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【取材ノート:福岡】聖地・国立でひるまず戦って掴んだ悲願の初戴冠。長谷部茂利監督の築き上げてきた「福岡らしさ」がついに花開く

2023年11月6日(月)


JリーグYBCルヴァンカップ決勝。相手は浦和レッズ。国立競技場の舞台で赤の応援が多いことが予想される中、前日会見で長谷部茂利監督はこう言った。

「私の感覚だと気にしないことですね。楽しむこと。赤の応援を青の応援と思うこと。それぐらい気にしないでいいと思います。というか私はあまり気にしていません。アビスパの応援団も来ますし、それが10倍に見えるように勝手に感じます」

試合前の福岡のメンバー紹介時、その言葉は間違っていなかったと証明される。「勝って日本一のチームとして福岡へ帰ろう」。いつも博多の森で聴いてきたスタジアムDJ信川竜太さんの力強い声が聖地・国立にこだまする。この言葉を聞いて紺色のサポーターが燃えないわけがない。福岡に関わる全ての人の胸に宿る想いが声援となり、手拍子となり、選手たちを後押しするパワーはより強くなった。


それに呼応されるように試合開始のホイッスルが鳴った瞬間、福岡の選手たちはいつも通り、アグレッシブに前に、前に出た。堅い試合が予想された中で、わずか5分で生んだ大事な先制点。前半アディショナルタイムに奪った追加点。2点のリードを手にしたが、アジア王者は簡単に勝たせてはくれない。赤い悪魔は容赦なく襲い掛かってくる。59分に山岸祐也がPKを止められると一気に流れは変わり、67分に1点を返された。だが、慌てることなく、福岡らしく全員が体を張って泥臭く戦った先に歓喜の瞬間は訪れた。

試合後、記者会見場に拍手で迎えられた長谷部監督は第一声でこう言った。
「華麗ではありませんが、優勝を勝ち取るような力をつけたというところを嬉しく思いますし、証明できたんじゃないかと。やってきたことが間違っていなかった。信じてよかった。信じてついてきてくれたスタッフと選手、またファン・サポーターも含めて福岡の皆様に御礼が言いたいです」。

決して潤沢な資金があるわけではない。選手層が厚いわけでもない。限られた中で常にチームとして最大出力を出し、相手をしっかりと分析した上で様々な方法を駆使して勝つ確率を最大限に上げる。そういったチームを作り上げてきたのが長谷部監督だ。例えば、この試合での前寛之のシャドー起用。福岡の“心臓”と呼ばれ、これまで不動のボランチとしてチームを支えてきた彼の1列前での起用に驚いた人も多いだろう。ただ、長谷部監督は用意周到だった。

「(福岡に来て4年で)最大限に成長していると思いますが、その前に元々能力の高い選手です。なので、できると思いますし、毎日練習を見ている中でそういうこと(シャドーでの起用)を私が連想する。またコーチの助言もあって、(前)寛之がシャドーでいけるんじゃないかというところも含めて、協議の中で良い答えが出せそうだと。決断は私がしますけども。今日まさか点数を取るとは思いませんでしたけども(笑)。でも私が前寛之という選手と一緒に公式戦を戦ってきて、正確には分かりませんが(福岡だけで言うと)100試合ぐらい。その度に準備をする1週間、その度に試合直前にミーティングをし、その度に試合が終わって振り返りをし、彼はずっと聞いています。常に。だから全部私が言うことを分かっているんです。あとは表現できるかどうかというところで個人の長所とか、個性であるというところがあったと思いますが、今日のような活躍をしてくれるのではないのかな。チームを引っ張ってくれるんじゃないかなと。それは確信していました」

あらゆるシチュエーションを想定し、準備をする。決して博打はしない。いわゆるマジックと言われるものもこのチームには存在しない。長谷部監督が大切にしているのは、常に全員を見ること。評価基準をぶらさないこと。これまでの試合で直前の試合から多くのメンバーを入れ替えたときもあった。だが、「ターンオーバー」という言葉は決して使わない。「コンディションが良い選手。それがその試合のベストメンバー」。全員が常に試合に出られるチャンスがある。その為に日々選手を見て、変化を逐一察知し、各選手の個性を活かしながら成長を促す提示をする。全員が満遍なく試合に出られるわけではないが、腐る選手はいない。むしろ、ピッチに立つ仲間を必死に応援している。例え、出場機会が少なく福岡を離れた選手でも退団の際には感謝の想いを述べ、今でも福岡を気にかけてくれている。お互いをリスペクトし合いながら全員でハードワークする。どんなに強い相手だろうが、ひるむことなく戦い続けるのが福岡だ。この大舞台でもその姿勢が変わることはなかった。そんな印象を長谷部監督に話すと「嬉しかったです」と微笑みながら「おっしゃった『ひるまなかった』。この言葉が非常に大事だと思います。アビスパ福岡にこれまでもこれからもずっと横にいるというか、つきまとう言葉だと思います。相手が大きい、強い、速い、上手い。そういう相手に対して自分たちがどうしていくのか。ひるまず向かいます。ひるまず挑んでいきます。それができたんじゃないかと思います」。

長谷部監督が福岡にやって来て4年目。毎年、着実に一つ一つレベルを上げ、これまでの様々な歴史を塗り替えながら遂に手にしたクラブ初のタイトル。だが、謙虚に挑む姿勢はこれからも変わることはない。長谷部監督がそういった姿勢で発する言葉はシンプルで分かりやすく、あらゆる人の心に響く。様々な選手の話を聞いていても同じ言葉が出てくることがよくある。宿舎での記者会見でこんな場面があった。それは今大会を振り返ってという質問が出た時。奈良竜樹が「この大会のレギュレーションはU-21の選手が一人エントリー、スタメンで出ないといけないということで初戦で森山選手がケガをして、そこから予選リーグはユースの選手がチームに帯同して、試合に出場してもらって、その中でもグループステージを首位で突破して、そこから後輩の想いを引き継いだ(森山)公弥が良いプレーをして決勝までやってきてその中では城後さんの(ホーム)鹿島戦でのゴールだったり、その試合でのウェリントンのロスタイムでのゴールだったり、若い選手から最年長の選手まで全員が関わった大会でタイトルを獲れたというところ。チーム力、チームの一体感を大事にしているアビスパにとって本当に意義のある大会だと思いますし、怪我をしてしまった選手も含めて全員で勝ち取った。もちろん、リーグ戦も天皇杯も大事ですけど、このルヴァンカップでそういういろんな選手が関わった。一番多くの選手が関わった大会だと思うので、その大会で優勝できたのは嬉しいです」と言うと、前は「奈良くんが言った通りです(笑)。ほとんど全員が出場してつないできた今日のゲーム(決勝戦)なので、今日出た選手だけではなく、ピッチに立てなかった選手も含めてここまで来た大会で、そういう大会でタイトルを獲れて嬉しかったです」と発言。その後に長谷部監督はこんな言葉を残した。「キャプテン(奈良)が全部言ってくれました。そのキャプテンを選んだのは私です。前キャプテンの前寛之。キャプテンを退いてもキャプテンをサポートする副キャプテンになってもらっています。以心伝心の手前まで来ています。2人は私の考えていることを全て分かってくれているかのように発言してもらいました。奈良キャプテンが言ってくれたそのままです。偶然ですが、良いマネジメントができました」。そのやり取りを見聞きしていると、決して偶然ではなく、選手がピッチで輝くために日々チームの一体感を醸成させる長谷部監督のチームの姿をよく表していた。

選手のみならず、誰に対しても気配り、心配りを忘れない長谷部監督。福岡に関わる人々は「理想の上司」と称するほどサッカーチームの監督という域を超え、組織をマネジメントする一人の人間として愛し、尊敬している。宿舎での記者会見終了後、近くを通りかかった長谷部監督に改めて「おめでとうございます」と声を掛けると「ありがとう」とすっと右手を出して握手を求められた。「こちらこそありがとうございます。福岡に来ていただいて。福岡を最高のチームにしていただいて」という想いで手を握らせてもらった。福岡の歴史が変わった2023年11月4日。これまでの苦しかったこと、辛かったことが報われた日になった。

Reported by 武丸善章