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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:上向いたチームのラストピースに名乗りを上げるのは?

2022年4月21日(木)
改めて、FWの価値を考えさせられるシーズンになっている。現在、名古屋はリーグ9試合で7得点を挙げており、その内訳は阿部浩之、稲垣祥、仙頭啓矢、マテウスがそれぞれ1得点ずつで、オウンゴールが3つ。ルヴァンカップは4試合3得点で柿谷曜一朗と酒井宣福、マテウスが1得点ずつを決めている。決して多いとは言えない総得点数の中で、さらに少ないのがストライカーによる得点なのはお気づきの通りで、そもそもストライカー然とした選手が少ない陣容だったのだと、苦戦が続く序盤戦では思うところも多い。

今季のチームで点取り屋の役割を担うのは、実績からすれば金崎夢生と酒井の2人がまずは当てはまるところ。ただ、彼らにしても現在はそうしたイメージの選手だが、そもそもは他ポジションでプロになったコンバート組だ。金崎は高校時代はボランチで、大分でトップ下として開花し、名古屋に来てからはサイドアタッカーの趣が強かった。その後海外に渡ってFWとしての土台を固め、再びJリーグに戻ってきてからはセンターFWという新境地を拓いている。酒井も同様にサイドバックやサイドハーフがもともとのポジションで、FWもやるようになったというのがそのキャリア。昨季は鳥栖でインパクト抜群の1年を過ごし、名古屋にはセンターFWとして迎えられている。彼らの得点のキャリアハイは金崎が12得点で、酒井が8得点。ハードワークやポストプレーでチームを助ける選手でもあり、得点数だけではないFWというのが彼らの強みであり持ち味だ。





点取り屋の実績で言えば、今の名古屋で数字を持っているのは柿谷である。2013年、攻撃に専念することが仕事だったシーズンで、彼は21得点を稼いでいる。名古屋もだいぶしてやられた記憶があるが、とにかく往時の柿谷はあふれんばかりの才能をスコアすることだけに傾けていた。それはFWの使い方としては間違っていないどころか真っ当すぎるほどで、一人の選手が21得点を挙げてくれれば、チームは勝利におのずと近づく。ただ、32歳となった柿谷はサッカーがそれだけではないことを知っており、仲間のために、チームのためのサッカーをすることも自ら担う存在だ。選手は実績を積めば積むほど視野も広がり、良くも悪くもチャンスの広がりを想像しながらプレーするようになる。ここで自分が強引にでもシュートを打てば入るかもしれない、打ってやる、という思考が、あのフリーの選手を使った方が確率が上がる、という思考に変わっていく。



だが、今の名古屋が欲しているのは、決定機を仕留め、自らゴールをこじ開けるストライカーであることもまた確かだ。ここ数試合ではマテウスがFWで起用されているが、なかなか現れない点取り屋を何とか作れないかという長谷川健太監督の試行錯誤のひとつである。それは練習中に見る中央のエリアでの動きに可能性を見出したと言い、劣勢を追う札幌戦でパワープレーに打って出た際に入れてみて、手応えをつかんだ起用法だ。前体制では試合中に一時的にインサイドハーフやボランチの位置でプレーすることはあり、サイドハーフとして2020年には9得点でチーム内得点王になった左利きの怪物は、持ち前のスピードを生かしたラインブレイクも見せるようになり、本格起用が始まったルヴァンカップ広島戦では早速その形からゴールを決めている。そもそもがサイドハーフだけに、中央から流れてプレーする傾向が強い部分をどう生かすかは課題だが、シュート力を考えれば今後しばらくは最前線でのプレーが続きそうだ。



本来ならばワールドクラスの実力を持つシュヴィルツォクがこのチームにはいるのだが、現在は昨季のAFCチャンピオンズリーグのおけるドーピング陽性の暫定処分が続いており、今だ彼はヨーロッパで待機中の身。一切のサッカー活動を禁止されているため、チームの練習にも参加できない現状は速やかに解決したいところだが、B検体での再検査を申請しているAFCからの返答待ちが続いており、関係者はやきもきする日々を送っている。シュヴィルツォクは守備での貢献はあまり期待できず、ゴールキックに競り合うような頑強さも求められないが、胸から下の高さのボールに対する強さは規格外で、左サイドでのフィニッシュワークは恐るべき強靭さが備わっている。指揮官も背番号40の動向については気にかけているようだが、返答が来ないことには進展もない。ないものねだりもできないので、名古屋は現状のメンバーから点取り屋の出現を待つしかない。

幸いにもチームは3バックへのシステム変更で堅守を取り戻し、徐々に攻撃への好影響も出始めている。こうしたダイナミックな展開が増えていけば金崎や酒井に供給されるチャンスが増え、決定機の質も上がっていくはず。得点を奪う力があることは昨季も含めて実績が示しているのだから、まずは力が出しきれる環境と状況の整備に期待したいところ。誰でもいい、ではやや言い方が乱暴だが、長谷川健太監督は「練習でそういう選手が現れるのを待つしかない。奮起に期待」と選手たちへの信頼感を表明している。それほどまでに“FW”を欲している現状に救世主がどんな形で現れるのか。名古屋の最前線のさらなる切磋琢磨には注目である。

Reported by 今井雄一朗