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【取材ノート:福岡】福岡のエースへ。期待高まる「9.5番」碓井聖生

2025年7月1日(火)


6月6日に富山から移籍してきたばかりの碓井聖生がまたしても大きなインパクトを残した。

0-0で迎えた明治安田J1リーグ第22節・神戸戦の後半アディショナルタイム、小畑裕馬からのロングボール。ウェリントンの落としに反応したのが途中出場の碓井。見事な切り返しで相手DFを置き去りにし、ゴールに流し込んだ。劇的な決勝ゴール、そして自身2試合連続ゴール。博多の森は揺れ、スタジアムのボルテージは最高潮に達した。だが、結果はオフサイド。得点は認められず、幻に終わった。


「最初(左足でシュートを)打とうかなと思ったんですけど、右から相手の選手が勢いよく来ていたので、大体ああいう時はスライディングするというイメージがあって、キックフェイントすれば大体(相手が)引っかかるだろうと思いながらやった結果、運よく引っかかってくれたので、あとは空いているところに流し込むだけでした。ゴールキックだったり、センターバックから蹴るボールはウェリントンがターゲットという話が出ていたので、相手もセカンドボールへの反応が早い中で、自分がどれだけセカンド(ボール)を拾えるかというところでは、ウェリントンを信じて背後に走った結果がああいうゴールにつながりましたし、オフサイドにはなりましたけど、ポジティブに捉えればゴールにもつながったところでは良かったなと思います」

前節の新潟戦で移籍後初出場を果たすと、いきなりJ1初ゴールを挙げ、今節は昨シーズンJ1王者相手にゴール“未遂”。ここまでストライカーとして堂々の仕事ぶりを見せている。


「すごい」

神戸戦後のミックスゾーンで、そう第一声を発した碓井。多くの報道陣が自らのところへ集まってくる様子に驚きを見せていたが、2試合連続で素晴らしいパフォーマンスを披露したのだからそれは当然のこと。彼のプレーが多くの人々の心に残った何よりの証拠である。

J1に来て戸惑う選手も少なくない強度とスピード感の違い。ただ、碓井はそんなことを感じさせない。彼にとってまだ2試合目であることを忘れてしまうほど、瞬く間に日本最高レベルに適応し、遺憾なく自身の特長を発揮している。そんなきっかけになったのが前節の試合だった。

「前節の新潟戦で得点を決められたという部分が一番僕の中ではプレー強度だったり、スピードに馴染めているというところにつながっています」

否が応でも緊張感が高まるデビュー戦。碓井はこんな言葉を胸に刻み、ピッチに立った。

「富山の監督には初めての試合はチャンスが絶対に転がってくるという七不思議じゃないですけど、そういった場面が出てくるという話があって、そういった時にどれだけ冷静になって力を抜いて落ち着いて決められるかだというのは言われたので、試合前にはその言葉を自分に言い聞かせていました。そういった意味でもゴールシーンは落ち着いていたかなと思います。何も考えずにというよりかは、相手の場所と空いているコースが見えた時にはシュートモーションに入っていたので、キーパーがファーに寄っていればニアにも蹴れましたし、トラップは意識していたので、どういう状況であれ、あの場面は決める自信がありました」

23歳とは思えない冷静さに加え、しっかりとできることに対しては胸を張って自信を示す碓井。「ゴール前で非凡なものは感じますし、推進力もあるし、中盤で受けられるし、攻撃の起点にもなれる、加えて点も取れそうな、そういう期待をしております」と金明輝監督からもすでに高い評価を得ている。

「身体の当て方とあとは落ち着きというのは意識しています」と言う巧みなポストプレーやタイミングの良い裏への抜け出し、正確なトラップからのパンチ力のあるシュート。ペナルティエリア内であっても落ち着き払い、得点感覚に優れた「9番」としての輝きだけでなく、力強いドリブルで前へと持ち運び、多彩なパスでチャンスクリエイトする「10番」としての才能も持ち合わせている。

しっかりとした基礎技術、広い視野、早くて正確な判断。各局面でボールを受けやすい最適なポジショニングはどこか。どのような身体の向きであれば次のプレーに移行しやすいのか。周りの状況を逐一察知し、ボールが来るまでの準備を怠ることなくやっているからこそ、ボールを持った時に自らの実力を最大限に発揮し、見る側を魅了するプレーが生まれる。身体の使い方は上手く、頭の回転は速い。味方を的確に活かし、味方に良い形で活かしてもらう。「9.5番」の役割で躍動する姿は、2023年まで福岡のエースとして名を馳せた山岸祐也(現:名古屋)と重なる。

今、碓井自身が感じている課題は守備の部分。「良い守備からの良い攻撃」を掲げる福岡においてFWであっても献身的な守備は、欠かすことができない。

「守備の強度だったり、チームのプレスに行く、行かないの部分はもっとできると思うので、それこそ、練習から後ろの選手の声を聞いて練習していきたいと思います」

それでも、点取り屋としての情熱と覚悟が消えることはない。

「(個人的に)二桁得点というのは狙っていますし、連続得点というのは常に狙っています」

ここまでのリーグ戦で碓井以外が挙げたFW登録の選手のゴールは、わずか3つ。だからこそ、頼もしい言葉を残し、ピッチ上で大きな存在感を示す背番号27への期待は高まっている。


Reported by 武丸善章