるのは得点への渇望であり、プロ契約をしたことでさらにそこには目的意識も強く備わった。

「自分がいまグランパスの選手として掲げている目標は、やっぱりJ1優勝です。自分がその優勝に大きく貢献できるように、たくさん点を取れるようにする。自分の最終的な夢は“世界一のサッカー選手”なので、そこに向けても自分が今ここで点を取ることが近道だと思います」

いずれは海外、しかしそこへの最短距離も彼らしさが垣間見える。ジュニアユース時代を過ごしたFC多摩から、ステップアップへと選んだ進路が名古屋グランパスU-18だった。当時のスカウト、中村直志現アカデミーコーチが足しげく通い、口説き落としたその恩に、義理堅い貴田は報いたい気持ちを隠さない。「自分への期待は感じている。そういうクラブのために、自分は結果を出すことが一番の恩返しだと思っている」。その“恩返し”のスケールはプロ契約した今、早くも大きくなっているようだ。



「将来的には海外でプレーしたいというのはひとつの目標ではあるんですが、それはやっぱりグランパスのタイトル獲得に大きく貢献してからかなと思うし、そこで結果を出してから海外に行くことが一番いいと思う。今はJリーグだったり、ルヴァンカップだったり、多くのタイトルを獲るっていうことを考えています」

それを聞いた山口GMが「何十億ってオファーがあればすぐ出すよ」と笑う。彼のポテンシャルへの期待値が一番大きいのは高1時点で「貴田に注目しておいてください」と言っていた中村アカデミーコーチよりも、山口GMの方かもしれない。「すでにトップの戦力として考えている」という言葉は嘘ではなく、永井謙佑、ユンカー、マテウスの3トップに勝負を挑めと若者を焚きつける。「そこに食い込んでもらわないと困る」。それを聞く貴田の表情は苦笑いなどではなく、“わかっています”とばかりに引き締まっていた。

今後は高校生とプロサッカー選手の二足の草鞋を履くことになる。先輩の杉森も、菅原も通ってきた道だ。多忙を極めることは間違いないが、それすら力に変えて前進してくれそうなバイタリティーを彼には感じる。「高校生の間にプロ契約するのが目標のひとつだった」。それは到達点ではなく、通過点。それも最初のチェックポイントだ。決して順風満帆ではなかったユースでの日々も、常に意識の真ん中で貫いてきたのは「ゴールに向かい続けること」だった。生粋にして、貪欲なゴーラーは早くもスタートラインに立った。ここから彼がどれだけ化けてくれるかは楽しみで仕方なく、山口GM言うところの「ファミリーの皆さんの頭に残るようなゴール」も待ち遠しい。ルヴァンカップでの2得点はすでにその一部かもしれないが、彼にはまだまだ求めていいと思う。記憶にも、大きな記録としてクラブ史にも刻まれるような、幾多のゴールを。

Reported by 今井雄一朗