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【取材ノート:大宮】志半ばでクラブを去る大山啓輔、その胸中

2023年11月30日(木)


部屋に飾られている大宮アルディージャのカレンダー、その11月に使用されている写真は、2022年の明治安田生命J2リーグ第33節、モンテディオ山形戦の1シーン。89分に劇的な同点ゴールを決めた小島幹敏と、ラストパスを送った大山啓輔との抱擁のワンカットなのだが、“今月がこの写真か…”と、見るたびに何とも言えない思いがこみ上げてくる。

11月17日、大宮は大山との契約満了を発表した。

単純に数字だけを見れば、受け入れざるを得ないかもしれない。2018年の38試合をピークに、それ以降も毎年20試合前後の出場を続けてはいるが、2020シーズン以降はその半分以上が途中出場。今季の先発出場はわずか4試合にとどまった。プレースタイル的に速いとか強いとか、わかりやすい特長がある選手というわけではなく、来年は29歳という年齢も考えれば、あり得る話ではある。

一方で、出場機会の減少はクラブの迷走ともリンクしている。2018年にはレギュラー選手としてJ1参入プレーオフ進出に貢献した。はまらなかった故の不幸、とも感じていて、何かが違えば、大山が中心選手としてバリバリ活躍する世界線もあったんだろうな、とも考えてしまう。

1期生として大宮アルディージャジュニア(現大宮アルディージャU12)に加入。以後、ジュニアユース、ユースと順調にステップアップ。ユースでは高校1年生から10番を背負った。トップ昇格の際は、クラブレジェンドである斉藤雅人氏(現大宮アルディージャVENTUS U-18監督)が温めていた15番を託される。自身でも「これからミスターアルディージャのような選手になっていくように、より一層頑張っていかないとな、と思っています」と語っていたが、例えば創業者社長の二代目のように、活躍を期待されるというよりは義務付けられてしまい、それゆえ批判の矢面にも立たされる、そんなプロ10年間だったようにも感じられる。

第41節の清水エスパルス戦で今季の21位以下が確定した直後、クラブが復活するためには何が必要か、と大山に質問すると、「たぶんクラブも選手たちも、目に見える改善すべき点はみんなで何とかしようと数年間、毎年取り組んできている。本当に“わからない”というのが正直なところ」と前置きした上で、次のように続けた。

「力不足でできなかったことはあるけど、やれるのにやらなかったことはもうそんなにない。ここまで来ると、“自分なんじゃないか”“自分がいるからダメなんじゃないか”と思うぐらい…。それで変わるならそのほうがいいと思うぐらい、できることはしてきた」

ただの一選手がここまで考えるのか――。ここまでのキャリアがそうさせてしまうのかもしれないが、何と辛く悲しい言葉か、聞いていて心が痛かった。



来季については未定だという。「いろんな人が自分みたいなバックボーンを持った選手に期待してくれていた。ただ、それに自分が応えられなかったことが、本当にそれだけが心残りですね」と語っていたが、そうした思いが、もしかしたら足かせにすらなっていたのかもしれない。今度はしがらみのないところで、素の大山啓輔として大暴れしてほしい。それこそが、これまで応援してくれた人たちへの、何よりの恩返しになるだろうから。


Reported by 土地将靖