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【取材ノート:東京V】城福浩監督の重要視する「選手層の厚さこそ最大の補強」を支える“エクストラ”の価値と、担当コーチ森下仁志コーチの存在(前編)

2025年7月18日(金)
シーズンも折り返しを過ぎた。怪我もあれば、選手の成長によってポジション争いに割って入るなど、開幕当初と比べると試合出場メンバーの顔ぶれも少しずつ変わってきている。その中で顕著なのが、それまでなかなか出場機会に恵まれなかった選手がゲームに抜擢された時に、しっかりと自身の持ち味を発揮できていることである。そうした選手たちに話を聞くと、必ず出てくるのが『エクストラ』『(森下)仁志さん(コーチ)』のワードだ。

『エクストラ』とは、東京ヴェルディの全体練習のあとなどに行われる、若い選手やレギュラーメンバー以外の選手が中心の追加メニューのことで、それを担当しているのが森下仁志コーチである。このエクストラでの時間こそが、コンスタントに試合に絡めていない選手や、試合に出てもなかなか結果が残せない選手たちにとってはとてつもない成長の場であり、心の拠り所にもなっている。

「キツいっす」

参加メンバーにエクストラの話を聞くと、100%、全員から必ずこの言葉が出てくる。全体練習で100%の力を尽くしたあとで、さらに3対3や2対2などさらに強度と走力、的確な判断力が求められる勝負形式のメニューを、しかも長い時間行うのである。プロの世界だけに、通常であれば試合翌日や連戦中など、疲労具合によっては練習量をコントロールされるであろう日でも、容赦ないメニューが用意される。その意図を、森下コーチは次のように明かす。

「うちのチームに限らずですが、才能のある選手が本当にたくさんいます。でも、そのポテンシャルを発揮できていないのは、本能が目覚めていないだけ。それを目覚めさせようと思ったら、もっともっと練習しなきゃダメなんですよ。もっと言えば、プロになる子ほど自分の才能に全然気付いていない子が多い。それを気付かせるのが僕の仕事だと思っています」

「本能を目覚めさせたい」との強い想いは、選手たちにもしっかりと伝わっている。

高校3年次、所属したガンバ大阪U-23の監督として同コーチの下で指導を受けていた食野壮磨が選手目線で“キツい”メニューを続ける価値を力説する。

「エクストラ、めちゃくちゃきついんですよ。量的にもすごくやりますし、強度も高い。でもそれが仁志さんの流儀。いつもおっしゃっているのは『おまえの才能は、たぶんまだ4割ぐらいしか出せていない。残りの6割を出すためには、もっと練習して引き出すしかないやろ』と。正直、キツすぎて心が折れちゃう時もあるのですが、人って追い込まれれば追い込まれるほど力が出てくるということをおっしゃっていると思うんですよね。窮地に追い込まれた時にこそ、その人の本当の力が出る。それを引き出して、それをアベレージとして常に出せないといけない。そのために練習するのかなと、僕は受け止めて練習しています」

今季、同コーチとの出会いを得た佐古真礼も、

「仁志さんは常々おっしゃってますが、3対3とか2対2(の練習を)を長い時間やっていくと、『負けたくない』という気持ちがバチバチになってきて、仁志さんの言葉を借りるなら、『そこで初めて本能が出てきて、そこからが自分が本気で夢中になっている状況。それが本当の自分だよ』って。それって、確かに自分だけではなくて、他の選手同士のバトルを見ていても、普段よりも1個高いレベルでお互いに持っているもの引き出しあっている印象を受けます。仁志さんは、その引き出し方が本当に上手い。僕も引き出されてる感覚があります」

と、これまでに現れていなかった、いわゆる“火事場の馬鹿力”が自他に限らず引き出されていることを実感しているという。

さらに佐古は続ける。

「『さすがにこれは無理っしょ』と思ったメニューでも、やってみたら意外とできるじゃんみたいな感覚もあったりするんです。たぶんそこはみんなも一緒で。それってつまり、みんなの常識の意識も変わってきてる感覚はあるから面白いですよね」

まさに“限界突破”。スカッド全員、一人一人が現状の限界を超えてポテンシャルの全てを発揮できてこそ、本当の意味での城福浩監督が掲げる「チームのために最大限の力を出す」の要求に達するに違いない。

そして、この“限界突破”に自分自身が毎日毎日挑戦し続け、同時にそれをチームメイトの全員が挑戦している姿を見ているからこそ、“エクストラ”の常連メンバーの誰かがゲームメンバーに選ばれた時には、我がことのように本気で応援する。逆に、メンバー入りした選手は「自分が活躍することで、エクストラで一緒に頑張っている選手たちの希望と勇気になれる」との使命感によってモチベーションと集中力はより一層高められている。

その象徴だったのが深澤大輝だ。明治安田J1第15節横浜FC戦で今季初スタメンとなると、巡ってきたチャンスでしっかりと結果を残し、以後、スタメン起用を勝ち取っている。

その姿を見て、エクストラでともに自らの限界をさらけ出しながら切磋琢磨してきた選手たちは「大輝くんに続きたい」とモチベーションを上げると同時に、「大輝くんぐらい力を発揮できれば、自分もJ1で活躍できる」と勇気づけられているのである。

とはいえ、これほどまでのキツい練習の積み重ねに自らの成長を実感し、日々モチベーション高く取り組み続けられているのは、すべて森下仁志コーチと、それを見守りきちんと評価してくれる城福浩監督があるからに他ならない。

後編では、森下コーチの人間味の深さにフォーカスする。

Reported by 上岡真里江
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