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【取材ノート:東京V】チームを勝たせられる選手へ。涙に込められた深澤大輝の熱き想い

2025年5月29日(木)


自然と涙が溢れて止まらなかった。

2025年5月17日J1第17節サンフレッチェ広島vs東京ヴェルディ戦(@エディオンピースウイング広島)。後半32分に木村勇大がPKを決め東京Vが先制したが、同42分、44分と連続失点し、逆転負け。ディフェンダー(DF)の深澤大輝にとっては、屈辱ともいえる痛恨の結末だった。


茫然自失のままファン・サポーターたちの待つ緑の一角へ向かって歩き、その前に立つと、もうどうにもこらえきれなくなった。

「わざわざ遠い広島まで来てくれたたくさんのファン・サポーターを見て、まずはそのみなさんに申し訳ないという気持ちでした。そして、何よりも本当に悔しくて。自分のプレーでチームを勝たせられなかった。自分の力がまだまだなんだということをまざまざと見せつけられた試合でした」

「自分のプレーで勝たせられなかった」。その言葉にこそ、26歳DFの涙の真意が隠されている。

小学生のジュニア時代からユースまで東京Vのアカデミーで育った深澤だったが、ストレートではトップ昇格は果たせず、中央大学での4年間を経て2021年、念願の東京ヴェルディ・トップチームの一員となった。

プロ入り後、昨季までの4年間は主力として出場機会を得られていたが、今季は第14節まで出場試合数ゼロ。怪我もあり、ベンチ入りすらできない日々がほとんどだった。
プロサッカー選手にとって、試合に絡めずにひたすら練習だけを続ける毎日がどれほど心身ともに過酷なことか。
それでも、深澤は決して苦悩や悔しさを表面に出すことなく、常に変わらぬ姿勢でただひたすら自己成長と試合メンバー入りへの猛アピールを貫いてきた。

そんな深澤の大きな支えとなるできごとがあった。ある日の練習でのことだ。当時、深澤自身は前太ももの怪我で別メニュー調整が続いていたため、全体練習後に連日行われている、主に若手や試合メンバー外選手による、チームでは“エクストラ”と呼ばれている追加練習を見ていた。

「その時、すでに試合メンバー20人中19人は発表されていたのですが、森下仁志コーチが『あと一人はエクストラの練習を見て決める』と言ったんですよ。で、たしか、その時はウッチー(内田陽介選手)が試合メンバーに選ばれたんです。後日、『あの時、なぜ内田が選ばれたかわかるか?』と仁志さんから話されて、『エクストラのゲームで勝ったチームから選んだ』と言われたんです。それを聞いて、チームを勝たせられる選手、勝たせられない選手っていると思うし、そここそに毎日本気でこだわらなければいけないんだと気付かされました。あらためて考えると、昔の(強かった頃の)ヴェルディは、そういう“勝たせる”ところにめちゃくちゃこだわっていたイメージ。本当に毎日死に物狂いでやっているからこそ勝ちにもっていける選手になると思って、そこからより意識して練習するようにしています」

さらに輪をかけて感化された言葉がある。

「『試合に出る選手はいい選手だけど、試合を勝たせられる選手は一流選手だ』と仁志さんに言われた言葉がものすごく心の響いて。ただ試合に出るだけではなくて、チームを勝たせられる選手になりたいと、これまで以上に強く思うようになりました」

だからこそ、自分が第15節横浜FC戦から試合に出るようになり、その2試合目、3試合目といずれも2失点を喫し連敗を許したことが悔しくてたまらなかったのである。

「言ってしまえば、『J1の第17節』かもしれない。だけど、僕にとっては自分を表現する場所だし、試合に出られない選手の分も責任を持ってチームを勝たせなければいけなかった。そういう気持ちが出られない期間により深まっただけに、ただの1試合じゃなかった。だからこその涙もあったのかなと思います」

これほどまでに、「自分が出られた1回のチャンスがどれだけ大事か」を意識するのは、昨季の反省があるからだ。

「去年も開幕戦に出られなくて悔しい思いしていて、第2節の浦和レッズ戦から10試合ぐらい出れましたが、正直、自分が納得できた試合というのはあんまりなくて。チームも久々のJ1というところで、経験値もない中で、最初はなかなか勝てないことが多かったですし、個人的にも少し自信をなくしている部分もありました。だからこそ、今年はこの掴んだチャンスを絶対に逃したくないし、『自分もやれるんだ』というところを見せたかったし、これからも見せていきたい。だからこそ、これまでよりも一試合一試合にかける思いも重いですし、試合後の反省も、次の試合に向けての準備も、より一層するようになりました。それをピッチで表現したい」

葛藤を乗り越えて、ようやく試合に出られるようになったことで、あらためて実感したことがある。

「やっぱ、ヴェルディっていいチームだなって」

自分がメンバーに入ることで、少なくとも誰か一人は外れる選手が出てくるものだ。これまで“エクストラ”で共に鍛錬を積んできた、なかなか試合に絡めない若い選手たちもいる。誰しもが「自分が試合に出たい」と強く思っているのは当然だ。だが、チームメイトの全員が「頑張れ!」「ナイスプレー!」と心から讃えてくれた。

「僕も試合に出ていない機会が長かったので、試合に出ていない選手の気持ちがものすごくわかる。チームにはもちろん勝ってほしい。けどやっぱり心のどこかに悔しいものもあるという中で、ヴェルディのみんなは言葉や行動で仲間を応援することができる。それってやっぱり素晴らしいなと思いました。
それに、このチームは、練習で歯食いしばって精一杯プレーしてる選手が、チャンスをもらった時にチャンスを掴むことができる。そこはチームの魅力だなと思いますし、だからこそみんながトレーニングを一生懸命する。その良い循環ができているのは、すべて城福浩監督や仁志さんが、選手一人一人の姿勢や努力をしっかりと見ていてくれるからだと思います」

『毎日の練習、努力の積み重ねは嘘をつかない』

言葉で言うのは簡単だが、実際に続けることがいかに難しいか。それでも、やり続けてきた深澤だからこそ、この言葉の正しさを証明することができる。

「それが、僕がこのクラブにいる意義だと思っています」

Reported by 上岡真里江