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【取材ノート:福岡】大切な仲間と共に。今シーズン最多の観客の前で見せた永石拓海の奮闘。

2023年12月5日(火)


「Jリーグの中でもすごくレベルの高い試合ができたんじゃないかなというふうに思っています。最後の最後まで両チームが死力を尽くして戦い合いました。試合の流れの中でも、残りの20分、25分に関して言えば、自分たちが完全に押していたゲームだったというふうに思っています。良いシュートまで行けたシーンもありましたが、相手のゴールキーパーのファインセーブに遭いました」


明治安田生命J1リーグ第34節のサンフレッチェ広島戦。敵将ミヒャエル スキッベ監督の言葉がこの試合を物語っている。強度の高さ、切り替えの速さ。互いのチームが現代サッカーのベーシックな部分を高いレベルで連続して繰り返し表現し合う中で、ACL出場権獲得へ3位を死守するべく相手はシステムを変化させながらクオリティの高い攻撃で時間を追うたびに前への圧力を強めてくる。それでも、粘り強く対抗するのが福岡。その最後の砦として永石拓海が立ちはだかった。

79分、エゼキエウの的確にコースをついたヘディングシュート。83分、加藤陸次樹の強烈な右足シュート。88分、塩谷司のニアへの鋭い右足シュート。90+5分、マルコス ジュニオールの右足から放たれた高精度のFK。容赦なく襲い掛かる紫の猛攻を必死に弾き返す。

「このチームでできる最後の試合。負けられない」

永石の強い想い。それに応えるように紺色に染まったゴール裏を中心とした力強い声援が背中を押す。シュートストップを繰り返す度に大きくなる彼のチャント。今シーズン最多となる18,309人が詰めかけたベスト電器スタジアムの熱気は最高潮に達した。タイムアップまであと少し。「頼む。踏ん張ってくれ」。

だが、その願いとは裏腹に90+6分に堅く閉ざしていたゴールは打ち破られた。

「自分たちのサッカーがなかなかできない中で、耐える時間が長かった。本当に最後の最後にやられてしまったので悔しい。中のマークのチェックだったりとか、ポジショニングのところを指示するとか、本当に細かいことだと思うんですけど、それで試合が決まっちゃう。個人としても来シーズンに向けて良いパフォーマンスを見せるべきところだったので、そんな中で勝ち切れなかったというのはシンプルに悔しいです」

長い手足を活かしたシュートストップやハイボールの処理、最終ラインの背後のスペースのケア。そして、柔らかく美しいフォームから放たれるロングフィートを特長に今シーズンはキャリアハイとなるリーグ戦14試合、ルヴァンカップでも7試合に出場。決勝の舞台にも立ち、福岡のクラブ初タイトル獲得に大きく貢献したが、心の中では葛藤があった。

「もちろん、今までで以上に試合に使ってもらって、でも試合に出れない時間もあって、自分の中で何回も今やっていることが正しいのかなというのは自分の中で何回も自問自答しました」

そんな彼をチームメイトが助けてくれた。共に励まし合い、共に切磋琢磨し合ったゴールキーパーチームと言う名の大切な仲間。今シーズン、永石と共にゴールマウスを守ることの多かった村上昌謙が以前教えてくれたことがある。

「ナガ(永石)も、サカ(坂田大樹)、(山ノ井)拓己も含めて誰が出ても結果は変わらないと思います。それぐらい自分たちの中で競争をしているし、それだけの準備を全員がしている。メンバーに入れなくても腐らずやっている。そういうところの素晴らしい人間性の2人(坂田と山ノ井)だからこそ、僕ら出ている側の人間(村上と永石)としてできることはあると思うし、やらないといけないという責任があると思っています。そういったものを持って戦えているし、キーパー4人で1つのゴールを守るという考えを、しっかりとみんなで持ってやれています。毎試合が競争で、最終的にシゲさん(長谷部茂利監督)が選ぶので、僕たちは選ばれるように練習して良いコンディションを作るだけだと思っています。その結果がスタメン、ベンチに関係なく、常に誰が出てもいいように、その為に自分が選ばれ続けられるように何をするべきか考えるべきだと思いますし、それがチームのキーパー4人ともできていると思います」

ゴールキーパーはポジションが一つしかない。基本的に試合途中で交代が起こることはないし、フィールドプレーヤーのように出場機会が巡ってくるチャンスも少ない。その中で、いつ訪れるか分からない出番に対して、どう考え、どのように立ち振る舞いながら準備をするか。試合に出ることが一番の評価になるプロの世界。胸の内にはいろいろな感情を抱いているはずだ。それでも、そんなことを一切見せず、この日、ベンチに控える村上はいつもと同じように永石を必死にサポートしていた。そんなことを永石と話すと、こんな言葉を残してくれた。

「誰でも(そういうことを)できるわけじゃないと思うので、それができるチームメイトだからこそ、こういう切磋琢磨できる環境があって、『自分だけじゃない』とすごい感じますし、そういうのは僕の成長につながっているんじゃないかなと思います」

大切な仲間と一つの壁を乗り越え、日々成長を実感しているからこそ、もっと上を目指したいという気持ちは強くなっている。彼は次なる課題を口にした。

「パスの質だったりとか、味方から受けたボールをもっと自分で時間を作るところであったりとか、慌てない。流れをもってくるとか、試合の中でチームを落ち着かせたり、チームを活気づけたりというのはすごく大事だと思うので、そういう立ち振る舞いというところも磨いていかないといけないと思います」

背番号1が成長の歩みを止めることはない。理想の守護神を目指して走り続ける。

Reported by 武丸善章