
シュートは多く打てているが、得点数がなかなか伸びない。「決定力不足」に苦しむ今シーズンの福岡にとって明治安田J1リーグ第21節・新潟戦は、これまでの鬱憤を晴らす一戦となった。
ホームの地で見せた今シーズン最多の3ゴール。その口火を切る1点目を挙げたのが紺野和也だった。9分、相手陣内の高い位置で北島祐二がボールを奪うと、背番号8はすぐさまサポート。パスを受けた瞬間は難しい体勢になったが、見事に立て直し、左足を振り抜いた。
「そのちょっと前ぐらいから(そのスペースが)空いているなと思っていて(北島)祐二だったら多分見てくれるだろうなと思って(ボールを)受けにいったら横パスを出してくれたので、あとは(相手を)ちょっと外してシュートを打てたので良かったです。ファーストタッチは思っていたところよりちょっと前に来たのですが、2タッチ目が上手くシュートを打てるところに置くことができてそこから打てたので、2タッチ目が良かったんじゃないかなと思います」
自身リーグ戦では、3月9日の第5節・京都戦以来となるゴール。「自分のプレーを出したいのに出すところまで行けていないというもどかしさはかなりありました」と言うように今シーズン2点目が生まれるまでには苦悩があった。
開幕当初、左サイドで作り、右サイドで仕留めるのが主な攻撃パターンだった福岡。左肩上がりで選手を配置し、局面で数的優位を作って北島や藤本一輝、見木友哉、志知孝明らが良い距離感で位置的にも質的にも優位性を出して相手の守備ブロックを攻略し、最後は、トップに入る選手や右サイドから内に絞った紺野へとパスを送ってゴールを狙う。この形によって攻撃が活性化し、一時は首位に立つ原動力の一つになった。
だが、その後は怪我人が続出。左サイドでの攻撃の構築が難しくなったことで、紺野へのパスの供給源は閉ざされ、右サイドからの攻撃の構築も上手く進まずにチーム全体で攻撃に停滞感が起きた。
コンディションが悪いわけではないのに自身の思い描くプレーがなかなかできない。紺野は、そんなもどかしさを抱えながらも戦術的な改善ができれば、また自分の良さを出せると考えていた。自ら声を上げてチーム全体にアプローチしつつ、金明輝監督やコーチングスタッフから映像を使った提示も受けながら課題の解決を図った。
「苦し紛れに受けるシーンが多かったところが前向きで受けるシーンが増えたりとか、そういうチームの戦術的なところで良さを出しやすい戦術になった。上手く摺り合わせを選手と監督、コーチのところでできたんじゃないかなと思います」
そんな成果が現れ始めたのは、6月上旬の広島との2025JリーグYBCルヴァンカップルヴァンカップ プレーオフラウンド。第1戦で3-4-2-1の右WBに入った爆発的なスピードを持つ岩崎悠人だけでなく、同サイドのボランチの松岡大起やCBの前嶋洋太も効果的なフリーランニングを繰り返し、良い距離感でシャドーの紺野をサポート。「ここ最近では一番と言うくらいボールを触る回数も結構ありましたし、前を向いて触る回数が多かった」。時間とスペースが生まれたことで8番は「窮屈さ」から解放された。持ち味の巧みなドリブルと精度の高い左足のキックはより威力を発揮。決勝点につながった場面に限らず、何度もチャンスを創出し、自らもゴールを狙って積極的に足を振った。
「しっかり立つべき位置のところに誰かしらがいるというのが大事」
味方の位置、相手の位置、ボールの位置。様々な要素を総合的に判断し、各局面で自身が立ち、味方に立ってもらう最適なポジションはどこか。どういう動き出しをすればスムーズにボールを前進させることができるのか。そういったチームとしての「原則」が右サイドで浸透し始めたことで前節の岡山戦、そして今節の新潟戦での紺野の躍動につながった。
「チームも勝てていなかったですし、5月とかは特に難しい時期を過ごしましたけど、いろいろみんなトライして今の形が正解に近いんじゃないかなというふうにはなってきているので、また相手によって少しずつ微調整はあると思いますけど、ベースのところはかなり良い形でできているんじゃないかなと思います」
4月以来となるリーグ戦での連勝を飾り、上向きつつあるチーム状態と攻撃の構築に紺野は手応えを感じている。
「今日(新潟戦)みたいなゲームで、去年とか一昨年とか、ああいう(多くの)観客が入ったゲームで勝てていなかったと思うので、今日みたいなゲームで勝つことでまた見に来たいと思ってくれる人が一人でもいればいいと思いますし、そういう意味でも今日の勝利は大きいんじゃないかなと思います」
ベスト電器スタジアムの観客が1万人を超えたのは新潟戦で今シーズン3度目。次節の神戸戦もホームゲーム。魔法の左足を持つ紺野は、これからもチームメイトと協力しながら彼らしいプレーで多くの観客を魅了したいと考えている。
Reported by 武丸善章