2025シーズンの明治安田J1は第17節を迎える。長いシーズンを戦っているなかでは、レギュラーメンバーに故障や出場停止などで試合に出られない選手が出てくるものだ。そこで出場機会が巡ってきた選手がいかに存在をアピールできるかが、“チーム力”という意味でも非常に重要であり、ファン・サポーターにとっては楽しみな部分でもある。
東京ヴェルディは、ケガの林尚輝、千田海人に加え、第15節の横浜FC戦は谷口栄斗が出場停止とセンターバックにアクシデントが重なる緊急事態となったが、その影響でスタメン出場のチャンスを得たDF深澤大輝、MF稲見哲行、MF松橋優安がそれぞれしっかりと持ち味を発揮し2-0の完封勝利。今後のポジション争いへ向け猛アピールに成功した。
その奮闘に大きな刺激を受けたのが食野壮磨だ。前節・湘南ベルマーレ戦、ボランチの平川怜の出場停止をうけリーグ戦プロ初スタメン起用。日頃、東京Vのチーム内で通称『エクストラ』と呼ばる、全体練習後に行われている主に試合メンバー以外の選手による居残り練習で共に鍛錬を続けている面々の横浜FC戦での躍動に、「自分も絶対にやってやろう!」と意気込んでピッチに立った。
後半13分での交代となったが、初めての先発出場の中で感じたことは非常に多かった。
「自分の意識的には、やはり守備の部分から相手に負けないようにというところから入って、特に試合の入りはよかったと思います。でも、攻撃面で少しバックパスとか、前を向けるところで向けなかったりといった課題が新たに出てきました」
ここまでのリーグ戦はすべて途中出場だったため、「多少相手選手に疲れがあったりして、少しプレッシャーが弱まっている部分もあったのかなと。でも、スタメンからだと相手も元気な状態なので、かけてくる圧も途中から入った時とは全然違う。それを身をもって感じられたことはすごく良い収穫でした」
多くの気づきや学びを得られたからこそ、やはり「スタメンで試合に出続けたい」との思いはより一層高まった。
今季でプロ2年目を過ごしている食野は、中盤でボールにたくさん触り、縦パスや決定的なスルーパスなど、より局面を前に持っていく攻撃面でのプレーが高く評価されている選手だ。一方で、ここまでなかなか出場機会が得られていないのは、守備面での課題が大きい。特に城福浩監督が求める守備の強度はポジションに関わらず非常に高く、立ち位置含め、ピッチ上の全員が共通意識をもって連動する必要があるため、理解度も要求される。その中で直面していたのが「ボランチの守備の時のポジショニング」だと本人は自覚している。
そんな大阪出身MFが備え持つ将来性を見越し、親身になって課題克服のためにアドバイスをし続けてくれたのがDF千田海人だった。
第10節ヴィッセル神戸戦。千田、食野ともメンバー入りはしたものの揃ってベンチスタートだった中、共に戦況を見守りながら、千田は食野の無限大の可能性に期待し、懇願した。「井手口陽介選手(神戸)の一挙手一投足を見てて欲しい」と。実は、その神戸戦の前から千田は全体練習後に時間を割き、守備に課題を抱える食野が一刻も早く才能を開花すべく助言し続けていたのである。
千田は、言葉を濁さずその意図を明かす。
「井手口選手は、セカンドボールの予測とかが本当にすごいですし、いわゆる“頑張りどころ”はさすがに日本屈指。リーグ戦で他のチームと戦っているのを見ていても、もう明らかに別格です。なので、せっかく間近で見られる好機だったので、壮磨には『井手口選手をしっかりと見ていてほしい』と伝えました。で、案の定、やっぱりあの試合でもスペシャルだった。
その影響もあったと思うんです。神戸戦翌日の練習で行った紅白戦で、壮磨のプレーは明らかに変わっていました。壮磨の場合、今の時点では、まだ考え方というか、どこを頑張りどころにするかというところがわかっていない。気持ちの部分でも、『そこ、頑張れない?』と思うところが多かったんですよ。だから、『まずはそういう、ある意味、技術云々より前の“ベース”のところをやった上でおまえの持ち味である攻撃のところの良さを出すことは、十分できると思うから』という話はしたんです」
さらに千田は強調する。
「トータルで言えば、攻撃の部分は壮磨の方がポテンシャルも伸びしろもあると思うので、彼が井手口選手のような守備を身につけたら、マジでスーパーな選手になると思う」
実際、食野も元日本代表MFのプレー1つ1つに目は釘付けだった。
「予測がすごく早い。ごちゃごちゃってなった時などのセカンドボールに対する反応や、スライドのスピード、ボールがないところの動きなどは自分に足りないところ。予測と、単純なスピードとか走力の部分は、日本、J1のトップクラスの守備力を持ってる井手口選手から見て学ぶことはすごく多かったです」
また、千田の指摘する「気持ちの部分」というのは、食野自身が東京Vに来てからずっと課題としてきたことだという。
「“戦う姿勢”というのが自分には決定的に足りなかった部分。このヴェルディに来て、城福監督や森下仁志コーチに毎日指導してもらうことで、球際で戦うとか相手よりも走る、戻るなどのところは少しずつ変わってきていると思いますし、さらに変わろうと努力しているところでもあります」
今ではすっかり城福監督の使う代表的なキーワードの1つとなった「練習で頭から湯気を出す」という言葉に、「今までサッカーしてて初めて聞いた」と、食野は衝撃を受けたという。
「僕はちょっと大人しく見られがちなのですが、ガーってスイッチが入った時は、『おまえ、やれよ!』とか『出せよ!』とか、かなり激しく言うところがあるんですよ。そういうところを日頃から素の状態で出していくことで、戦っている感じが伝わるんだなと感じています。
大学時代は、キャプテンという立場もあってめっちゃ言ってました。でも、このチームに入って、そういうところがまだまだ出せていない。やはり「自分は試合に出ていないから」みたいな、どうしても自分の立ち位置を気にしてしまうがために大人しくなってしまっているので、その殻を破ってもっともっと感情を出していかないと、試合には出られないと思うので、今年はそこをしっかり変えたいなと思っています」
課題も長所もしっかりと理解し、日々の練習でその改善とブラッシュアップに勤しんでいる。その中で、スターターだろうが途中出場であろうが、やるべきは巡ってきた出場チャンスの中で結果を残すことのみだ。
「まずはチームとして求められている守備のタスクをしっかりとこなして、プラスアルファでどんどん自分の良さをアピールすることが大事。今季に入ってアシストもできてないですし、得点に関してはプロに入ってまだ決めることができていません。攻撃面が持ち味である以上、点に絡めなければ生き残っていけない。本当にそろそろゴールという結果が欲しいですし、数字というものをしっかりと意識していくことが大事。ゴール前に顔を出して、ペナルティエリア周辺でしっかり守備をする、『ボックス to ボックス』のボランチになっていきたい」
今は決して一発回答ばかりできるわけではない。それでも、失敗と成功、その経験の1つ1つから学びを重ね、着々とステップアップを続ける23歳(5月20日で24歳)に乞うご期待。
Reported by 上岡真里江
東京ヴェルディは、ケガの林尚輝、千田海人に加え、第15節の横浜FC戦は谷口栄斗が出場停止とセンターバックにアクシデントが重なる緊急事態となったが、その影響でスタメン出場のチャンスを得たDF深澤大輝、MF稲見哲行、MF松橋優安がそれぞれしっかりと持ち味を発揮し2-0の完封勝利。今後のポジション争いへ向け猛アピールに成功した。
その奮闘に大きな刺激を受けたのが食野壮磨だ。前節・湘南ベルマーレ戦、ボランチの平川怜の出場停止をうけリーグ戦プロ初スタメン起用。日頃、東京Vのチーム内で通称『エクストラ』と呼ばる、全体練習後に行われている主に試合メンバー以外の選手による居残り練習で共に鍛錬を続けている面々の横浜FC戦での躍動に、「自分も絶対にやってやろう!」と意気込んでピッチに立った。
後半13分での交代となったが、初めての先発出場の中で感じたことは非常に多かった。
「自分の意識的には、やはり守備の部分から相手に負けないようにというところから入って、特に試合の入りはよかったと思います。でも、攻撃面で少しバックパスとか、前を向けるところで向けなかったりといった課題が新たに出てきました」
ここまでのリーグ戦はすべて途中出場だったため、「多少相手選手に疲れがあったりして、少しプレッシャーが弱まっている部分もあったのかなと。でも、スタメンからだと相手も元気な状態なので、かけてくる圧も途中から入った時とは全然違う。それを身をもって感じられたことはすごく良い収穫でした」
多くの気づきや学びを得られたからこそ、やはり「スタメンで試合に出続けたい」との思いはより一層高まった。
今季でプロ2年目を過ごしている食野は、中盤でボールにたくさん触り、縦パスや決定的なスルーパスなど、より局面を前に持っていく攻撃面でのプレーが高く評価されている選手だ。一方で、ここまでなかなか出場機会が得られていないのは、守備面での課題が大きい。特に城福浩監督が求める守備の強度はポジションに関わらず非常に高く、立ち位置含め、ピッチ上の全員が共通意識をもって連動する必要があるため、理解度も要求される。その中で直面していたのが「ボランチの守備の時のポジショニング」だと本人は自覚している。
そんな大阪出身MFが備え持つ将来性を見越し、親身になって課題克服のためにアドバイスをし続けてくれたのがDF千田海人だった。
第10節ヴィッセル神戸戦。千田、食野ともメンバー入りはしたものの揃ってベンチスタートだった中、共に戦況を見守りながら、千田は食野の無限大の可能性に期待し、懇願した。「井手口陽介選手(神戸)の一挙手一投足を見てて欲しい」と。実は、その神戸戦の前から千田は全体練習後に時間を割き、守備に課題を抱える食野が一刻も早く才能を開花すべく助言し続けていたのである。
千田は、言葉を濁さずその意図を明かす。
「井手口選手は、セカンドボールの予測とかが本当にすごいですし、いわゆる“頑張りどころ”はさすがに日本屈指。リーグ戦で他のチームと戦っているのを見ていても、もう明らかに別格です。なので、せっかく間近で見られる好機だったので、壮磨には『井手口選手をしっかりと見ていてほしい』と伝えました。で、案の定、やっぱりあの試合でもスペシャルだった。
その影響もあったと思うんです。神戸戦翌日の練習で行った紅白戦で、壮磨のプレーは明らかに変わっていました。壮磨の場合、今の時点では、まだ考え方というか、どこを頑張りどころにするかというところがわかっていない。気持ちの部分でも、『そこ、頑張れない?』と思うところが多かったんですよ。だから、『まずはそういう、ある意味、技術云々より前の“ベース”のところをやった上でおまえの持ち味である攻撃のところの良さを出すことは、十分できると思うから』という話はしたんです」
さらに千田は強調する。
「トータルで言えば、攻撃の部分は壮磨の方がポテンシャルも伸びしろもあると思うので、彼が井手口選手のような守備を身につけたら、マジでスーパーな選手になると思う」
実際、食野も元日本代表MFのプレー1つ1つに目は釘付けだった。
「予測がすごく早い。ごちゃごちゃってなった時などのセカンドボールに対する反応や、スライドのスピード、ボールがないところの動きなどは自分に足りないところ。予測と、単純なスピードとか走力の部分は、日本、J1のトップクラスの守備力を持ってる井手口選手から見て学ぶことはすごく多かったです」
また、千田の指摘する「気持ちの部分」というのは、食野自身が東京Vに来てからずっと課題としてきたことだという。
「“戦う姿勢”というのが自分には決定的に足りなかった部分。このヴェルディに来て、城福監督や森下仁志コーチに毎日指導してもらうことで、球際で戦うとか相手よりも走る、戻るなどのところは少しずつ変わってきていると思いますし、さらに変わろうと努力しているところでもあります」
今ではすっかり城福監督の使う代表的なキーワードの1つとなった「練習で頭から湯気を出す」という言葉に、「今までサッカーしてて初めて聞いた」と、食野は衝撃を受けたという。
「僕はちょっと大人しく見られがちなのですが、ガーってスイッチが入った時は、『おまえ、やれよ!』とか『出せよ!』とか、かなり激しく言うところがあるんですよ。そういうところを日頃から素の状態で出していくことで、戦っている感じが伝わるんだなと感じています。
大学時代は、キャプテンという立場もあってめっちゃ言ってました。でも、このチームに入って、そういうところがまだまだ出せていない。やはり「自分は試合に出ていないから」みたいな、どうしても自分の立ち位置を気にしてしまうがために大人しくなってしまっているので、その殻を破ってもっともっと感情を出していかないと、試合には出られないと思うので、今年はそこをしっかり変えたいなと思っています」
課題も長所もしっかりと理解し、日々の練習でその改善とブラッシュアップに勤しんでいる。その中で、スターターだろうが途中出場であろうが、やるべきは巡ってきた出場チャンスの中で結果を残すことのみだ。
「まずはチームとして求められている守備のタスクをしっかりとこなして、プラスアルファでどんどん自分の良さをアピールすることが大事。今季に入ってアシストもできてないですし、得点に関してはプロに入ってまだ決めることができていません。攻撃面が持ち味である以上、点に絡めなければ生き残っていけない。本当にそろそろゴールという結果が欲しいですし、数字というものをしっかりと意識していくことが大事。ゴール前に顔を出して、ペナルティエリア周辺でしっかり守備をする、『ボックス to ボックス』のボランチになっていきたい」
今は決して一発回答ばかりできるわけではない。それでも、失敗と成功、その経験の1つ1つから学びを重ね、着々とステップアップを続ける23歳(5月20日で24歳)に乞うご期待。
Reported by 上岡真里江