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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:確かな実力と大きな可能性。森島司は名古屋の攻撃を“司る”

2023年8月15日(火)


「新鮮やなって思いました。プロ入り後はずっと“モリシ”だったので」。何のことかと言えば、夏の移籍で名古屋へとやってきた森島司のサポーターからの呼び名である。チームメイトからも「モリシ」と呼ばれる森島だが、スタジアムでのコールは名前の方で「ツカサ」だった。Jリーグには森島寛晃(現C大阪社長)という名選手がいたこともあり、“森島”という名字の選手はかなりの確率で「モリシ」と呼ばれることが多く、ご多分に漏れずといったところ。しかし偶然か、それとも必然か、名古屋の森島司は「司」と呼ぶのが相応しい存在になっていきそうな予感がある。

中学年代は名古屋のアカデミーで過ごし、高校選手権でのプレーを望んで高校は地元三重の名門・四日市中央工業高の門を叩いた。ゆえに合流初日の感想は「まず練習場の門をくぐるときに、『久々やな』っていう感覚になりました」。1年半ほどのU-15での生活はそれでも濃厚な日々だったようで、今回のオファーについても「すごく嬉しくて、悩んで、決断して。それでも名古屋でよかった」と言えるほどの喜びに満ちたものだったという。7年半を過ごして「本当に大好きなクラブ」と今でも断言する広島を出る選択肢は、「オファーをいただいて、考えがちゃんと傾いたのは初めてだった」というからやはり名古屋だったから、という要素も強かった。



最初の練習が新潟戦の前日で、コンディションには問題はなくとも1週間の準備で臨んだデビュー戦には難しさがあって当然だった。だが森島は守備組織のコンセンサスを第一に重視し、攻撃に移れば広島時代の同僚でもある稲垣祥や野上結貴と息の合ったプレーを披露。ほぼぶっつけとは思えない違和感のなさで試合終了直前まで、足がつるまで走り抜いている。試合後に聞けば「もうちょっと攻撃のところでは自分のストロングを出したかった」と納得はしていない様子だったが、1-0の緊迫したスコアをきっちり勝点3に仕留めたことには満足げだった。


この試合の森島は野上も言うように、「深い位置を取るところはしっかりできている」のは好印象で、特に彼の配置されている右サイドは野上、藤井陽也、そして駆け上がってくる稲垣らによる分厚い崩しが武器になっている。さらには「うまくゲームコントロールできる力を彼は持っているし、流れを読めるすごく頼もしい選手」と、日本代表でともにプレーした中谷進之介は森島の特徴を表現。守備に気を遣うことが多かった中で、「終わってみたら攻撃のところは自分の中では物足りない」とする背番号14の表情は、まだまだ自分はこんなもんじゃないという自負や自信が見え隠れした。

今後、トレーニングを重ね、周囲との息や意図が合ってくれば、森島の良さはもっと目に見える形で表れてくるはずだ。実際、鹿島戦でも「ここにくれ」「いまパスをくれ」という彼のジェスチャーに対し、パスが出てこないことは多々あった。興味深いのは藤井との親和性で、ともすれば稲垣や野上よりも藤井の方が、森島の活かし方を把握しているようなパスをつけていた印象すらある。森島自身も「一番タイミングも良くて、いいパスが来るのでやりやすかった」と言っており、自ら持ち上がる力のある藤井のプレースタイルも「自分的にはすごくやりやすい」と言葉を弾ませていた。昨今の名古屋は右は重厚な攻め、左はダイナミックな縦の速さと突破力と対照的な攻撃パターンとなっており、右の崩しに対する森島の影響力はこれから小さくないものになっていきそうだ。



森島自身は名古屋での自分の活かし方について、従来のイメージ通りのゲームメイカー的な部分に加え、「相手の背後に抜けてボックスに入っていってゴールを狙う」というセカンドストライカー的な一面も見せたいと語っていた。それはまさに攻撃を“司る”ということであり、クラシカルな司令塔から一歩踏み込んだ、攻撃のオールマイティとしての自己表現をしていくという意思表示でもある。名古屋でモリシではなく、“ツカサ”つまり「司」と呼ばれるのは、やはり必然ではないか。上位争いのヒリついた戦いは今後も厳しさを増していくが、新たな攻撃の司を手にした名古屋には追い風も感じることができる。

Reported by 今井雄一朗