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【取材ノート:福岡】天敵撃破に導いた高精度クロス。サッカーIQの高さと周囲の人々の想いが支える前嶋洋太の躍動

2023年9月18日(月)


福岡に関わる全ての人々がこの瞬間を待っていた。明治安田生命J1リーグ第27節名古屋戦の84分。ベスト電器スタジアムの光に照らされ、左サイドから美しい放物線を描いた対空時間の長いクロスが上がる。相手のマークを上手く外したウェリントンが飛ぶ。ピンポイントで届いたボールをストロングヘッダーはしっかりと合わせた。その瞬間、皆が想起したのは2017年J1昇格プレーオフ決勝の豊田スタジアムで同じ相手に取り残したゴール。福岡を愛するブラジリアンは6年越しの想いを爆発させた。自然とできる選手とコーチ、スタッフの喜びの輪。その中にアシストした前嶋洋太は笑顔で加わった。


「ウェリ(ントン)が入った時は速いボールというよりかはゴール前に置いてあげるボールを蹴れば決めてくれるので、そういう話を普段ウェリともしていますし、狙い通りのボールが行ってくれたと思います。逆サイドをユザくん(湯澤聖人)がバーッと行ってくれて時間を作ってくれたので、僕の上がる時間もできましたし、あそこで横に振ってやったらディフェンスの目線も変わるので本当に良いゴールだったなと思います」

この試合スタートは右WBだったが、79分に湯澤が入ると左WBへ。「彼を左(サイド)に持ってきたのは(先発で左WBに入っていた)小田(逸稀)がヘディングで競ったり、アップダウンが激しかったので、当然チャンスを作る。ピンチを凌ぐとか、攻守に渡って躍動感持ってプレーしてくれたので、疲労もあるだろうということ。そこも懸念してまた湯澤の爆発力。彼は得点もアシストも時々しますからそれも期待して右(WB)に入れて、あのアシストをするような前嶋の左サイドでのプレー。それも期待して、思った通り(笑)。実力通りと言えばいいのか、彼の持っている力をチームに提供してくれたと思います」。長谷部茂利監督の言葉には先発フル出場で期待に応えた前嶋への信頼度の高さが表れていた。

際立つのは守備の巧みさ、ボール扱いの上手さ。上下動を繰り返しながら内に、外に各局面でタイミング良く相手が嫌がる立ち位置を取り、強度高くボールを奪い、技術の高さを活かしてボールを運ぶ。認知、判断、実行。プレーにおける重要なプロセスを高いレベルでコンスタントにこなし、左右両サイドどちらであっても遜色なく、周りの選手のタイプを理解しながら自身の力を発揮。SBでもWBでもサッカーIQの高さを見せながらタフにプレーし続けている。

そんな彼を同じサイドプレイヤーの小田は「きつくても自分のスタンスを変えないところ、守備での間合いや攻撃でのクオリティだったり(を出す)というのはすごい」と舌を巻き、自身のプレーの参考にもしていると言う。

「個人的には本当にいろんな人に助けてもらいながらプレーできていると思う。みんなも自分の良さを出させようとしてくれているし、僕自身もみんなの良さを出させようとしているので、そこは本当に支えてもらいながらやっているという印象です」

そのように好調の要因を話す前嶋。8月の第23節横浜FC戦では当日に誕生日を迎えた彼にサポーターから寄せ書きの入った大きな幕がプレゼントされた。「応援してくださる方がいるということを再確認できたので、そういう方々のためにも試合で勝てるように頑張りたいと改めて思いました」。取材対応で見せる姿は実に素直で真面目。派手なプレーはなくともピッチで頭を使って周りを活かし、周りに活かされながら楽しそうにサッカーをしている姿が印象的だ。そんなことを本人に話すと、「僕自身は必死にやっていますけど」と笑いつつ、「見てもらっている人が楽しそうと思ってもらえるのはすごく嬉しいですし、僕も小さい時は楽しそうにしている選手が好きだったので、それでサッカーを始めてくれる子とか出てきたらいいな」と目を輝かせながら言葉を残してくれた。

そんな周囲の期待に応えるべく、自身を冷静に分析し、更なる成長を見据えている。「(現状)全然満足はしていないですけど、チームとしてやりたいことを理解しながら自分の良さを出すというのはある程度できたのかなとは思います。ディフェンスのところはまず(相手に)やられない。目の前の相手にやられないというのと攻撃のところでもうちょっと自分の良さを出しながら数字(得点やアシスト)のところは出していきたいと思います。みんな目の前一試合一試合に全力注いでやっているし、その中で個人としてもチームとしてもいろんなことにチャレンジしながら勝ち負けにこだわってやれている。良い循環になっていると思うので、そこは僕自身もみんなに刺激を受けながらやりたいと思います」。

約1ヶ月後のJリーグYBCルヴァンカップ準決勝での再戦に向けてJ1で2000年以来、13試合勝利を挙げることができていなかった名古屋に対する苦手意識を払拭し、福岡に自信をつけさせてくれた立役者の一人であり、今やチームに欠かせない背番号29。これからの活躍により一層期待したい存在だ。

Reported by 武丸善章