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【取材ノート:今治】その先へのチャレンジがチームを加速させる

2025年4月25日(金)


初めて明治安田J2リーグに挑む今シーズン、ここまでのFC今治は、スタートダッシュに加えて、上位で戦う十分な質を伴いつつある。開幕のブラウブリッツ秋田戦こそ0-1で惜敗したが、以降は負けなし。第10節はホーム、アシックス里山スタジアムにRB大宮アルディージャを迎え撃った。

昇格組の対戦となったが、勝点3差で2位の大宮を追う今治は4位。まだ気は早いとはいえ、プレーオフ出場圏内だ。時間の経過とともに、互いに勝ちに出てオープンな攻め合いとなった白熱のゲームは、それぞれのGKの好プレーもあって譲らず。0-0で勝点1を分け合った。


FC東京から今季、期限付き移籍中のセンターバック、大森理生は、安定感の出てきたチームの戦いぶりを次のように見ている。

「ボールを持っているときのエラーが少なくなってきました。J2はガッと前からボールを奪いに来たがるチームが多いけれど、プレッシャーを受けてラフに蹴ってしまうのではなく、つなげるところはつないでいくチャレンジができている。それというのも、変なボールの奪われ方をしないからこそ。だからといって足下でつなぐばかりにならず、ロングボールで相手を裏返すこともできています。バランスよくできているし、それが守備の安定にもつながっていると思います」

パスをつなぐ技術とセンスを兼ね備えた大森だからこそ、「ボールを奪ったあと、パスコースがたくさんあって、本当に助かっている」と、自身の持ち味をチームが引き出してくれているのを実感する。“奪いに行っても、今治は奪わせてくれない”と相手に思わせるような積み上げができているという。

守備に加えてビルドアップの起点になるだけでなく、大森は第7節・モンテディオ山形戦では1点ビハインドの最終盤、前線にパワーを持たせるために高い位置を取り、まさにラストプレーで劇的な同点ゴールをねじ込んで、アシさとのサポーターを歓喜させた。そのゴールをアシストしたのが、途中交代の左ウイングバック、弓場堅真だ。



小気味よく縦に仕掛けて、利き足の左足からピンポイントのクロスを供給し、今季初アシストした弓場は、昨季は右ウイングバックでの出番が多く、カットインから左足を駆使したチャンスメーク、フィニッシュで存在感を見せた。現状は途中出場が多いが、「与えられた役割をしっかり果たしつつ、いつ出番が来てもいいように準備し続けている」と虎視眈々だ。「一喜一憂せず、同じことをやり続けることが大事。ここから連戦だし、どのタイミングで自分にチャンスが来るか分からないですから」とブレていない。

JリーグYBCルヴァンカップ 1stラウンド 2回戦・セレッソ大阪戦で弓場は先発し、77分までプレーした。ターンオーバーを取ったチームは0-2から一度は逆転したが、延長戦で力尽きた。持っているものを出し切った試合で得られた手応えと気づきは大きい。

「J1のチームと対戦できるのは、こういうカップ戦しかないので、本当にいい経験になりました。リーグからメンバーを入れ替えてあそこまでやれたことがポジティブな点であり、逆に勝ち切れないというところが普段、リーグに出ているメンバーとの差なのかな、と感じました」

ルヴァンカップの経験をリーグ戦にフィードバックすることは、チーム力アップに直結する。

弓場が主戦場とするウイングバックは、チーム内の競争が激しいポジションだ。地元出身で運動量豊富な近藤高虎、スピードと高さを守備に生かすだけでなく、最近は攻撃面でも持ち味を発揮しつつある市原亮太、両サイドを高いレベルでこなす阿部稜汰など、それぞれ個性の際立つ選手が揃う。ルヴァンカップのC大阪戦で弓場と交代したU-20日本代表の梅木怜も、その1人だ。

C大阪戦では、対峙したルーカス フェルナンデスのパワフルな突破に対応しきれず、悔しい思いをした。

「マッチアップした相手に抜かれてクロスまで持っていかれるのは、ウイングバックとして一番ダメだと思う。まだ相手に遠すぎたり、近すぎたりして止めきれないことがあるので、間合いをつかもうと取り組んでいます」

高卒2年目の若きウイングの魅力は、何といってもスピードを生かした攻撃参加とピンポイントクロス、そして高校1年までFWだったというのもうなずけるシュート力だ。

「自分は仕掛けるところをどんどん出して行かないといけません。本数を増やすだけではなく、クロスやシュートの精度も上げないと。カットインして左足で上げるクロスにも取り組んでいます。仕掛けることで相手もいやがるし、まだまだちゅうちょすることもある。自信を持ってやれるように練習します」

今回、取り上げた3選手ともが、自分の武器と課題をしっかり把握していて、真摯に向上に取り組んでいる。彼らの姿勢は、J2初年度に臨むチームの醸し出す空気そのもの。倉石圭二監督の下、チャレンジは続く。

大宮戦の後のオフが明けたトレーニングで、限られたエリアでどんどんシュートを打つシチュエーションが生まれるようなメニューが組まれた。チャンスを多く作りながらネットを揺らせなかった大宮戦の反省があるのはもちろん、途切れることなくプレーを続けることで、フィジカルを追い込む要素もあった。

息が上がりながら食らいつく選手たちに、倉石監督が檄を飛ばす。

「ここからだぞ! ハードワークのその先で、クオリティーを見せていこう!」

FC今治は、ただの勢いだけにとどまるつもりはない。質を上げながら、堂々と進んでいく。

Reported by 大中祐二