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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:名古屋のスイッチが切り替わる予感。より闘う集団へと変わるために、“彼ら”が発した勇気ある言葉

2025年5月19日(月)
スイッチが切り替わる音が聞こえた気がした。81分に先制し、アディショナルタイムに追いつかれた福岡戦の試合後、ミックスゾーンで話を聞いたのは徳元悠平、原輝綺、そして佐藤瑶大の3人だった。試合に対する総評としては三者三様、徳元が「こういう追いつかれ方は2度とやってはいけないし、誰も気持ち良くない」と言えば、原は「勝ちももちろん欲しいけど、負けないことは今のチームにとっては大事」と勝点1の価値を見る。佐藤はと言えば「引き分けを続けていれば、勝った時に順位がひとつ上がる。もっとググっと上がることもある。やっぱり勝ち、負け、勝ち、負けだと、どうしても順位は変わんないので」と俯瞰したところから勝敗をとらえる。

その上で感じたのは、現状に対する不足感、あるいは不満足感をこれ以上は野放しにはしないという、決意にも似た想いだった。前4試合で45分を超える出場時間がなかった徳元は「悔しい数週間だった。もう1回認めてもらうというか、ポジションを掴み取るっていう意味で今日は結果が欲しかった」と唯一の得点をねじ込み、「ミスが多いからと文句を言い合う仲でもない。ミスありきのスポーツだと思っているんで、こちらがミスをして、相手もミスをして、そこからチャンスというのは前半にあった。そこを決めきれるか。丁寧に行きすぎたのもあったし、もっと(和泉)竜司くんや(山岸)祐也くんが“足を振れる”機会をどれだけ僕らが増やせるか」と前線の得点力不足に対してポジティブにかかわっていくことを誓った。



その徳元の得点をアシストしたのは中山克広だったが、沖縄キャンプでは絶好調だった彼のその後の紆余曲折は割愛するとして、ようやく生まれた今季の初アシストをアシストしたのが原だった。清水では同じサイドでプレーしていた“相棒”で、「テルは僕のタイミングをわかってくれている。清水の時はずっとあいつと組んでいたし、あいつがもともと受ける位置もちょうど自分が外を取りやすいポジショニングだったりする」(中山)というベストパートナーのひとり。原と中山の時間差ワンツーのような形で抜け出した得点シーンも、原は「カツはあそこでああいうのが特徴というのはもう何年も一緒にやっているので、半分は間接視野で見えていて、半分はあの角度で入ってきてほしいって信じて出した」としたうえで、少し頬を緩めてこう言った。「このスペースをお前は使うだろ?っていう意味を込めて、置きに行くようなボールでね」。名古屋の右サイドは攻撃の起点として重厚さを出していくサイドで、思えば沖縄での一次キャンプは中山と原の右サイドが猛威を振るっていた。「沖縄の感じでプレーしてくれればいい」と指揮官も太鼓判を押したあの流れが、いよいよ戻ってきた感もある。

さてここからは誤解なく伝わればいいと願いつつ書く。そうした良い場面や個々人の良さが出た一方で、名古屋は土壇場で引き分けに持ち込まれた。5月の4戦無敗は継続も、長谷川健太監督は試合後に「負けなしというより今日は勝ちきりたかった」と感情を押し殺して語り、できるだけ言葉を選んで失点に絡んだミスを指摘した。それは言わずと知れた三國ケネディエブスのクリアミスで、その是非自体を問うつもりはない。ミスはミスだ。そしてそれが勝点を失うことに直結したのだから、本人は猛省するしかない。重要なのはその先で、試合後に話を聞いた3人のその事象に対するスタンスこそが、前述した“決意”の何よりの表れだと感じている。前置きが長くなってしまったが、あまりストレートに伝えすぎては強すぎるコメントかもしれないので、前提はしっかりしたかった。

3人は攻守両面での現在の問題を勇気をもって表現したと思う。徳元は言った。「これが初めてじゃないし、厳しく言わないといけないところ、そこから目を背ける必要はないと思う。一人ひとりが矢印を向けながら、同じことを繰り返している人には強く言う環境というか、雰囲気を作っていけば、いい守備の構築ができると思うので。言い合うことを避けずにやっていきたい」。ミスを責めるのではなく、しかし有耶無耶にはしない。こういったことは責任の所在が曖昧になることが再発防止への最大の障害になり、本人は自覚しているに違いないが、人から言われる方が倍応えるし、その分強く記憶に刻まれる。嫌な記憶というのはいつまで経っても残っているもので、それがDFにとっての失点シーンであるならば、強い記憶であればあるほど“二度としたくない”という抑止力に変わる。

佐藤はさらに詳細で冷静な分析を心掛けた。ピッチ上でプレーしていながら、チームを束ねる立ち位置から状況を眺めることのできる彼の言葉は落ち着いていて、同業者としての理解にも満ちていて興味深い。

「パワープレーへの対応は別に悪くはなかったと思います。正直、ディフェンスも今日やれることはやったと思いますし、最後のクリアの方に関してはケネにも話しましたけど、その技術的な部分は1回置いといて。ああいう状況にはなっちゃいけないですけど、試合中にああいう事故は1回はあるんですよ。そこで守りきれるかどうか。ケネもミスした後には落ち着いてしっかり股は閉じていた。キーパーのピサノを信頼してケネは股を閉じてると思うんで、だったらピサもケネのことを信じてあげて、もうちょっとニアをケアするようなポジションが取れてもよかったのかなと。これは結果論ですけど、ケネは落ち着いてその後には対応していたんで、そこは僕はピサにも言いました。そういったところ、そういう小さくて細かいところを詰めていかなきゃいけない。対応自体は別にそんなに悪くないと思っているので」



失点の場面については原も「失点のところも、しっかり弾けてはいる。でもほんとにああいうちょっとしたところで、相手に当たってこぼれるところも含めて“パワープレー”。相手の狙い通りに事故を起こされた」と紙一重だったと振り返る。無敗の4試合は計2失点で複数失点はなく、「ここ数試合は複数失点なしで、耐えるところでしっかり耐えれている。ピサノも含めて後ろがやれることはしっかりやってるし、やれることも増えてきた」と守備の安定感も口にしたが、これも正論である。今の名古屋が難しいのは、守備が安定してきていて、得点は開幕当初からコンスタントには取れているのにも関わらず、FWに得点がなく、勝負を決めるゴールが少ないことだ。福岡戦にしても原は「自分も含めて」と前置いて、「やっぱり決められるところでしっかり決める決定力がもう少し、チーム全体で、試合に出ている人みんなに言える、足りないものだと思う」と言及した。



これも佐藤の言葉を借りるのはやや申し訳ないのだが、彼も試合後の取材ゾーンできっぱりと語ったことなので、もう一度誤解なきように、としてから伝えたい。しかしそれは今このタイミングを逃してはいけないからこそ、彼もそういう表現をしたのだと理解できるし、正直なところ未だ永井謙佑、キャスパー・ユンカー、山岸祐也がノーゴールというのは異常事態ともいえる。文句や意見というよりは、“頼むよ”という懇願にも似たDFラインからの言葉は、ここからチームがより強く、意識に刻んでいかなければいけないものだと思う。

「この結果は別にいいんじゃないですか。最後のミスはもちろんダメですけど、別に負けてはいないですから。僕から言わせてもらうと、もっと前が決めてくれよって思っている。そこは正直にいえば、ほんと厳しく言いたいですね。やっぱりフォワードが点を取れないようじゃいけないし、(稲垣)祥くんに頼っているようじゃダメだし、前の選手が決めてから、しっかり言ってもらいたいなと思います」

徳元の言葉を今一度思い返す。「言い合うことを避けずにやっていきたい」。強いチームの練習には共通して、ミスを許さない空気感があるものだ。古い話になるが、本田圭佑が「もっとやれや!」と守備に檄を飛ばし、山口慶が「お前がやれや!」と言い返した記憶がよぎった。あまりに自分のテンポでプレーしすぎる大武峻に田中マルクス闘莉王が叱る場面も何度も見た。前の試合でロングフィードをミスした楢﨑正剛に対して、闘莉王が次の練習でボールを蹴らせ、「できるじゃん!」と彼ららしいやり取りをしていたのも懐かしい。言い合いの質はケンカ腰でも和やかでも、建設的でも丁々発止でもいい。重要なのは指摘するのを辞めないことで、家族的な雰囲気の中にも厳しさを失ってはその集団からシビアさがなくなってしまう。生き馬の目を抜く戦いの中で、それは何より致命的だ。

だから、この3人の発した強い言葉はとても良い兆候に思えた。彼らはいい意味で一線を越えようとしている。言わなければいけないことは言う。だからチームはよりシリアスに戦えるようになる。許すばかりが優しさではなく、次の失敗を回避するために、回避させるために言わなければいけないことから逃げない。それは仲間にしかできないことであり、それが監督の言うディテールへのこだわりをより深化させていく。やるなら今のうちである。5月に入って負けていないという事実は、名古屋が戦う力を蓄えられている何よりの証拠であり、ここでもう一つスイッチを入れ直すことができれば、新たなスイッチをオンにすることができれば。後半戦への折り返し地点を前にして、名古屋は文字通りのターニングポイントに手を伸ばしている。


Reported by 今井雄一朗