Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:福岡】苦境を抜け出し、チームを強くするためにキャプテン奈良竜樹が考えていること

2025年9月30日(火)


今シーズンワーストとなる5連敗を喫した明治安田J1リーグ第32節・広島戦の直後、奈良竜樹の目には涙が溢れた。チームを勝たせられなかったキャプテンとしての悔しさ、責任。感情のコントロールが難しい状況だったはずだが、ミックスゾーンに現れた彼は冷静に自らの思いを話してくれた。

「(自分は)ディフェンスの選手なので、前の選手は本当に守備もハードにタスクをこなしてくれている中で、やっぱり自分たちが踏ん張り切れないところで、前の選手に申し訳ないし、僕はキャプテンを任せてもらっている中で、一試合、一試合の細かいところもそうですけど、チームが苦しい時に自分が踏ん張れないところ、チームを結束させられない自分の実力不足をすごく感じます。失点のところは細かい部分、そこに関しては全体の責任でもあるので、またチームでしっかりと確認して次に活かさないといけないと思いますけれど、まずは、サンフレッチェのサポーターを含め、今日も1万人を超える多くのサポーターのみなさんが駆けつけてくれた中で、結果が出せない悔しさ、もどかしさがありますけれど、ただそこに向き合っていく、立ち向かっていかなければいけません。チーム状況も苦しい中で、試合に出る選手は使命感、責任感を持って臨まないといけないし、反面、結果ばかりを考えたら動きも硬くなってしまうし、ミスしないようにとなるのは良くないので、どこかで心の余裕を持てるようにやらなくてはいけないし、今日(広島戦)は(前節までの)アウェイ連戦の2試合より、みんな1個違っていたというか、見ていて分かると思うんですけど、そういうところが出たり、いろんなポジションチェンジが生まれたりというところがありました。僕は後ろの選手なので、そうやってチームとして今年積み上げてきたものを得点につなげる、そうなった中でも失点をしない、どっちにとってもメリットがあるように上手くチームをオーガナイズしたいと思います。2失点とも自分の前でやられてしまったので、守備の部分でも最後は自分が身体を張って守らないといけないと思うので、そこはもう1回、自分がもっとできるというところを自分に突き付けて来週に臨みたいと思います」


第29節・C大阪戦での大量失点を受け、前々節の横浜FM戦と前節のFC東京戦は、自陣でブロックを形成する守備に重心を置き、攻撃もあまりリスクを掛けない戦い方を採用したが、結果にはつながらず。今節は原点回帰を誓い、果敢にプレスを仕掛け、長短のパスを織り交ぜながら前線に人数を掛けてゴールに迫る攻守に能動的でアグレッシブに戦う本来の姿を取り戻した。

「これまでやってきたことに、もう1回立ち返ろうというところですね。最初は久々だったので、少しお互いの動きをみんなが見合うような感じでやっていた中で、少しずつ、『この選手がこう行ったらこう動こう』というのは出てきたと思いますし、ボールの巡回に関しても、時間を経るごとにスムーズになっていたと思います。あとはそれをゴールにつなげるところだったり、ポジションチェンジをするということは、それなりにイレギュラーな配置になるので、動く人と動かない人というところはもう少し整理しないといけないと思います」

自身、昨年6月に痛めていた左膝複合靱帯再建術の手術を行い、そこから約9か月の苦しいリハビリを乗り越えて今年3月のルヴァンカップ・琉球戦で復帰。その後、再びピッチを離れていたが、7月の天皇杯・北九州戦で先発に復帰すると、ここまで守備の要である3バックの中央のポジションで金明輝監督の志向する攻撃的なスタイルを支えている。

「攻撃に行くからこそ、よりリスク管理のところが大事というのは、特に後ろの選手に対しては監督が常に要求しているところで、今は結構3バックの選手もより攻撃に関わっていくというところがある中で、それで押し込んで点を取るのは理想だけれど、それが諸刃の剣にならないようにというところは、監督が常に言っていることです。じゃあ誰を残すのかとか、守備の選手であっても今はこの選手は攻撃に関わらせた方がいいとか、じゃあその時には誰を戻すのか、ゴールキーパーもうまく使ってとか、その辺は、もっともっと精度を上げていかなければというところはありますね。何回も、何回もカウンターを食らって、どんどん、どんどん、選手がステイ、ステイというふうになってしまうと自分たちの良さは出ないだろうし、アタックに行くという時の迫力とか、人数のかけ方というのは、このチームの一つの武器でもあると思うので、そこを消さないように、ただギリギリのリスク管理のところは怠らない。そこは難しいですけど、自分の中で新たなチャレンジというか、自分のところでやられないということに加えて、どう人を残して、どう配置するのがいいのかなというところは、怖いけど楽しいですね」

福岡にやって来て5年目。キャプテンを任されて3シーズン目。チームが上手くいっているときには引き締めるような言葉を口にし、上手くいっていないときには前向きになるような言葉を発する奈良自身の根底にはこんな想いがある。

「このチームに、常勝の文化みたいなものが根付くには、もっともっとやらなければいけないことがたくさんあると思っていて、例えば、一つ勝ったことでどこかが緩んでしまったりとか、その試合の中でも勝っているときの振る舞いとか、その時のチームとしての戦い方とか態度も含めてどうなのかとか。強いチームは勝ってグッと引き締まっていくようなところや、負けたときに『いや大丈夫。やり続ける』という雰囲気があるけれど、このチームは、その辺がまだ波がある。例えば、(今シーズン最多の5ゴールで勝った第25節)川崎F戦の後の練習で言えば、川崎Fに5点取ったから、点を取った選手がどういうふうな意識でやっているかなとか、パスコン(パス&コントロールの練習)をどういうふうにやっているかなというところは、すごく気になります。攻撃でも、守備でも、前の試合で活躍した選手は、監督からすれば次の試合にもまた使いたい。けれど、活躍した当人が練習に対してこだわりを持ってやっていなかったり、軽率なミスをしている。でも監督は使いたいから使う。でも、やっぱり練習に100%で取り組んでいない選手が次の試合に出るというのは、良くないと思っているんです。前の試合で活躍した選手を監督が使いたいのは当たり前。だからこそ、まだ次の試合のピッチに立つことは確定していないけれど、そういう流れの中でそこに向かうまでに、その選手にはそれに相応しい振る舞いをしてほしいと思うし、それが相乗効果を生むというか、活躍して、さらにまた次の週の試合に対してあんなにこだわっているのなら、自分ももっとやらないといけないというふうに、他の選手も高まっていく。『100%でやっていないのに試合に出られるんじゃ、ちょっとやる気が失せる』 とならずにね。そうしたことも含めて、チームが上手くいっているときこそ、より厳しくならなければいけないというのは、自分の根底にある感覚というよりも、一つの危機感みたいなものかなと思います」

金監督も全幅の信頼を寄せ、チームメイトだけでなく、見る側も彼の言葉や振る舞いにいつも心動かされている。自分たちの戦い方を貫きながら再び勝利を掴むためにどういったことが大切か尋ねた。

「これまでも、このやり方で良い試合はできているんですよね。じゃあ、それを結果につなげるというところはもちろん、成功体験的なものもチームとして得なければいけません。良い試合はできるけど、やっぱり勝てなかったり、負けてしまったり、引き分けてしまったりというところで言うと、後ろが踏ん張り切らないといけないというところもあるだろうと思います。僕はこれは(先制しながら引き分けた第26節)鹿島戦から続いていると思っていて、あそこで1点を守り切れなかったというところ。後ろが最後に踏ん張るというところはアビスパの文化というか、これまで積み上げてきたものだと思うし、攻撃がみんなのいろんな創造性だったり、連携も含めて少しずつ高まっていく中で、じゃあもう1回、ベースのところはどうなのかというところですよね。前節(は前半で退場者が出て)10人になって後半45分どういう姿勢で臨んだか。なんであの試合は壊れなかったのか。そういうものも含めて、積み上がっていくものばかりを見るのではなく、もう1回、土台の部分を再確認しないといけないと思います」

頼もしいキャプテンに導かれ、築き上げてきた福岡が大切にするチームの一体感。泥だらけになりながら粘り強く闘って勝つ姿をこれまで何度も見せてきた。次節の横浜FC戦もホームゲーム。全員の力で苦境を乗り越え、福岡を強くするために奈良はリーダーシップを発揮し続ける。

Reported by 武丸善章