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【取材ノート:今治】信じて走ったヴィニシウス ディニスが逆転のネットを揺らすとき

2025年4月27日(日)


長身のブラジル人ボランチが全速力でペナルティエリア内へ駆け上がり、右からのクロスをバックヘッド気味に合わせたのは、89分のことだ。ボールは鋭い弧を描きながらファーサイドに吸い込まれ、あざやかに逆転ゴールが決まった。今季、FC今治に加入したヴィニシウス ディニスにとって、初ゴールの瞬間だった。

「とてもうれしかったです。でも一番は、やはりチームの勝利。全員でそれをしっかり勝ち取れたことがうれしい」

アウェイの明治安田J2第11節・レノファ山口FC戦に逆転勝利し、10戦無敗で3位に浮上したチームの一員として、笑顔で喜びをかみ締めた。

チームにはゴールをアシストしたキャプテンでエースのマルクス ヴィニシウス、屈強なFWのウェズレイ タンキ、今季加入したセンターバックのダニーロと、総勢4人のブラジル人選手がプレーする。他の3人は先発で活躍するが、ディニスは合流がチーム始動後の1月終わりと遅れたこともあって、現状は定位置を狙う立場だ。山口戦もベンチスタートで、81分に交代でピッチに入った。

試合は残り10分を切り、1-1の同点。その状況で、やるべきことは明確だった。

「倉石(圭二)監督に呼ばれたときには、すでにゴールを決める強い気持ちでした。分析で、相手は最後の15分くらいに動きが落ち、失点が増えるということも頭にあった。必ずゴールを決めようとピッチに入ったんです。

自分が出る前から、(横山)夢樹や笹(修大)が交代で入ってチームの勢いが増していることも感じていました。われわれは常にゴールを目指します。だからチャンスになるなら、ゴール前に人数をかけるために、自分も絶対にペナルティエリアに入っていかないといけない。そこは自分なりの分析でもありました」

決定機を生み出したのは、仲間を信じて走り続ける姿勢だ。右サイドを持ち上がろうとした笹が、タッチライン際で一度はボールを奪われる。だが、右ウイングバックの梅木怜がすぐに寄せて今治のスローインに変える。間髪入れずにボールを投げ入れる梅木。その前から、すでに笹は前方へと走りだしていた。

倉石監督は、「トラトラ」という言い方で選手たちに足を止めないことを求める。トランジションのトランジションで、この場面でもしっかりと実践された。

すばやい切り替えの連続で先手を取ると、笹からパスを受けたヴィニことマルクス ヴィニシウスが利き足の左にボールを持ち替えて、中の様子をうかがう。クロスはニアに走り込むタンキの後方に、ワンテンポ遅れて入ってきたディニスにピタリと合った。


「ヴィニがドリブルで仕掛けたところで、必ずクロスが上がってくると思っていました。山口の選手はみんなタンキに気を取られていたので、フリーになれるスペースを楽に見つけることができた。タイミング的にちょっと早く入り過ぎましたけど、身長を生かしてバックステップを踏むような感じで頭で合わせました」

ボールの行方は追えなかった。だが次の瞬間、チラッと見ると、そのときにはゴールが決まっていた。歓喜を爆発させるディニスのもとに、次々と仲間が駆け寄ってくる。

出場時間が限られながらも落胆せず、真摯に取り組む姿勢が報われたことを、みんなで喜び合う。その光景にチームの一体感と、強まるきずなが表れた。

先発メンバーだけではない。倉石監督が「インパクトメンバー」と呼ぶ、それ以外の選手たちも力を発揮しながら、この連戦で加速していくに違いない。ブラジル人ボランチの一撃は、厚みを増すチームの勢いを物語っている。

Reported by 大中祐二
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