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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:名古屋が見せた劇的な逆転勝利。その裏にあった一種の“賭け”

2024年4月1日(月)


あまりに美しい2つのゴールで飾られた横浜FM戦の逆転勝利は、試合の内容としては非常に泥臭く、粘り強く闘った末にもぎ取られたものだった。前半のうちに山岸祐也とハ チャンレという攻守の要がアクシデントにより交代することになり、ゲームプランなどあってなきがごとし。相手の戦術にも個人能力にも手を焼く場面は多く、先制点の場面はさすがの決定力、仕留めにかかる迫力を見せつけられるようなところもあった。ただそれだけにチームとしては自信や手応えをつかむに十分な結果とも言え、開幕3連敗のショックももはや、自ら吹かせた追い風によってすっかり拭い去れた気すらする。


ところでこの一戦、名古屋が普段とは違う戦い方をしていたことは見た目にも明らかだった。今季のベーシックな戦術として、彼らは“右肩上がり”の可変布陣を取り入れ、3-1-4-2もしくは3-4-3の基本フォーメーションを読んで字のごとく右にスライドして4-4-2のような形をとる攻撃のパターンを持つ。だが、横浜FMに対峙した名古屋はその逆で、守備時に左にスライドして4-4-2となり、相手とのミスマッチを埋める策をとっていた。“左ウイングバック兼左サイドハーフ”を務めた内田宅哉は「守備は機能していたけど、攻撃の部分でなかなか機能させられなかったのは反省点」と語り、「守備もできる、攻撃もできるという中間の立ち位置をとって、攻撃になった時にどれだけ前に出られたか。そこにもう少し駆け引きが必要だった」と60分間のプレータイムを振り返っている。



ただ、この可変システム、前節から2週間とたっぷりあった準備期間で練り上げてきたものかと言えば、どうやら違ったようである。チーム最長の12.4kmを走り抜き、攻守の献身性をもって勝利を支えた稲垣祥は、ギリギリのところで闘っていたピッチの内実を、仲間への称賛とともにこう話している。

「形がいきなり“あれ”になった割には、みんなうまくやったなっていうところはありますね。けっこうギリギリであのやり方になったんです。だから何回も確認をやれていたわけでもない形で。その割にはやれたけど、前半のところでちょっと重くなっちゃっている部分は否めなかったですね。それは前半で修正をしようと思えばできたとは思うけど、そんなに大きくやられているわけではなかったのでね。ちょっと重くなっているだけで、なら前半はあのまま耐えて、ハーフタイムで修正しようと。そういうところまでチームでしっかりやれました。後半はある程度相手に圧をかけながら、低くなりすぎずにっていうのを意識しながら入って、その変化に対してもみんなが対応できたっていうところは、大きな成長かなと思います」

戦い方への確信はそれほど高いわけでもない中、いつもと逆の可変という難しさも抱えつつ、後半の修正まで持ち込めたのは間違いなくチーム力の上昇を証明するもの。主力の思わぬ交代劇で、今季はプレー経験のほぼない3バック中央を任された吉田温紀にしても、実に冷静に自分の仕事を見極め、攻守両面で勝利の立役者の1人となっている。



「ツカくんへのパスですか? めっちゃ見えていました(笑)。前を見た時、けっこう斜めに膨らみながら行く動きだったので、上島(拓巳)選手の背後に落とす感じで出しました。ちょっと長かったかなと思ったんですけど、決めてくれたんでよかったです。守備もボランチで出るよりやっぱり緊張しました。ゴール前で1回、ロペス選手にヘディングをフリーでさせてしまったので、そこはもっと粘り強く身体を当てていかないといけないなって思いましたけど、それ以外は足を出さずに身体でついていってボールの処理に入っていくところはできたので。粘り強く、ゴールはやらせないってところは継続してやっていきたいです」

この一戦はハ チャンレの交代が脳震盪の疑いによるものだったため、結果的に名古屋は7名のベンチメンバーのうち6名を起用するまさに総力戦を仕掛けてもいたわけだが、ただ人数が多く使えただけで試合に勝てるわけでも、優位に立てるわけでもない。重要なのは戦力が戦力足りえること。その意味では同点ゴールのアシストの吉田、決勝点の山中亮輔、そのFKを得る仕掛けを見せた倍井謙など、この日は交代出場の選手たちが勝機を引き寄せるプレーを見せたことも大きかった。一昨季と、特に昨季はこの部分にキャプテンとして言及することの多かった稲垣は、ようやくという情感もたっぷりに総力戦の勝利を語る。

「本当にそれが大きいなと僕は思っていて。もちろん途中から出る選手には簡単なゲームじゃなかったし、入っていくだけで難易度の高いミッションだったと思うんです。その中でもよくやってくれた。僕もずっと言い続けているサブの選手、12人目以降の選手がどれだけゲームを活性化できるか、チームに刺激を与えられるかってところでは、今日はほんとに途中から入った選手全員が素晴らしい働きをしてくれたし、彼らがこのゲームを勝ちに導いてくれたと思う。そういうチームになってきたっていうところも大きな、大きなポイントかなとは思います。1失点してからも、同点になってからも、0か100かじゃなく、しっかり締めるところは締めながら、堅くするところは堅くしながらゲームを進めて、1点取って、最後に逆転の得点を取るゲームの進め方ができたのも今後の指針になると思います」

3連敗から仕切り直したチームはまずは闘うこと、ソリッドに試合を進めることを改めて念頭に置き、連勝のきっかけを生み出してきた。際どい攻防の中で先制された後、気落ちしてしまうところは連敗の中には感じられたこともあった。だが吉田は「1点取ってから全員が逆転しようって気持ちになったと思うし、全員が前向きにプレッシャーかけて、どんどん前にボールをつけていこうって意識になっていた」と話す。彼自身も最初はやや控えめのプレーが多かったが、同点後には大胆なパスを次々と前につけ、逆転の場面も倍井の一つ前、パスを送った稲垣へとボールを送り届けている。ベンチから見守るしかなかった内田は「失点は自分が失ってからの流れで、交代した選手がそれを取り返してくれた。今日はチームのみんなに救われました」と感謝した。想定内も想定外もすべてをひっくるめて勝ち取った勝点3と連勝に、稲垣は名古屋の本領発揮を口にする。

「たぶん健太さんもこういうゲームをしたくて、去年からいろいろ試行錯誤しながらやってきたと思うし、ホームに今日見に来てくださった方々は“熱さ”を感じることができたゲームだったと思う。そういう何か伝わるようなものを表現できるゲームができたのは、ひとつチームとしては大きな手応え、成長かなと思います」

闘ってこそ名古屋、打ち克ってこそ名古屋である。その体現となった横浜FMからの逆転勝利は、稲垣の言う通り今後の彼らの指針となる、「名古屋の勝ち方」としてターニングポイントとなり得るものだった。

Reported by 今井雄一朗