
パワーとスピード、それらを含んだプレーの強度。永井謙佑や稲垣祥、三國ケネディエブスなどが代名詞的にもなる名古屋のスタイルとコンセプトの中では、彼らは異質の存在ではある。インテンシティの高いプレーを持ってはいるが、そこが持ち味の選手ではない。特徴を一言でいえばクリエイティブなボールプレーヤーで、よりアスリート的にハードワークができるのが森島司で、より芸術家肌なのが菊地泰智といったところだろうか。低迷が続いた今季の序盤ではなかなかその良さを表現しにくいところがあったが、チーム力の回復とともに彼らの存在感は増すばかりで、特にこの1ヵ月ほどでのふたりの重要性は高まる一方だ。
自らを取り巻く環境においても、試合の中での状況においても、とにかく彼らは落ち着いている。ここまで20試合を超える公式戦の中でスタメン出場の機会は少なく、森島はリーグ19試合で7試合、菊地は出番そのものが少なく、リーグ11試合でスタメンはわずかに1試合だ。その状況でも「シーズンは長いので」(森島)と焦れることなく、腐ることなく余念なき準備を整え続けてきた結果が、ここ数試合での貢献ぶりである。5月を無敗で切り抜けたチームの中で、森島は途中交代から流れを変える働きを見せ、浦和戦と新潟戦での2得点に関与。菊地は少ない出場機会の中で新潟戦では自らの得点を含む2得点に絡む活躍を見せた。6月に入っても彼らの勢いは止まらず、天皇杯では膠着した前半の流れを森島の躍動感によって後半から変え、菊地も追加点につながるクロスなどで貢献。菊地は続くリーグの神戸戦でも後半の原輝綺のゴールをアシストし、スタメン起用に応えている。
ピッチに入れば確かな効果を示す森島と菊地だが、もちろん今の状況に満足も納得もしていない。たとえば1か月半ぶりの敗戦となった神戸とのリーグ再開初戦の試合後、彼らは自分のプレーについてこう振り返っている。

「ボールの落ち着きどころがなかったんで、今日はツートップの一角で入ったんですけど、つなぎ役として落ち着かせようと思っていた。得点を取らないといけなかったんで、相手の間で受けることも意識した。でもそこまで意識してないし、普通にそれが自分の持ち味だと思うんで、普通にやっていただけ。(得点につながるサイドチェンジも)普通に見えたから出しただけって感じです」(森島)

「後半は前半よりはオープンになったというか、ボールが動かせるようになった中で、自分はいいポジションを意識しすぎたというか。相手見ることも大事ですけど、使いたいスペースはわかった上で、別にずっとそこで留まっているよりも、下に降りて椎くん(椎橋慧也)と2対1を作りに行く場面とかもあってよかった。まだまだです。アシストの場面はテルくんがシュート上手かっただけ。特に何かをしたわけじゃない。いい形でツカくん(森島)から斜めのパスは来ると思ってたんで、とりあえず遅れないようにだけと思って」(菊地)
謙虚であり、常に自分に求めるクオリティのハードルが高いというのは彼らの共通点だ。こちらから聞いて「そうですね」と言えることがない限り、彼らが自ら「ここが良かった」「うまくできた」という言葉を聞く機会はとても少ない。紡ぐ言葉はとてもシンプルで、だからこそサッカーの本質を感じることができる。先のコメントにしても、森島が後半から入ったことで「ボールが動かせるようになった」(菊地)わけで、「普通に見えたから出した」森島のパスにしても、「使いたいスペースに留まっているよりも」とトップ下の位置から離れた菊地がいたからこそ、森島はそこが見えたことになる。彼らの感覚とセンスは明らかにピッチを変えることができ、それを試合開始から発揮してくれることを指揮官は望んでいるのだろう。今はまだ切り札的なところがある二人だが、そこで結果を出すからこそ重宝もされ、試合の中でも重要な任務を任される。
その上でそれぞれに、見据えるものはもちろん異なる。ゴールやアシストだけでなく、得点に直接絡み続けてリーグのスタメンまで奪った菊地はとにかく自信を失うことがなく、強気だ。試合を振り返ると「自分に何ができたか、できなかったか」というセリフが多く、そこは反省点である一方で改善点だという気持ちの方が強く感じられる。トップ下という攻撃の中心軸に据えられても、そこで何ができるかということにしか興味がない。

「そのポジションでのプレーにネガティブなものがあっても、ポジティブにできるようにするしかないんで。できなかったこともできるようにするし、できていたことはもっと質高めるし、っていう。今日もミスは多かったんで、あのポジションやるならミスがないくらいにしないといけないですし、もっと頑張りたいです」(菊地)
森島はさらにシビアな視点を自分に向ける。指揮官も「本来は先発で出なきゃいけない選手で、貴重な戦力」と評する主力中の主力は、持病的に抱える痛みとも闘いながらのポジション争いに黙々と立ち向かっている。見た目以上に真面目な性格で、高体連出身らしく礼儀正しい青年は、誰かのせいではなく、すべては自分次第と前を見る。
「試合に出たい気持ちはありますけど、選ばれてないっていうのが現実です。最近は結果を残していると言われても、そんな数字は残ってない。自分としてはそこをちゃんとアシストとかで、泰智も今日はアシスト出しましたし、ああいう結果を残していくことによって、そこは変わっていくと思うので。そんなに、自分では自分はそこまで良くないんかなと。でも正直、試合に出られてないことによってコンディションを落としたりする選手も多いし、自分もそうなりがちな選手だと思ってます。そこでちゃんとコンディション落とさないっていうことは考えていますし、試合に出られていないのは自分が悪いんで、そこを受け入れながら。出ているところで(判断される)、っていう部分と、コンディションは落とさないように、って考えています」(森島)
サッカーと自分を一体に、かつストイックにとらえることができる、彼らのような存在は貴重だ。悪い意味での自我が弱く、いい意味での自負が強い。90分間のピッチ内で何ができるかを考え、その「何が」がチームを直接的に勝たせる行動だと定め、そのためには身を粉にして働くこともいとわない。攻守に走り回る森島の姿は昨季からずっと印象的で、菊地も小柄ながらコンタクトプレーをまったく恐れない。「攻撃は好きだから勝手に考えながら身につくけど、守備は意識的に毎年、積み重ねられるようにっていう気持ちでやってる」とは菊地の言だ。攻撃に一番の特長があり、フィジカルではなくイマジネーションの部分でチームにアドバンテージをもたらす選手たちが、こうした献身性を押し出してくれることの何と頼もしいことか。
神戸に負けた試合後に、菊地は「(1点を返して)そこでもうひとついけるチームが絶対強いし、上に行くチームはそこから逆転できる雰囲気作りからすごくあると思う。そういうところはしっかりまだまだ僕らが成長していくところ」と語り、森島も「正直引き分けまで持っていきたかった。そこまでいけたら、もっと(結果を良いものに)持っていけた部分は本当にあると思う」と悔やんだ。そのプレー傾向と同じく、前を向く力が彼らは本当に強い。その推進力はここからさらに、名古屋を勝利へ導く力となっていくに違いない。
Reported by 今井雄一朗