
開幕戦こそ敗れたものの、それ以降、無敗で走り続けるFC今治が14試合ぶりに黒星を喫したのは、2025明治安田J2リーグ第15節のことだ。首位・ジェフユナイテッド千葉をホームのアシックス里山スタジアムに迎え、0-0のまま試合は終盤に突入。だが、86分にオウンゴールで失点して競り負けた。
ぎりぎりのところで勝点を取り逃しただけではなく、戦いは互角以上だった。特に前半は今治が8本、千葉が0本というシュート数が端的に物語るように、優勢だった。
それを支えたのが連動したプレスだ。マルクス ヴィニシウス、横山夢樹の2トップがスイッチを入れ、後ろがしっかりと付いていく。これがはまった。
今季、新たにチームを率いる倉石圭二監督は、前からボールを奪いに行くことを重視する。指揮官のフィロソフィーであるだけでなく、昨季、初めてのJ2昇格を成し遂げた今治の延長線上にあるからだ。
ただし、ただ激しく、がむしゃらに取りに行こうというわけではない。相手をしっかり分析、把握したうえで、自分たちの強度を最大限発揮することを目指す。試合ごとはもちろん、90分の中でもスタッフ、分析班と常に情報を共有しながら、きめ細やかに戦いを進める。3-1-4-2でスタートした中盤をアンカー1枚からボランチ2枚にしたり、また戻したり。プレスの行き方を変えてウイングバックがジャンプして相手のサイドバックを捕まえに行き、後ろが4バック気味に振る舞うこともある。後半、今治が試合の流れをグッとたぐり寄せて逆転したり、追いつく爆発的な力は、そんな緻密な戦いに由来する。
千葉戦も当然、入念に策が練られていた。ましてや、相手は首位である。右に田中和樹、左に椿直起と強力なドリブラーを両サイドにそろえる千葉に対し、右ウイングバックの弓場堅真と3バック右の竹内悠力、左ウイングバックの近藤高虎と3バック左の加藤徹也と、状況に応じてダブルチームで守る態勢が整えられた。それに伴い、中盤のセンターは新井光、ヴィニシウス ディニスのボランチ2人がサポートするという布陣だ。
前半は特にプレスがはまり、それがシュートチャンスにもつながった。倉石監督が、一定の手応えを得られたのも当然だろう。
「どんどんボールを奪いに行くというより、いつもより少し構える感じでした。その上で相手にとって嫌なところはどこか、整理して選手たちを送り出し、特にボランチが逃げたところはしっかり捕まえられて、何かやらせたわけではなかったところは良かったと思います」
サイドの守備を手厚く臨んだ分、新井、ディニスのボランチは攻守にいっそう走ることを求められた。2人はプレスのスイッチを入れる前線に懸命に付いていって、ボールを刈り取っていった。
それにしても、ハードワークが身上のチームとはいえ、かなりの運動量だ。まもなく暑さの中での戦いも始まる。これだけタフなプレスは1試合の中で時間限定のものなのか、それとも90分、続けたいのか。
「できれば、続けたい」というのが倉石監督の考えだ。ただし、守備に特化してはおらず、補完しながら強度を保って戦うイメージがある。前から奪いに行くことを出発点の一つとして、チームはディティールに目を向けつつ、攻撃を改善するフェイズに突入している。
「攻撃する時間、ボールを保持する時間を増やさないといけないです。これは継続して取り組まないといけないものですが、(後ろが)3-2のビルドアップなのか、4-2のビルドアップなのか、そこにGKを入れるのか。そのあたりがまだまだです。あるいはバランスを崩してでも(攻めに)行くのか、否か。今、その段階に来ています」
日々、鍛錬し、追求していく足取りは確かだ。
「何でもかんでも2トップにボールを集める、というのではなく、ボールを保持しながらどう攻めるかというのが今の課題です。守備のレディー感、『ここで奪いに行くぞ!』というのは、すでにチームの中にしっかりあります。ですが、攻撃のレディー感については、『行くぞ!』となったときにゴール前に1人しかいないとか、ただヴィニ(マルクス ヴィニシウス)頼みになってしまうとか、まだまだ改善の余地がある。
スタッツにはいろいろありますが、千葉戦でわれわれはシュート15本、相手は7本。そのうち枠内シュートはわれわれは前半のディニスのヘディングシュートだけ、相手は2本で、それでもオウンゴールで点を取って、われわれは負けている。
枠にシュートを飛ばすことは、どのチームにとっても課題だと思います。ですが、それにしても千葉戦の自分たちは少ない。じゃあどうするかというと、個人のレベルアップも必要ですし、チームとしてより確率を高める局面を作っていかないといけない。良いサポートに行っているのに判断が伴わず使わない、使えないとか、そもそもサポートがいないとか。より多く枠内にシュートを打つ局面を作ろうという話は選手にしています」
千葉戦で一時停止はしたものの、ここから再び勝点を重ねていくために。J2昇格元年で、15試合を終えてプレーオフ圏内と奮闘し続ける姿は鮮烈だ。だが、今治は「健闘」のその先を目指している。プレスでボールを奪い、枠内を捉えるシュートをさらなるエネルギー源としながら、シーズン中盤の戦いに挑む。
Reported by 大中祐二