Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:福岡】涙の復活ゴール。ルキアンが発揮したストライカーとしての真骨頂

2023年11月13日(月)


パナソニック スタジアム 吹田は、声援がよく響く。アウェイとして来た身からすればそれは大きなプレッシャーとなる。

明治安田生命J1リーグ第32節のガンバ大阪戦。1-1で迎えた80分。大ブーイングを浴びながら山岸祐也が放ったPKは東口順昭(G大阪)のセーブに遭い、逆転ゴールは阻まれた。その瞬間、青黒の熱は一気に上がる。流れは相手に傾くかと思われた。だが、長谷部茂利監督は冷静に戦況を見つめていた。もう一度、自分たちに流れをもってくるべく交代カードを切る。そこで選ばれたのがルキアンだった。

「あの時間、(ルキアン)投入の前の段階で悪かったかというとそんなに悪くなかった。チームとしては流れは少しあったので。ただ、亀川(諒史)の投入もそうですけど、相手に少しミスがあって、また我々に(流れが来る)というような相手のタッチラインに出てしまったミスがあったんですけど、あの前辺りは少し相手にボールが渡って相手に押し込まれそうな感じに。また悪い状況になるんじゃないかなという中での相手のミスだったんですけど、その辺のゲームの流れでそろそろ(ルキアンを)入れたほうがいいんじゃないかなというのは、交代回数も含めていけるんじゃないかなという。そういう『かな』です」

8→9。81分、第4の審判員によって交代選手の表示が掲げられる。9月10日、JリーグYBCルヴァンカップ準々決勝第2戦以来、約2カ月ぶりの復帰。ルキアンは右シャドーのポジションについた。

「ベンチから久々の出番を待っているというその瞬間はドキドキしたり、試合は本当にチームとして素晴らしい試合をしていたので、もしかしたら出番はないかなと思いつつもいつチャンスが来てもいいように準備はしていました。監督が自分のプレーを信じて使ってくれたので、それに応えるゴールができて本当に良かったと思います」

仲間を救うゴールが生まれたのは89分。ゴールにつながるクロスを上げた田代雅也が「ローテーションをしてサイドに人がいなかったので、ここは前にいけるなと思って前に出たところに(パスが)入った」と言うようにチームとして設計された位置取りでボールを循環させ、敵陣深くに侵入。その中で作った右サイドからのチャンスをストライカーは確実に仕留めた。


「正直ゴールの瞬間というのは覚えていないと言えば覚えていないんですけど、魔法の時間。本当に時が止まったような素晴らしい瞬間だったと思いましたし、自分がいろんな苦労をしてきて、いろんな苦しい思いをしていて、ああいう瞬間を迎えられたというのはいまだに信じられていないので、どう起きた、どう決めたというのは正直覚えていないです」

覚えていないと本人は言うが、そこには9番としての本能が詰まっていた。こぼれ球を拾うとボールを味方に預けてペナルティエリア内に侵入。マークについていた相手のクォン ギョンウォンの死角へスッとポジションをとり、フリーの状況を作り出してジェスチャーでボールを要求。ディフレクションはあったが、反応に遅れはない。しっかりと頭でボールを捉え、ゴールに突き刺した。そこには確かな技術とセンス、そして、田代が「中にいる人(ルキアン)の気持ち、(ゴールを引き寄せる)引力があった」と言うほどの強い想いもあった。

ルキアンは今シーズン、ケガに苦しみ続けた。第25節の京都戦で負傷交代。復帰した先述の試合で再度負傷。左ハムストリング肉離れで全治3カ月と診断を受ける。今シーズン絶望の可能性もあった。それでも、気持ちを切らすことなく、計り知れないほど苦しいリハビリを乗り越えてこの日ピッチに戻ってきた。そして、生まれた劇的な逆転ゴール。その直後、ルキアンの目には自然と涙が溢れた。その意味を痛いほど知るチームメイトはすぐさま駆け寄る。そこには普段、相手のリスタートをすぐに始めさせないようセンターサークルに「門番」として立つ奈良竜樹の姿もあった。その光景を見て、以前、奈良が話してくれた言葉を思い出した。それはルキアンが再度負傷した試合後のミックスゾーンでのこと。

「(井上)聖也もそうだし、ルキアンもそうだし、(佐藤)凌我もそうだし、凌我は今年難しいですけど、聖也とかルキアンとかもしかしたら戻ってこられるかもしれないし、その時に試合がありませんじゃなくて、彼らのモチベーションになるように少しでも試合を(残して)、目標があったらいいなと思うし、それまで僕も歯を食いしばって戦い続けたい」

ルヴァンカップ優勝に導いたチームの中心であり、ここまでチームを支え続けているキャプテンのその言葉をこの日チームを救ったルキアンにどうしても伝えたかった。彼は深く頷きながらこう言葉を残してくれた。

「まず怪我をした選手、佐藤だったり、井上だったり、自分もそうですけど、奈良がそう言ってくれるのもありがたいですし、その3人が怪我をして引き締まったというのもあるんですけど、もともとこのチームは団結力がどこよりも強いものがあるので、彼ら(チームメイト)は怪我した選手の分も頑張ってくれましたし、こうやって苦しい怪我をして(全治)3カ月と診断されましたけど、それを2カ月で戻れたということは本当に努力してよかったと思いますし、そうやってどんなに苦しい時も絶対に戻ってやろう。みんなと一緒にやろうという思いで頑張ってよかったなと思う。このチームの強さをまた今日こうやって示せたんじゃないかと思います」

仲間の苦しみも分かち合い、みんなでカバーし合いながら個々の力を最大限に発揮するのが福岡。「全ての方々に感謝の気持ちでいっぱいですし、そういう感謝を(ゴールという形で)応えられてよかった」。チームメイトだけでなく、試合前日に第3子を出産した夫人や家族、友人、サポーター、福岡に関わる全ての人々への感謝の想いを力強い言葉で紡いでくれた。

「チームとしてもすごく大事な選手だし、彼にとってもこのゴールはすごく大きいし、残り2試合に向けてもすごく弾みの出るゴール」(田代)。頼もしい男が一体感の強い福岡に帰ってきた。「おかえり、ルキアン」。大阪の秋風に冷やされた体とは対照的に心は温かくなった。

Reported by 武丸善章