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【取材ノート:福岡】示した別格の存在感。増し続ける井手口陽介の凄み

2023年6月28日(水)


大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳、山口蛍・・・。これまで日本代表で世界と渡り合ってきた百戦錬磨のタレントを多く擁する相手に対し、元日本代表の井手口陽介はプレーの質の高さで抜群の存在感を見せた。


2023明治安田生命J1リーグ第18節の神戸戦。「これだけ良いサッカーをしていても一つ一つの技術の差であったり、試合運びであったりの差がこの結果につながった」と井手口が話すように例え、回数は少なくても、質の高さでチャンスを確実に仕留めてくるのが今の神戸。2点のビハインドを負った83分、井手口はこの日一番の魂のプレーで一矢報いようとした。コーナーキックのこぼれ球にいち早く反応。相手よりも先に、鋭く深いクリーンなスライディングでボールを奪い取る。すぐさま起き上がって前を向く。視線が捉えたのはゴール。左サイドの角度のないところから迷わず右足を振り抜いた。俺がこのチームをなんとかする。強い想いが込められたシュートは相手GKのセーブによって結果にはつながらなかったが、彼の意地と凄みが凝縮されたプレーだった。

プレー強度の高さ、読みの鋭さ、反応の早さ、的確なポジショニング。ボランチとしてあらゆる面で能力の高さを見せて相手からボールを奪い、セカンドボールを回収する。そこから放たれる強烈で鋭いシュートはもちろん、足元の技術の高さと視野の広さが生み出すパスとドリブルでの持ち出しの上手さ。この試合チームナンバーワンの走行距離を記録したようにピッチを縦横無尽に走る豊富な運動量も持ち合わせ、タイミングよく、正確なプレーで攻守に関与し、1試合を通じてハイレベルで安定したパフォーマンスを見せる。難しいプレーを簡単にこなしてしまうピッチ上での姿に加え、試合後のミックスゾーンでの言葉の端々からも、このぐらいで驚かないでください。もっとできますんで。そう言わんばかりに強烈なオーラを醸し出し、今のチームにおいて別格な存在になりつつある。

福岡生まれで小学生の時にはアビスパのスクールでもプレーした井手口。地元への帰還が決まったのは開幕が迫った今年の2月上旬だった。「僕自身、ずっと試合をしてプレーしたいという気持ちがあった中で、こういう試合に出ていない自分に声をかけてくれたというのはすごく感謝しています。遅かれ早かれ福岡でやりたいという気持ちはあったので、自分もこのタイミングでとは思ってなかったですけれど、声をかけてくれたということに対して、そこに恩を感じている」。チームに合流してからわずか約1週間。それでも開幕から2試合続けて途中出場し、能力の高さの片鱗を見せた。

だが、リーグ戦初先発となった第3節の柏戦で右足関節外果骨折。約3ヶ月の離脱を余儀なくされた。「加入早々に怪我をして離脱してしまったので、よりチームのために力になりたいという想いはリハビリ期間ですごく強くなった」。第16節の古巣ガンバ大阪戦で復帰すると、試合を重ねるごとにコンディションは上がり、神戸戦で凄みは一気に増した。

そんな彼を長谷部茂利監督も高く評価しつつ、その力をどうチームに組み込むかを考えている。「やはり能力が高いですね。ボールの奪取能力、読みも含めて、どういうふうにゲームを運ぼうかということをよく考えてプレーしていると思います。そういう良いプレー、良い考えにもっともっとチームがリンクしていけば、いいプレーが続出というか、たくさん出て、結果に繋がるんじゃないかなというふうには見ていますけれども、今のところちょっと途切れるというか、ぶつ切りのところがチームとしてはあるので、もっともっと連続、継続していきたいなというふうには思っています」。

現在、リーグ戦4連敗で7試合勝ち無し。苦しい状況にあるのは間違いない。ただ、福岡は成長過程にあるチーム。組織戦術の進化と同時に個人の質の向上が求められる中で、その“基準”を作ってくれる井手口の存在は大きい。井手口が皆のレベルに合わせるのではなく、井手口のレベルに皆が合わせる。そのフェーズに入った時、福岡はもう一つ上の段階に進めるはずだ。

「チームを勝たせる選手になる」。強い覚悟を持って福岡の為に戦っている井手口自身が目指すのは再び日の丸をつけてプレーすること。「ロシアのワールドカップは直前で落選したのであんまり見られなかったですけれど、今回(カタール)のワールドカップは、本当にファンとして、サポーターとして見させてもらっていて、すごく刺激をもらえましたし、僕も絶対もう1回入ってあの舞台に立ちたいという思いはすごく芽生えたので、その思いはすごく強いです」。背番号99が福岡の中心になって再び日本代表に名を連ねる日もそう遠くはないかもしれない。

Reported by 武丸善章