Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:清水】清水から7年ぶりにA代表初選出。21歳 宇野禅斗の描く未来地図

2025年7月4日(金)
7月3日(木)に東アジアE-1選手権に出場する日本代表選手が発表され、清水エスパルスからはボランチ・宇野禅斗が初選出された。清水にとっては22年のGK権田修一以来、A代表初選出という意味では、2018年のFW北川航也以来という明るいニュースとなった。

今季の宇野の働きぶりを見続けてきた清水サポーターからすれば、サプライズではなく「当然」という感覚だろうが、開幕からレギュラーとして試合に出続けているのは、意外にもプロ4年目の今シーズンが初めてという選手だ。

2022年に青森山田高を卒業してFC町田ゼルビアに加入したが、ケガもあって2年半でリーグ戦31試合の出場に留まっていた。そこから出場機会を求めて昨年7月にJ2清水へ育成型期限付き移籍。すぐにレギュラーに定着して12試合に出場し、J1昇格に貢献した。中盤の守備を強化できる存在として清水にとって欠かせない選手となり、今季は完全移籍に移行したという経緯がある。

そして今季は開幕から定位置をつかみ、欠場した1試合を除いてリーグ戦全試合に先発出場。持ち味であるボール奪取力だけでなく、攻め上がりやパスでも貢献度を増し、相棒のマテウス ブエノと共にJ屈指のボランチコンビとしてチームを支え続けている。

自分を取り巻く全てを成長の力に

今季ここまでの手応えについて、宇野本人は次のように語る。

「ここまで1試合休んだ以外は全試合に出させてもらっていて、プロに入って初めての経験ですし、サッカーをやり切れてるような感触はすごくあります。その中で勝利も敗北も、失敗も成功も数多く経験することができているので、すごく成長につながると思っていますし、うまくいかない時もありますけど、それを自分で修正しながら充実したシーズンを送れてると思います」

宇野の持ち味を存分に引き出している秋葉忠宏監督も、彼の成長ぶりに目を細めている。

「彼はまず練習から手を抜くことなく全て100%でやるし、全ての面で野心的なので、ボールを扱うところ、ゲームに関わるところ、ボールを奪いに行く力も含めて、すごく伸びてるなと感じます。初めて1年間通してやり抜こうとしている中で、人間なので波があるとは思いますし、痛いところも出てくるけど、彼はコンディションを整えるために練習で少し抜くとか、調整するということはしないので、自己管理とかいろんな面で成長できるし、今はすごく良い過程を踏んでるなと思います。これを最後の最後までやってシーズンを終えたときにより大きなリターンがあると思うので、このままケガせず、70%でやることなく、彼らしく100%でやり続けてほしいと思っています」(秋葉監督)

コンビを組むブエノから受ける刺激も、宇野の成長を促進している。

「ブエノのすごいところは、技術や(プレーの)落ち着きもありますけど、パフォーマンスが大崩れしないところだと思います。今日はちょっとミスが多かったねという日もあるかもしれないですけど、走れなくなってるとか、何か大きなミスをするというのがほとんどなくて、本人のマネジメントも含めてすごいなと思います。もちろん戦術面、技術面でも盗めるところはたくさんあるので、できるだけ多く盗みたいと思ってます」(宇野)

その過程で陥りがちな落とし穴にはまらないことも、宇野の良さだと秋葉監督は証言する。

「どうボール動かすのか、ボールの触り方、受け方みたいなところもブエノからすごく学んでいると思います。ただ、横にあれだけスーパーな選手がいると、ああいうふうになりたいと変に真似をして、逆に自分の良さを失ってしまう選手が多いんですよ。でも禅斗は、まず守備でボールを奪うのが自分の特徴であり、一番出さなきゃいけないところだということは絶対に見失わない。自分の良さを出したうえで、少しでもボール扱いを良くしようとか優先順位がわかっている。迷子になることなく自分の道を進めているのは、この若さで大したものだと思います」(秋葉監督)

「そういう選手が海外や代表に行くんでしょうね」

指揮官の言葉通り、宇野の上を目指す野心の強さは、彼の言葉や発するオーラからもしっかりと伝わってくる。それは子供の頃から自ら培ってきたものだ。

「小さい頃から夢は大きく持ってますし、中学で青森山田を選んだのも自分の将来を見据えて自分で考えたことです。そこは今もブレなくできてると思いますし、少しでもサッカーがうまくなりたい、成長したいという気持ちも変わってません。今は自分がこれから目指すところとかプレースタイル、サッカーをやりたい場所というのも明確に見えてきたので、だからこそ自分の足りないところ、やらないといけないところも明確になって、成長したいという意欲はより高まってると思います」(宇野)

その「やりたい場所」というのは、もちろん海外のトップリーグであり、日本代表でもある。その第一歩としてA代表に初選出され、「初めての日本代表選出をとても嬉しく思います。清水エスパルスの選手として誇りを持って戦ってきます」と語ったが、代表に定着するには、まだまだ多くのステップがあることを、本人が誰よりも理解している。

「海外でプレーするだけじゃなくて、しっかり結果を残せる選手にならないといけないし、そのためには技術面でもメンタル面でも取り組むところは本当に多いなと思ってます。今の日本代表は、ワールドカップでドイツやスペインに勝ったりと価値がすごく高まっていて、そこを夢見ている僕らにとってはすごく刺激がありますし、そこで自分がプレーしたいという気持ちはより強くなってますが、まだまだ全然足りないこともわかっています」(宇野)

21歳とは思えないほど自分の現在地が客観的に見えている宇野だからこそ、ワールドカップ出場が非常に高い壁であることは実感できている。だが、そこに一切ひるむことなく、成長意欲をより高められるところが、もしかしたら宇野の最大の強みかもしれない。

「あの歳であれだけ野心的でギラギラしていて、うまくいかなかったらメチャメチャ悔しがって、それをバネによりやろうとする。試合でもミスを恐れて隠れるんじゃなくて、つねに能動的に主体的にプレーする。それで失敗したら自分でしっかり修正する。貴重ですよね。そういう選手が一番伸びるし、海外に行ったり代表に入ったりするんだと思います」(秋葉監督)

チームメイトに与える刺激や影響という意味でもクラブへの貢献度は高い。「チームに好影響や勢いを与えてくれますし、おとなしい選手が多い中でぜひ見習ってほしいです」と秋葉監督は言う。

非常に高いところを見ているが、そこへ一気にジャンプしようとするのではなく、高みに至る階段を明確にイメージして、目の前の一段一段を全力で着実に上がっていく。そのためには野心だけでなくインテリジェンスも重要であり、それができる21歳は少ない。

それでも今の日本には、彼と同じく地に足を着けて主体的に成長を重ねているライバルはたくさんいる。道はかなり険しく、未来の到達点は予想できない。だが、少なくとも宇野が勝負の舞台に上がりつつあることは間違いないだろう。

Reported by 前島芳雄
次のページ 一覧 前のページ