Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:清水】34歳になって新たな“色”を見せているファンタジスタ=乾貴士が、好調・清水にもたらしているもの

2023年5月11日(木)
4月3日に就任した秋葉忠宏監督の下で内容も戦績もV字回復を見せている清水エスパルス。秋葉体制以降はリーグ戦5勝2分0敗で、順位はプレーオフ圏内まであと1つの7位に上がり、前節いわき戦ではクラブ新記録の9得点。得点数では一気にリーグトップに立った。


そんなチームの躍進を力強く牽引しているのが、元日本代表・乾貴士だ。とくに直近4試合では3得点、3アシスト、その手前でチャンスを創出するプレーも非常に多く、まさに無双状態にある。

乾といえば、かつては左サイドハーフを務めることが多く、ドリブル突破やカットインからのシュートが最大の見せ場だった。34歳となった現在はプレースタイルも変わり、ドリブル突破は目立たなくなっているが、ボールタッチの技術や視野の広さは今もJ屈指。その特徴を最大限生かしたのが、秋葉監督の起用法だった。

監督交代前までは以前と同様に左サイドハーフが主戦場だったが、秋葉監督は乾を一貫して4-2-3-1のトップ下(2列目の3人の中央)として起用。その新たなポジションで、乾は相手にとって非常にイヤなところに顔を出してボールを受け、確実に収めるだけでなく自ら前を向いて、スルーパスや両サイドをえぐる絶妙なパスを連発。さらにクロスに対して良いタイミングで入っていってゴールも決め、まさに“ファンタジスタ”と呼ぶにふさわしいプレーを見せている。

清水の攻撃力に対して人数をかけて守りを固めてくる相手は多いが、それをものともしない得点力を見せられているのは、彼の存在によるところが大きい。

そのファンタジスタの恩恵を大きく受けて、いわき戦でプロ初のハットトリックを決めた中山克広は次のように語る。

「(乾)貴士くんにボールが入ったら、誰かが裏抜けて、誰かが近くでサポートに入って、そこで裏に出なくてもサイドバックが高い位置を取ってくるとか、チーム全体で共通認識ができているからこそ、全体がすごく良い距離感でやれていると思います。貴士くんがボールを取られないから、みんなが思い切って動きやすいというのも大きいです。すごいところでターンしてくれるので、その瞬間に背後に動き出せるし、『このタイミングで来るんだ!?』みたいなパスもあるので、今までなら準備してないところでも準備するようになったし、僕自身のレベルアップにもつながってると思います。とにかく見ててもわかると思うんすけど、あの人の存在は本当にすごいです」

乾本人も、新たな持ち場でのプレーに大きなやりがいを感じている。

「真ん中(トップ下)にいると、相手もいますけど、味方も全部の角度にいてくれるので、すごくやりやすいです。1つターンして打開できるというのが楽しさでもあるし、自分自身もそれが得意なプレーなので、それをもっと出していけるようにやっていきたいと思います」

前を向いたところからのスルーパスも冴えわたり、いわき戦では見事な裏へのパスで中山のスピードを生かして2得点をアシストした。

「スペースにスピードを殺さないようなパスを出せば、カツはすごく持ち味を出せるので、そこは意識しています。ちょっとキツいパスでも勝手に追いついてくれるんで、こっちも気が楽に出せますね(笑)」

秋葉監督に代わって、チームとしてもっとも大きく変わったのは、選手個々が自分の持ち味を存分に発揮するようになったことだ。乾や中山はその象徴的な存在だが、他にも右サイドバックの北爪健吾やセンターバックの井林章をはじめ、自分の武器を生かして結果につなげている選手は多い。元々個の力ではJ2で飛び抜けているチームだけに、それがかみ合ってくれば、当然今のように結果にもつながる。

そこにプラスαしてサッカーの楽しさを存分に見せてくれている乾貴士。トラップひとつでも見る者を唸らせ、チケット代に見合う価値を提供し続けている。


Reported by 前島芳雄