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【取材ノート:今治】大局から捉える山田貴文が、現状打破のために必要だと感じていることは

2025年7月10日(木)


FC今治に在籍して8シーズン目。地元、愛媛県松山市出身で、JFL、J3を経て、33歳にして初めて臨むJ2の舞台でも確かな存在感を発揮している。

試合を俯瞰(ふかん)し、大局的に判断して、的確にプレーできるからこそである。先発でも途中出場でも、今治の方へ流れをたぐり寄せる仕事ができる。

中盤であればトップ下、両サイド、ボランチやアンカーで求められるタスクを遂行し、さらに必要とあれば左右のサイドバックもこなす。万能さの成せるわざだ。

今シーズン就任した倉石圭二監督の信頼も、当然ながら厚い。ふくらはぎをしばしば痛めることもあって、ここまで22節を終えて16試合の出場ではあるが、多くの試合でチームが勝点を積み上げていくことに貢献してきた。

だが、前半に2点をリードしながら後半に4失点して、逆転負けを喫した明治安田J2第22節・ヴァンフォーレ甲府戦では、ミッションコンプリートとはならなかった。

ベンチスタートだったこの試合の出番は、思いがけず早めにやってきた。2点リードで後半が始まったばかりの55分、チーム2点目を挙げていたトップ下のパトリッキ ヴェロンに代わりピッチに入った。

「僕も『このタイミングなんだ』と少し意外でした。前半はウォーミングアップをしながらだったので、しっかり見ていたわけではありませんが、特に悪い感じじゃなかったし」

だが、潮目が変わろうとしていることを、ベンチはすでに察知していた。

「受けた指示は、守備の強度を改めて出したいということでした。特にファーストディフェンスを強く行かせてほしい、と。そこを意識して入りましたけど、力不足でした」

交代出場した直後、甲府が得意とするCKから連続2失点。流れの悪化を食い止められず、逆転負けを許してしまった。

ピッチに入った時点で、いったいどんな不具合がチームに生じていたのだろう。

「シンプルに、『このままでは最後まで体力的に持たないな』という雰囲気でした。ピッチ上は無風で、ものすごく蒸し暑くて。
前半、みんなかなり飛ばしていたと思います。ハーフタイムでロッカールームに帰ってきたときも、リードしているからメンタルが落ちているわけではないけれど、みんな肩で息をしていて、疲れが見て取れました」

チームは甲府戦まで7戦未勝利と苦しい状況にあった。それゆえ、前半の攻勢でより“飛ばす”ことにつながったのかもしれない。

「守備で強く行くために(チームを)動かそうとしたけれど、無理が利かないことが多かったです。相手がやり方を変えてきたのもあります。1人で状況を変えるのは、なかなか難しかったです」

それでも、勝点3を積み上げるチャンスはあったと振り返る。

「少なくとも、1失点目で踏みとどまらなければならなかった。そこから交代で元気な選手が入ってくれば、また押し返すこともできたはずだし、そういうふうに自分がゲームをコントロールできればよかったのですが」

蒸し暑さで足が止まりがちな中で、甲府の反撃に飲み込まれないために。やり方はあったはずだとの思いは強い。

「甲府の後ろからのパスの出所を押さえに行くのが一つ。運動量が足りず、それが難しければ、中盤と最終ラインを今一度コンパクトにして、ある程度は甲府にボールを運ばれるかもしれないけれど、サイドに出たところで奪いに行く。だいたい、この二つだと思います。
入るときの指示は前から行って、出所を押さえるというやり方でした。でも、すぐにCKから失点してしまった。ピッチの中の雰囲気を感じ取って、1失点したところでもっと早く、相手を引き込む形に変えるべきでした」

甲府戦の敗戦で、チームはクラブワーストの8戦未勝利となった。11位まで下がってきたところから、改めて上位を目指してアタックを掛けていかなければならない。踏ん張りどころに来ている。

「勝てない時期が続いていますが、暑さの中でもしっかりボールを奪いに行って、自分たちのものにしたらボールを下げてひと呼吸を置くのではなく、しっかり前線につないで前に向かうというのを目指しているのだと、自分では捉えています。今は、そこに針を振り切っている状態なのかな、と。
バランスよくできればベストですが、今はやり切ることが大事だと思っています。45分しかできないのであれば、50分、60分と時間を伸ばしていく。
実際はこれだけ暑い中で、11人のうち5人しか代われません。前線が代わることが多いと思いますが、前は(プレッシャーに)行けるけれど、後ろはついていけなくて間延びするのが一番、ダメだと思う。監督、コーチとはもちろん、選手間でしっかりすり合わせる必要があります」

リーグが中断に入るタイミングで迎えるのが、愛媛FCとのダービーマッチ、「伊予決戦」だ。今治は8戦勝ちなし、愛媛は最下位と、ともに難しい中での一戦だが、ダービーはチームの状況、理屈を越えた熱量を発する可能性が大いにある。

「不思議なもので、伊予決戦は節目のタイミングでやってくることが多い。おととしは僕たちがアウェイで負けて、目の前で愛媛のJ3優勝と昇格を決められてしまいました。
今回、勝って良い方向に持っていくターニングポイントにしたいです。相手も同じことを思っているでしょうが、より強い気持ちで戦いたい。そうすることで、理屈抜きの部分も出てくると思います」

J2初昇格を目指していた昨シーズン、夏を前に4連敗と苦しい時期があった。その経験を生かしたいという。

「勝てない悪い流れになっているとき、もう一度、パワーを出す、出力を上げるのは本当に大変です。でも、去年はそこでトレーニングの強度を上げて、踏ん張ることができた。だから夏以降、しっかり勝点を伸ばせたと思います。
今季はカテゴリーが上がって相手の対応力も上がっているし、対戦が2周目に入っていることもあります。対策されるようになっていますが、自分たちが地に足を着けて取り組んでいる、しっかりとボールを奪って、前に行くことをやって勝点を積み上げていけば、いい方向に進めると思います」

地元のダービーマッチに、懸ける思いもひときわ強い。

「歴史としては浅いのかもしれないです(第23節の対戦で6回目)。でもJリーグでこれを続けて、今の子どもたちが将来もっともっと熱いダービーにしていくためにも、僕たちがその土台をしっかり作らないといけない」

冷静かつ客観的に、しかも熱い思いを秘めて。円熟のミッドフィルダーは、チームが進むべき道を見定め、導いていく。

Reported by 大中祐二
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