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【取材ノート:福岡】日々の積み重ねが生んだ強敵に風穴を開ける1つのアシスト。湯澤聖人が考えるサイドプレイヤーとしての責任

2024年4月14日(日)


明治安田J1リーグ第8節広島戦の22分、ベスト電器スタジアムがどっと沸く。ここまでJ1最少失点の紫の牙城を崩したのは、右WBに入る湯澤聖人の力強い突破からだった。

ドウグラス グローリからの浮き球のパスを受けると鮮やかなターンで相手を置き去りにしてペナルティエリア付近へ。最後はバランスを崩しながらではあったが、ファーサイドにポジションをとったFWシャハブ ザヘディへクロスボールをしっかりと届け、リーグ戦では2022年11月以来となる今シーズン初アシストを記録した。


「サイドで(ボールを)持ったら(相手と)1対1になると分かっていたので、今日はそこで突破できるのか、それとも突破を防げるかが勝負の分かれ目になると思っていたので、積極的に行って突破できてよかったです。シャハブ選手はよく映像を見返すと相手のCBの奥らへんにいることが多かったので、そういったところを見ていて感覚で上げたような感じでした」

立ち上がりから彼らしいプレーの連続だった。相手のWBを引き込み、その背後のスペースに長いボールを入れて、そのスペースに走り込むスピードが特長の右シャドーの岩崎悠人やサイドに流れてくるシャハブにボールを預けると、すぐさまスプリントしてサポート。ボールを持つと積極的に縦へと仕掛け、失ってもすぐさまプレスバック。豊富な運動量で上下動を繰り返し、球際のバトルでも負けない。攻守にタフに戦い続けて右サイドの主導権を握り、52分には本人が「狙い通り」と言うこの日シャハブへの2つ目のアシストになりかけた高精度クロスを見せるなど何度もチャンスを作った。

そして、筆者が心揺さぶられたのは終盤の苦しい時間帯に見せたプレーだった。79分、右サイドで岩崎と紺野和也が作り出したカウンターチャンス。その瞬間、湯澤はゴールに向かって猛烈なスプリントで中央を一直線に駆け上がった。そこにはWBでプレーする選手としてこんな考えがあったと言う。

「相手が間に合ってなくて半歩ぐらい前に出れそうだったので、ワンチャンスあるかなというのと、(自分が)意識しているのはシャドーの選手と1トップの選手が孤立することが多くて、そこにWBの選手とかボランチの選手が関わらないと攻撃に厚みは出ないと思っていたので、そこに関わるような走りは心掛けて、そのやっている延長で真ん中が空いたので行きました」

だからこそ、今の湯澤がより追い求めているのは攻撃の質だ。5試合で3ゴールと抜群の決定力を誇るシャハブやストロングヘッダーのウェリントン。相手の脅威となり、チャンスになり得る場所に位置取る頼もしいストライカーに対してこんな想いを抱えながらプレーしている。

「シャハブ選手もウェリントン選手もそういう選手なのであとは僕たちのクロスの質とかサイドにいる選手の質にかかっているところではあるので、逆に言えば彼らが得点を取れていないということはサイドの選手、僕のパフォーマンスがあまり良くないのかなと自分の中で責任を感じているので、1本とりあえずいけてよかったです」

そんな強い責任感があったからこそ生まれたこの日の素晴らしいアシスト。「なかなかピンポイントでああいうクロスを上げるのは難しいんですけれど、練習の成果」と長谷部茂利監督が評するように常に成長しようと日々鍛錬に励む湯澤の姿勢はチームメイトにもしっかりと伝わっている。彼とともに福岡にやって来て5年目となる同じ右サイドでプレーするCBのグローリも全幅の信頼を寄せる一人だ。

「日頃から見ていて本当に彼は努力家でこういうゲームでも素晴らしいパフォーマンスを出せるということは心強いですし、お互いが長いこと一緒にプレーしていて、お互い信頼し合っている仲なので、こうやってチームメイトが素晴らしいプレーをしたときは自分のことのように嬉しいですし、彼が近くにいるとやりやすいですし、きっと彼も同じように思ってくれたらと思います」

長いシーズン、常に高いパフォーマンスを出し続けることは、世界的な選手でも難しい。湯澤も例外ではなかった。昨シーズンは、ケガやコンディション不良に苦しんだ時期もあり、今シーズンも開幕当初はなかなか波に乗れなかった。それでもここに来て戻ってきた彼本来のパフォーマンス。どんなに苦しい時でもめげずに自分と向き合い続けられたのは「言霊ってあると思うんですよ」と常に前向きな言葉を発していた大学のチームメイトであり、昨シーズンまで福岡で共にプレーした山岸祐也(現名古屋)から授けられたポジティブなメンタルが大きいと言う。

「自分の波を最小限に抑えつつ良いパフォーマンスを続けていきたいと思います」。心身ともに充実している背番号2のさらなる躍動に期待したい。

Reported by 武丸善章