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【取材ノート:藤枝】「雑草だけど、きれいな花を」。藤枝MYFCの成長を支える新進フィジコの夢

2023年10月30日(月)


藤枝MYFCの練習を見ていると、メニューが変わる合間ごとに須藤大輔監督が1人のコーチと相談している姿をよく目にする。練習の強度が限界を超えていないか、選手たちはまだ余力があるかなどを確認するためだ。そのやり取りの雰囲気を見ただけでも、指揮官が全幅の信頼を寄せていることが伝わってくる。
そのコーチとは、「うちのキーマンの1人ですよ」と須藤監督がつねづね口にする佐藤哲哉フィジカルコーチだ。

技術を高めながらフィジカルでも限界ギリギリを攻める

「僕自身も、このメニューでこのぐらいの時間だったら選手がギリギリやれるという判断で組んでいて、だいたいは良い加減でやれているんですが、データで見ると僕の感覚と多少違う数字が出ていることもあります。そこをテツ(佐藤フィジコ)に確認して、もう1本いけるのか、時間を削るのか、もう1つ先のメニューまで進めるのか。肌感覚だけではわからないところを、しっかり精査して瞬時に教えてくれるから、本当助かっています」(須藤監督)

須藤監督が掲げる「超攻撃的エンターテイメントサッカー」を形にするには、技術・戦術だけでなく、攻守の切り替えの速さや球際の強さ、運動量、スプリント回数といったフィジカル面の充実も欠かせない。
ただ藤枝の練習は、走るだけ、筋トレだけといったフィジカルに特化したメニューを入れることは少なく、ボールスキルを磨きながら同時にフィジカルも強化する形で進めている。その中で限界ギリギリを攻める強度設定を目指しており、各自が装着しているGPS受信機のデータを見ながら、リアルタイムで須藤監督に助言しているのが佐藤フィジコだ。

「おかげで、楽すぎず、限度を超えた状態にもならず、一番いい塩梅のところで日々の練習が終えられている。だからこそ、後半も選手の足が止まらないし、けが人も出ないというのはあると思います」(須藤監督)

藤枝に移籍してきたばかりの選手は「練習がメチャきつい」とよく言うが、それでいてケガ人は少ない。長丁場のJ2リーグで39試合を終えた週の練習では、別メニュー調整だったのが膝の前十字靱帯を傷めて長期離脱中の杉田真彦と河上将平の2人だけ。足への負担が大きい人工芝のグラウンドを練習場にしているにも関わらず、このケガ人の少なさは特筆に値する。
それでいて疲労が蓄積しがちなリーグ終盤戦でも、試合終盤に運動量で相手を上回ることができている。10/14の群馬戦では後半に4得点し、前節の水戸戦では終盤に猛攻を受けながら最後のところで選手の足が出てシュートを阻止できたことが1-0の勝利につながった。

燃費の良い動き方も追求して



そうした成果の背景には、佐藤フィジコによる緻密な体調管理もある。選手1人1人の体重や体組成(体脂肪率や筋肉量、水分量など)、食事の管理といった一般的なものだけでなく、尿検査も週に1度行なって、選手の身体の状態を客観的に把握。また練習後には、毎回1人1人にその日の疲労度を10段階の自己評価で記入させて、数値との微妙な違いも考慮しながら選手個々のアドバイスや課題設定を行なっている。
最少限のスタッフで運営しているチームなのでアシスタントがいるわけではなく、尿検査もデータ集計も佐藤フィジコが1人で担当する。そのためデータを持ち帰って家で仕事をすることも多く、須藤監督も「仕事量は半端ないですよ」と舌を巻く。

また福島大学時代には、サッカー部でプレーしながら、陸上競技の世界で著名な川本和久教授のゼミに所属し、大学院まで進んで効率の良い走り方や身体の使い方を学んできた。その知識を活かして、走り方やコーディネーションのトレーニングも多く取り入れている。
「ロスが少ないから速く走れる、ロスが少ないから長く走れる。そういう燃費の良い身体の使い方というところにも取り組んでいます」(佐藤フィジコ)
フィジカル的なベースの向上と効率の良い身体の動かし方の両面から最後まで走りきれるチームを作り、攻撃的で観て楽しいサッカーを陰から支えている。

ただ、今季初めてJ2に上がって、戸惑うこともあった。開幕して2~3節を終えたあたりで「試合後のダメージというのがJ3の頃より断然大きかったんですよね。そこから回復が十分に間に合わないまま次の試合に臨むという状況になっていました」(佐藤フィジコ)と、J2のハードさを実感させられた。
だが、だからといって練習の強度を下げることはなかった。
「その発想はうちには絶対ないですね。そこで強度を下げてしまうのは、負のサイクルだと思うので。ただ、強度だけに走ってしまってサッカーがうまくいかなくなるというのも負のサイクルだと思います。僕らはプレーモデルがしっかりとあるので、そこを大前提にしながら強度と量を上乗せしていこうと。須藤さんの求めるものと選手たちの頑張りと、いろいろなものが噛み合っているからこそ、それが雪だるま式にだんだん膨らんでいってるのかなと思います」(佐藤フィジコ)
タフな試合と練習を繰り返しながら少しずつJ2に適応するフィジカルを身につけ、リーグ中盤は相手に研究されて苦戦した時期もあったが、夏から守備の修正を少しずつ図って34節からは4勝2分2敗。地元のビッグクラブである清水エスパルスに2-0で勝利し、サポーターを歓喜させた。
選手の実績や年俸を考えても、開幕前の多くの順位予想で降格候補に挙げられていたのは無理もない。だが、その小規模クラブがいくつもの壁を自力で乗り越え、2試合を残してJ2残留を勝ち取った。

“雑草軍団”と共にステップアップを



佐藤フィジコ自身も、下からコツコツと自身のキャリアを積み上げてきた。福島大の大学院を修了した後は、新潟のスクールコーチになって経験を重ね、その後は地元の仙台でアカデミーコーチに就任。その過程で自分の適性やチャンスを考え、自らの道をフィジカルコーチ1本に絞っていった。そして3年前に藤枝に来て、初めてプロチームのフィジコとなった。
「テツはサッカーを知っているから、アップでも次の練習や僕が設定したテーマにつながるメニューを組んでくれるのはありがたいです」(須藤監督)と、サッカーのコーチをしてきた経験も生きている。
佐藤フィジコも「監督が求めるフィジコ像ってそれぞれ違うと思いますが、須藤さんとここ2年半一緒にやらせてもらって、要望に応えることはある程度できてるかなと思います。それは、須藤さんがすごく柔軟で、何でも受け入れてくれるところがあってこそですね。『いいよ、失敗しろ』と言ってくれて、いろいろチャレンジできるし、トライ&エラーをくり返せるから、僕自身も経験として積み上げることができます。試合をやって答え合わせもできるし、本当にやりがいがあります」と充実感を口にする。
サッカーに関する好みも須藤監督と一致し、「相思相愛です」と働き者のフィジコは笑った。そして最後に雑談していた中で、彼自身の夢につながる想いを話してくれた。

「藤枝MYFCは“雑草軍団”と言われますが、僕はその言葉が大好きなんですよ。本当に下から這い上がってきた選手ばかりですし、上を目指す気持ちも強くて、僕らの求めることを本当に一所懸命やってくれます。それに僕自身も完全に雑草ですから。でも、雑草であってもきれいな花を咲かせることはできると思うんですよね」

無名の存在から自力でたくましく根を張ってきた選手たちを美しく花開かせ、自分自身もステップアップしていく。もしかしたら数年後には、須藤監督と共にJ1の舞台で注目される存在になっているかもしれない。その後、日本代表チームで一緒に働くなんてことも、あり得ないことではない。
スポーツの世界らしい本当に夢のある話だ。だからこそ、その夢のために全てを捧げることに対して、本人は苦労だとはまったく思っていないようだ。

Reported by 前島芳雄