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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:後輩たちへ伝えることの重要性。丸山祐市、米本拓司が見せた“本気”のプレー

2023年12月7日(木)


「さすがにガチではないですよ、さすがに」。息を切らせて米本拓司が笑った。12月3日に今季の全日程を終え、4日にチーム解散式を済ませた5日、丸山祐市と米本のふたりは名古屋のアカデミー、U-15とU-14の選手たちが練習を行なうグラウンドに姿を見せた。オフの恒例行事としてトップチームの選手たちがスクールやアカデミーの練習を訪問することは珍しいことではないが、あくまでもそれはイベント的なもので、憧れのプロ選手に話を聞いたり、一緒にボールを蹴ったりといった程度のものがほとんど。もちろんそれだけでも子どもたちにとっては貴重で重要な体験にはなるものだが、今回のふたりの訪問はちょっと訳が違った。

今回、彼らが訪れたU-15、U-14の選手たちは次週から今年最後の公式戦である高円宮杯を控える身なのである。米本はそれを知り、選手たちからの質問にもできるだけ真摯に、そして実践的に答えていたように聞こえた。丸山も自らの体験や感覚をできるだけ実際のプレー環境に即した形で説明するよう努め、そのせいか選手たちの表情は通常のこうしたイベントとは段違いに真剣に見えた。たとえば「対峙していて嫌だったボランチは誰でしたか」というボランチの選手からの質問は、自分がどう変わればいいかという意図も含まれたものであることは間違いなく、丸山の答えはそれをしっかりと汲み取ったものだった。



「他のチームで申し訳ないんだけど、川崎の選手、特に中村憲剛さん。なぜかって、常に前を向くから。僕がFWと駆け引きしている時に、『中村憲剛さんならここは通してきちゃう』って隙を作ると通されちゃうから。常に前を向いて、常にゴールに直結するようなパスを狙っているボランチは、僕はやっていて嫌だったな」

こうした実践的な質疑応答を経て、練習が始まっても丸山と米本の“講義”いや“実習”は続くどころかヒートアップした。U-14のトレーニングに加わったふたりはこの日は対人に特化したところのあるメニューで良い意味で容赦なくプレー。余裕を見せるようなことはせず、1対1の守備では楽しみながらも球際に緩さは見せなかった。そこで冒頭の米本の台詞につながっていくのだが、見た目には「中学生相手に厳しく行くな…」という強度に見えた。

最後の9対9のゲームではそれぞれが自分のポジションに入り、コーチングも激しく真剣にプレー。ここでもプロならではの技術を見せたり、普段は守備的な選手だけどゴールを狙ってみたり、ということはなく、あくまでのチームの一員として勝利に執着。米本は始まる前に「いいか、負けていいゲームなんてねえぞ」とその場を引き締めることまでした。だから選手たちに笑顔はほとんどなく、真剣に目の前のボールに、相手に対してプレーし、身体を張ってゴールを目指した。それはまさしく、先輩が後輩たちに身をもって教え、経験を伝える作業だった。

「僕がJユースの時にこうしてトップチームの選手と触れ合う機会はなかったので、笑ってやるというよりも真剣にやることで、直接感じてくれることがあるのかなと。たとえばコーチングが大事、ということも、口酸っぱく言い続ければ、言われた選手たちはそれが大切なんだとわかると思う。それが伝わってくれたらなと思って」(丸山)

「僕らがああやってちゃんとプレーしてみせることで、グランパスを強くする。こういうところでやってみたい、って思わせられたら、また上を目指せるきっかけにもなると思うので。実際に僕も高校の時に高いレベルでやったことで、初めてこの高いレベルでやりたいと思ったので、見せることによって、刺激を与えていきたい。このチームの今じゃなく、5年後、10年後の彼らが、『そういえばあんなやついたな』って覚えててくれたら」(米本)

見ているだけでも素晴らしい機会になったに違いないと思える1時間半ほどの“特別講義”。アカデミーの選手たちは目前の大会だけでなく、今後の成長に対しても大いに刺激を受けたはずである。こうした取り組みはもっと増えたら良いなと思う。米本の願う、5年後、10年後のチームを強くするためにも。

Reported by 今井雄一朗