Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:東京V】稲見哲行が得た、プロ初の“キャプテンマーク”からの気付き

2025年6月12日(木)
リーグ戦の前節(5月31日アビスパ福岡戦)、2025JリーグYBCルヴァンカップ プレーオフラウンド 第1戦(6月4日)、第2節(同8日。ともに柏レイソル戦)と、公式戦直近3試合1分2敗と勝利のなかった東京ヴェルディだったが、11日に行われた天皇杯 JFA 第105回全日本サッカー選手権大会で栃木SC(J3)を3-1で下し、4試合ぶりの勝利を飾った。

今年はリーグ戦、ルヴァンカップと、ここまで城福浩監督はあまり起用メンバーの入れ替えを行なっていなかったが、栃木SC戦では直近の試合から先発10人を変更。その意図を「日頃歯を食いしばってエクストラトレーニングをやっている選手が、『いつもあれぐらい(ハードな練習を)やっているのだから、ここで見せなければ』という思いでやってくれるだろうという期待が大きかった」と指揮官は明かしたなか、キャプテンマークを託されたのが稲見哲行だった。

守備能力が高い中盤選手として、稲見はリーグ戦では19試合中17試合、カップ戦では5試合中4試合とほぼすべてのゲームに帯同しているが、出場はそれぞれ8試合と2試合。さらにスタメン出場はいずれも1試合ずつと、悔しい状況が続いている。そのなかで巡ってきた現状打開のビッグチャンス。ましてや、自分が「一番勝負したいポジション」というボランチでの先発起用だ。燃えないはずがなかった。

「やっぱり、試合で得られる経験ってすごく大きいものでした」と26歳守備的MF。5月6日のJ1第15節横浜FC戦以来となる、今季3試合目のスタメン出場から学べたことはあまりに多かった。

「途中から出た時のプレーと、スタートで出る時のプレーって、少し変わるんです。スタートだと、“立ち上がり”というプレーがあって、さらにボールを落ち着いてきた時はどうするかとか、出場時間の中で流れが変わることがいろいろあります。途中交代で入る時はずっとインテンシティ高くでいいのですが、プラス、先発で出た時には、落ち着かせる時間やマイボールでペースを握っている時間が必要になったりと、意識することが変わるというか、増えるというか。特にこの試合(栃木戦)は自分がキャプテンマークを巻かせてもらったので、ボランチというポジションに加えて、キャプテンとしても意識をしていました」

高校、大学時代は多くの試合でキャプテンマークを巻いてきたが、プロの公式戦ではこれが初の経験。久しぶりに託された、その腕章の重みと責任感を感じながらプレーしたことで、さまざまなことに気付かされた。

「なんか、これこそが今の自分に足りないものだったのかなと。この試合(栃木戦)のメンバーは、若い選手が多かったり、試合経験が少ない選手が多かったので、ポジティブな声かけをたくさんしようと、すごく意識していました。そういう主体性というか、もちろんプレースタイルとして自分の特長を評価されている部分はある、プラスアルファで、周りの選手を動かしたり、チームの流れを作ったり、チームを勝たせる、助けるプレーというのを、もっとどんどんやれたらいいなと、“キャプテン”としていつも以上に“チーム”を考えながらプレーしたことで感じることができました。本当にいい経験になりました」

自分がキャプテンを務めた試合での『勝利』は、何よりの収穫となった。

6月9日。2023年から東京Vに加入し、ともにJ1昇格を成し遂げた戦友だった千田海人の鹿島アントラーズ移籍が両クラブから正式発表された。稲見は千田を公私ともに慕っており、『東京ヴェルディ・キャンプ部』と称して、機会を作ってはチームメイトたち数名と大自然のなかでキャンプを張り、サッカーの話から人生についてまで、本音で語り合えるほどの関係性を築き上げてきた。その盟友がチームを去るとあり、「寂しい気持ちもあります」。だが、同時にJ3クラブから日本屈指の強豪クラブへとステップアップを遂げていく背中を見て、「やっぱり、一人のプロサッカー選手として、よりレベルの高いところでやれるのは羨ましいというか。もちろん、それは海人くんが掴み取ったものであり、本当にすごいことだなと、僕だけではなくて、チームのみんなが発破をかけられたんじゃないじゃなと思います。だからこそ、僕らがヴェルディで結果を出して、みんなで鹿島さんに負けないぐらいのチーム作りをしていきたいなと思います」と、“東京ヴェルディ”のさらなる成長、強化を胸に期す。

公私ともに慕い、頼っていた、あまりに大きな存在から突如“卒業”の時が訪れた。

「サッカーもプライベートも、成長のみせどころってことですね」

『稲見哲行』は『稲見哲行』の道を、これからも自分の力で切り拓いていく。

Reported by 上岡真里江