
見た目に似合わず、と言うと怒られるかもしれないが、実際にとても繊細な男なのである。プレーはダイナミックでスピーディー、恵まれた体格としなやかな身体能力を活かしたディフェンスは昨季から、名古屋の守備戦術に欠かすことのできないものとなっている。3バックシステムとマンツーマンDFの組み合わせはひたすらにアグレッシブで、対人でもカバーリングでも個の能力が計算に含まれる。三國ケネディエブスに求められているのは空中でも地上でもマッチアップには絶対に勝利し、なおかつ両脇のセンターバックたちが飛び出していったスペースをフォローすること。その上で今季はDFリーダーとしての期待も受けるのだから、これはなかなかな重責だ。
だから三國は長谷川健太監督の想いに応えようと自らを追い込んだ。守備陣を統率する立場としての発信を増やし、大ブレイクと言えた昨季のパフォーマンスを超える質もさらに求めた。目標のひとつにある日本代表へのステップとして足元の技術の進歩にも乗り出し、現代的なセンターバックに必要とされる資質の習得にも努めた。何もかもが手探りだった名古屋1年目の昨季に比べれば、1年間チームの主力を張り、ルヴァンカップ優勝というタイトルまで手にした自分にはそれなりに自信も備わっている。だからこそ今の自分には物足りなさも感じ、試行錯誤を繰り返す浮き沈みの激しいシーズンを送ることにもなった。

今季最初のつまずきはキャンプでの負傷だった。1月28日の東京Vとのトレーニングマッチで空中戦の際に右足首を痛め、以降のキャンプは調整のみ。川崎との開幕戦には間に合ったが、完治とは言えない状態に等々力のミックスゾーンでは顔をしかめた。惨敗だったシーズンの入りはチームの歯車をも狂わせ、苦戦の中で三國のプレーも空回り。頑張れば頑張るほど本来のクオリティが出せない悪循環に陥り、「もう全部自分で守るくらいの気持ちでやる」と自らを奮い立たせたのもそこに拍車をかけることになった。この負のループに関してはホーム広島戦に臨むにあたり、「スタッフからもそこを言われて冷静に考えてみて、仲間に任せられるところは任せた。そういうマインドで守ることによって、自分への負担を少し軽減させたのが良かった」と復調にはつなげられている。この時に出た「何でこれを開幕戦からやらなかったんだろう」という名(迷)言は、繊細さと軽さという、ともすれば相反する性格が同居する彼のキャラクターをとてもよく表したものだった。
これでもう大丈夫かと思ったところが一転、以前にも話題にした福岡戦での致命的なミスがあり、おそらくチームメイトからも強めの叱咤激励が彼にはあったと想像する。翌節の浦和戦では終盤に同じようなシチュエーションもあり、それをしっかりとタッチライン側にクリアする姿を見て感心したものだ。「今日はもうそこしか集中してなかったです(笑)。横へのクリアもみんなに言われました。タケさん(武田洋平)からも『しっかりやってたな』って(笑)」という軽妙なやり取りも、チームがどれだけ彼を信頼し、支えようとしているかがよくわかった。三國を一人前に育て上げ、もっと大きな選手になってもらいたいと期待をかける長谷川監督も「もう大丈夫かと思ったらうわ、まだダメなのかと思いながら(笑)。でも辛抱強く使っていくしかない」と、背番号20のポテンシャルに賭けている。
つい最近にも浮き沈みはあった。5月を無敗で終え、順位表を駆け上がろうとする6月は緒戦2試合で負け、引き分けと戦況は芳しくなかった。アウェイの神戸戦では佐々木大樹とのマッチアップで後れを取り、ホームの清水戦ではあの福岡戦を思わせるクリアミスから同点に追いつかれるコーナーキックを生んでしまった。一連の流れ自体はクリアミスを自分でカバーし、コーナーキックに逃げたというところもあったが、それが失点につながってしまえば「そもそも与えていなければ」という評価には落ち着いてしまう。三國はこの時の対応を次のように語っていた。
「自分の苦手なところが全面に出たということです。ああいう高いボールに対して、敵とボールを見ながら競り合うっていうのは…。守備は前から行く分、後ろはマンツーマンでカバーもいないですし、だからちょっと相手に、なんて言うんすかね…、完璧に勝とうとしすぎた部分が出てたかなと思う。ああいう高いボールは相手も難しいと思いますし、自分は突っ込まずに、相手のミスを誘うような感じでタイトに身体をぶつけたり、相手が触る瞬間に身体をぶつけたりとか、もうちょっと考えながらやれたかなと思います。その後はカバーできたんですけど、あそこでコーナーになって失点してるんで。正直、ああいうミスから失点することが今季は多いので、自分がそういうミスを少なくすることが今後のチームが上に上がっていくためには必要かなと思います」
お気づきの方もいるだろうが、また三國は余分な荷物を背負っていた。攻守ともに攻撃的なスタイルを貫くチームだけに、試合中に抱えるリスクは他のチームに比べてもかなり大きい。似たようなスタイルとしては広島もそうだが、最終ラインが最終的には何とかしてくれるという部分があって、この戦い方は実現できるところがある。実のところ清水戦の後には三國のミスに言及する選手もおり、逆に三國も打ちひしがれる気持ちを何とか保たせようと、「本当に俺が集中すれば勝てると思う。そこだけですかね。あとは3点ぐらい取ってくれたら楽になるんですけど(笑)」と様々な感情が入り混じった顔をしていた。それぞれの主張のぶつかり合いは大いに結構だ。むしろ、三國のような選手はもっと意見をぶつけていいとすら思う。悩むと落ち込むタイプであることは、この1年半で名古屋の誰もが知っているから。

それでも三國の成長を感じたのは、次の試合でしっかりリバウンドメンタリティを見せたことだった。奇しくもそれは広島戦で、またもマテウスが2得点を決めてチームを勝利に導いてくれるところまで同じ。1回目は悩みに悩んだ三國がふっきれた試合となり、2回目は“悪癖”を一回で修正してみせる、大人のケネディを披露する場となった。正真正銘の真っ向勝負となることの多い広島とのマッチアップで三國は攻守ともに伸び伸びとプレーし、攻撃面でも軽やかに振る舞った。「リラックスしながら行く時はバチバチ行くっていうスタンスに切り替えて、今日は冷静にやれた」と話す表情も力が抜けており、なるほど彼ほどのポテンシャルがある選手は、すべてを100%でプレーするより8割くらいの抜け感があった方が、結果的に100%の発揮につながるのだと知る。試合の週のトレーニングには月に1~2回の頻度でやってくる中澤佑二臨時コーチの2週連続の訪問もあり、「僕がミスったから来たのかなって思ってびっくりしました」と冗談も飛ばした三國は、改めて今季の自分の立場とそれに対する向き合い方を強敵相手の快勝の中から再定義した。
「やっぱり去年と今年ではやっぱり見られ方が違いますし、今年は自分がしっかりリーダーシップを持ってやらないといけない年だと思っています。自分が変なミスしてられないし、自分がしっかりしないといけない。その注目やプレッシャーというのはすごく感じてますから、良かったり悪かったりで停滞はしていられないですよね。もっと安定したプレーを見せていかないと、チームもより上の順位にはならないと思うので、もっと集中すること。自分はちゃんとやればできる選手だと思ってるんで、そこはしっかりと自信持ってやっていきたいです。でもこの前の試合で『完璧に』っていったのは自分に余計なプレッシャーをかけちゃってましたね(笑)。そういう意識は確かにありました(苦笑)。自分より身長が低い選手でもタイミングとボールの軌道では負けちゃうこともあるんだから、無理だと思ったらしっかり冷静に対応しなきゃいけないですし、無理に突っ込まなくても、自分ならしっかりと対応できる。そこはしっかりと頭で考えながら、場面、場面をとらえてしっかりやっていきたいです」
三國ケネディエブスは 自他ともに認める“やればできる子”なのだ。広島に乗り込むその前日、指揮官は「ケネディと争う選手は欲しい。そこがいないとあいつらの成長にもならない」と発言し、夏のウインドーでの補強をほのめかしたが、それはあるいはメディアを通じた三國への檄だったのかもしれない。この台詞が伝われば、あいつも尻に火が付くだろうと。ぼさっとしてるとライバルが来るぞ、しっかりやりなさいと。もちろん本当に補強はあるのかもしれないし、ないのかもしれない。いずれにしてもチームにとって損はなく、三國がまた一皮むければそれは補強と同義となる。「みんなでサポートしながら成長を促していく」と監督は言った。三國が真の意味で一本立ちするまでにはまだ少し時間はかかるのかもしれない。だが、多くのトライ&エラーをJ1の舞台で積み重ねられているこの状況は、必ずや三國を頼れるセンターバックへと育て上げる。名古屋の指揮を西野朗さんが執っていた頃、こんなことを言っていた。「センターバックはボールがひとつ転がったらポジションを直すくらいの繊細さが必要なんだよ」。言わずもがな、繊細さとは三國の得難い資質である。
Reported by 今井雄一朗