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【取材ノート:神戸】今季のヴィッセル神戸が得たものは?ラスト7試合を考察する

2022年11月10日(木)
昨季3位でACL出場権(プレーオフ含む)を得たヴィッセル神戸は、今季アジアNo.1に照準を合わせるはずだった。だが、昨季途中に大迫勇也、武藤嘉紀、ボージャン クルキッチを加え、今オフには槙野智章、扇原貴宏、汰木康也が加入。戦力が充実したこともあって、ACLとJ1の2冠を視野に入れてシーズン開幕を迎えた。

“二兎追う者は一兎も得ず”ではないが、結果的にはどちらも志なかば。ACLはJ1王者の横浜FMに競り勝ってベスト8に進出したものの、J1では残留争いに巻き込まれた。最終的には残留を果たしたものの、13位フィニッシュ。天皇杯も準々決勝で敗退し、来季のACL出場権も獲得できなかった。

今季を締めくくるファイナルセレモニーで、キャプテンのアンドレス イニエスタはファン・サポーターに向けてこう語りかけた。

「チームは最後まで戦い抜きましたけれども、自分たちが目標にしてきたこと(ACL&J1制覇)に対して戦うことができませんでした。今日は何かを祝うような日ではありませんし、その点に関しては選手を含め全員に責任があると思っています。(中略)望んでいた結果ではないかもしれませんが、難しい時にチームが一丸となって全員が全てを出し切って、(本来の)目標とした戦いではなかったかもしれませんが、(J1残留という)その目標を達成するために全員が戦い抜きました」

つまり、苦しかったシーズンの中で、J1残留に光明を見出したということかもしれない。

J1残留争いは9月の28節・京都戦に敗れたことで正念場を迎えることになった。この敗戦で選手たちはエゴを捨て、チームが一つにまとまりはじめた。翌29節の名古屋戦に引き分けた後、神戸は破竹の5連勝で一気にサバイバルレースを抜け出す。ターニングポイントはJ1残留争いの直接対決となったG大阪(30節)。エース大迫勇也が後半から出場し、終了間際に2ゴールを奪って劇的な逆転勝利を収め、神戸は本来の輝きを取り戻していくことになる。


この5連勝で得た成功体験は来季につながる財産と言えるだろう。

残留が決まった後の残り2節は、J1優勝を争う川崎Fと横浜FMとの対戦になった。モチベーションの違いがあったのは確かだが、神戸は2連敗でシーズンを終えることになる。現時点ではJ1優勝を狙えるチームではなかったということかもしれない。武藤嘉紀は最終節の後にこう話している。

「来季、タイトルをめざすためには、(最後の2試合を)しっかり勝ちにいかなければならなかった。ただ逆に勝ってしまって、おごりのような気持ちで来季に入るよりも、ここで2敗してかなり気が引き締まったのではないかなと思う。みんなも危機感を持ったのではないかなと。もう一度、地に足をつけて来季に臨まなければいけないと思います」

この屈辱を来季の原動力へ。意味のある2連敗にするためにも、今後の奮起に期待したい。

では、選手個人としては何か得たものはあったのだろうか。イニエスタ不在時もチームを力強く支えた山口蛍はこう話す。

「(個人として得たものは)何もないです。僕自身は早い段階から絶対に残留争いをしないといけないと思っていて、本当に最終節やその前の節まで引っ張ると思っていました。個人的にはそこまで(残留争いを)引っ張ることなく、(2節を残して)決められたのはよかったかなと思います。(得たものは)それだけです」

5連勝で自信を取り戻した神戸は、最後の2連敗でまだJ1王者に値するチームではないことを再確認したのかもしれない。暫定を含め4人の監督が指揮する異例のシーズンで得たものは、自分たちの現在地を知ることができたこと。武藤が話した「地に足をつけて来季に臨まなければいけない」というコメントは、今季の戦いを象徴するものと言えそうだ。


Reported by 白井邦彦