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【取材ノート:福岡】210分の激闘。“タフガイ”ウェリントンが福岡に与えた勇気

2025年6月10日(火)


あまりにも残酷な結末だった。

広島とのJリーグYBCルヴァンカッププレーオフラウンド。2戦合計でスコアは2-2。延長戦でも決着はつかず、PK戦へと突入する。1人ずつが失敗して迎えた5人目、ウェリントンが放ったシュートは、相手GKのセーブに阻まれ、福岡の敗退が決まった。


だが、彼を責める者はいない。最後までチームの為に走り、闘い、そして、2試合連続でゴールを決めてくれた。ウェリントンがいなければここまで来れなかった。福岡に関わる人々の総意と言っても過言ではないだろう。

第1戦で福岡を先勝に導くクラブのJリーグ公式戦最年長ゴールを挙げ、第2戦も0-2と劣勢の状況で、難しい体勢から得意のヘディングでゴールにねじ込み、自身の記録を更新(37歳3ヶ月28日)。ただ、試合後は複雑な心境を明かした。


「確かに良いクロスから自分の強さを活かしたゴールだと思うんですけど、その後PKを外してチームがこうやって敗退してしまったことで、喜びの中で冷水を浴びてしまってすごく残念だなという気持ちが強いです。得点をとれたことはもちろん、素直に喜びたいんですけど、そういうゴールをとって(プレーオフラウンドを)突破すればベストなことだったと思います」

ミックスゾーンで笑顔を多く見せていた第1戦後とは対照的に、第2戦後はうつむきがちだったウェリントン。それでも自分の想いをきちんと伝えようと真摯な姿勢で言葉を紡いでくれた。

当然悔しさばかりが募るが、この2試合のウェリントンの奮闘によって強豪相手に得た収穫もあった。その一つが攻撃の組み立て。1トップでプレーする高くて、強くて、頼りになるストライカーであり、ポストプレイヤーとしても大きな役割を担う背番号17が感じた変化がある。

「自分が頂点(トップのポジション)にいるとどうしても空中戦を使いがちというのが今までだったんですけど、今日(第2戦)は地上戦と空中戦を両方併用しながら多くの攻撃の組み立てをすることをできましたし、水曜日(第1戦)に比べて下でつなぐところ、攻撃の作りのところは多くできたと思います。そこは今後の良い点として継続しなければいけないですし、もちろん、空中戦も自分のストロングなポイントなので、それを活かすことも大事ですけど、両方できるということは今日(第2戦で)チーム全体として示すことができたと思います」

第1戦で90分、第2戦では120分、攻守に献身的にプレーし続け、2試合連続フル出場。「本当に力以上のものを出してくれた」と金明輝監督が称賛するようにタフな姿を見せてくれたウェリントンにそれを成し得る原動力は何なのか尋ねた。

「日ごろのハイインテンシティのトレーニングがこうやって試合につながっていると思うし、日ごろからみんなと厳しいトレーニングをやっているからこそ、試合でこうやって戦えると思います。37歳というのはただの数字だということを示せたと思います。サッカー選手である以上は日々良くなりたいと思っていますし、サッカー選手として日々成長できると毎日思っているので、もちろん、サッカー選手は休養も食事も大事にしなければいけないことですし、自分もすごくそこに気を遣ってやっているからこそ、こういう結果、こういう短い休養期間しかなくてもできると思います」

年齢を重ねても日々ストイックに研鑽を積むウェリントン。Jリーグでプレーして今年で12シーズン目。「やるべきことはチームを勝たせること」と常にチームファーストの考えを持つ彼が以前、そのマインドに至った理由を教えてくれたことがある。

「(日本で活躍し続ける上で)一番大事なのはエゴを捨てることだと思います。やはり助っ人として来るということで、どうしても自分はスターだという想いの選手を何人も見てきましたし、移籍してきた選手が成功しない例もたくさん見てきましたが、外国籍選手が助っ人として来るのは何か力があるからこそ呼ばれるわけなので、その力をチームの力に変えること、自分の特長をもって王様になるというわけではなく、チームの一員としてチームの持っている力を最大限に引き出すということが長く日本に残れる秘訣だと思います。もちろん、言語のところだったり、文化だったり、そういったところに合わせることも必要です。自己中心的になるのではなく周りに合わせることは非常に重要なことですし、そういう柔軟性を持った精神が非常に大事なポイントだと思います」

だからこそ、いつも支えてくれる仲間への感謝を忘れない。

「皆さんの温かい応援だったり、愛着、信頼(を感じて)すごく感謝しかないですね。選手もそうですし、サポーターの皆さんや支えてくれている人の温かい声、もちろん、自分は(このプレーオフラウンドで)みんなを勝たせたかったという思いは強くて、(敗退してしまって)申し訳ないというか、すまなかったという(気持ちです)。みんなの素晴らしい愛情に応えられなかったというのが自分の中ですごく悔しいです。ただ、サポーターの皆さん含め、みんなの信頼だったり、自分に対する愛情、そういう感情に関しては、日ごろから感謝しているので、今後はもっともっと期待に応えられるように頑張り続けるしかないと思っています」

皆を愛し、皆に愛されるウェリントン。もはやブラジル人助っ人という域を超えた強い責任感の持ち主が福岡に大きなパワーをもたらしている。


Reported by 武丸善章