
起死回生の一撃だった。明治安田J1リーグ第17節・名古屋戦の後半アディショナルタイム、ベスト電器スタジアムを沸かせたのは途中出場の金森健志。1点ビハインドの状況で福岡はパワープレーを選択する。松岡大起からのロングボール。相手DFのクリアミスによって生じたこぼれ球に背番号7は素早く反応し、左足を振った。
「一発仕留めようという気持ちでいて、難しい体勢ではあったんですけど、ゴールの隅にいけば入ると思ったので、キーパーもデカかったですし、抑えて打つというのは意識していました。前節の横浜FC戦で自分のところにボールが来て仕留めきれなかったというところ。本当に自分にしか変えることはできないですし、本当に練習しかああいう感覚というのは身につけられないものなので、その気持ちがやらなきゃいけない、チームを勝たせたい、助けたいという気持ちで練習をしていました。いろんなシチュエーションのトレーニングをコーチと一緒に時間作ってもらってやって本当に実ったというか、嬉しかったです」
絶対に諦めない。最後まで全員が死力を尽くして闘い、執念で掴んだ勝点1。リーグ戦での連敗を3で止めた。もちろん、ポジティブに捉えるべき結果である。ただ一方で、「勝ちにもっていける試合だったと思いますし、そこは自分たち次第」と金森が言うように勝ちなしが7に伸びてしまった悔しさを感じる試合でもあり、90分全体のプレーに目を向ければチームとしての課題が多く見受けられる試合でもあった。
FW陣を中心に怪我人が続出する中、この日、1トップに起用されたのは岩崎悠人。「(岩崎)悠人くんが二度追いしてくれたり、自分も後ろでやっていてこれだけ守備でやってくれたら自分たちも声を出して(プレスを)ハメやすいし、声が出ない時も自分主導で2度追いしてくれるので、僕はそれに対して悠人くんがアクションで周りの選手に『こういう守備行くよ』というのをハッキリ分かりやすくやっていたので、僕はすごくやりやすかった」(松岡)。守備面で一定の手応えを感じつつも、ボールを奪った後のミスが目立ち、攻撃面で大きな課題を残した。
「ゴールに近づくというところで技術的なミスはありつつも、選手たちが本当に前向きに、ひたむきに、しっかりとトライしてくれたなという印象です。攻撃面でもミスが多かったですが、絵が見えているというか、しっかりと先が見えた中でのミスなので、ネガティブに捉える印象もありつつも、僕は基本的にはポジティブに捉えています。怖がってロングボールをたくさん蹴って戦うという手段もありましたが、僕の中ではその選択肢は基本的にはないです。選手たちにはしっかりと、名古屋のマンツーマンに対して、それをかいくぐっていけるぐらいの準備はしてきました。当然ミスも出ましたし、難しい場面もありましたが、先ほど話したように、簡単なことを要求しているわけではないので、選手たちには、引き続き強気に、再現性高く前進してほしいと思っています。当然、スピードある選手が背後を取るという形も狙いつつ、もうひとつ相手が迷うような攻撃ができたらなと思います」(金明輝監督)
決して後ろで細かくパスをつなぎ倒したいわけではない。常に意識するのはゴール。そこから逆算してボールを動かし、得点を狙っていく。理想に向かって前向きにチャレンジする中で、個々の技術の向上はもちろん、ボール保持時の立ち位置やタスクの整理、連携の強化。選手たちもそれぞれに課題を認識し、解決を図ろうとしている。
「もっとゴール前の精度だったり、アイデアというのは自分も含めて足りないかなと思います。ボール保持は自分たちがしなきゃいけないというか、やっぱり相手にボールをずっと持たれると苦しい時間があるのは間違いないですし、その中でもやっぱりまずは背後だったりという意識はもっともっと高めないといけないと思います。個人の単純な技術のところはそうですけど、周りのサポートだったりというのはまだまだ改善できるところはあるので、そこはコミュニケーションを含めてもっともっとやっていきたいですね」(名古新太郎)
例え、誰かがミスをしても周りが助け、個の能力で劣る部分があっても組織力でカバーする。チームの強い一体感でどんな相手にも怯むことなくアグレッシブに戦うのが福岡の「アイデンティティ」であり、そうやってこれまで粘り強く勝利を積み重ねてきた。日々、強い責任感を持って必死にハードワークする選手たち。個々の頑張りをチームの勝利に還元する為に皆が共通認識を深め、より一層つながることが今求められている。
「最後に(金森)健志くんのゴールで追いつけたというのはすごく大きいと思いますし、これからだなというところです。練習の中で監督が求めていることもそうですし、そういったところもしっかり体現しながらピッチでコミュニケーションをより多くとって、これからもつながりを持ってやっていきたいと思います。しっかり勝つための準備をどれだけ日頃からやっていけるかだと思います」(松岡)
長年苦しむ得点力不足解消と目標のリーグ戦6位以上へ。根気強く自分たちに矢印を向け、ただひたすらに勝利だけを追い求めていく。
Reported by 武丸善章