Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:福岡】執念の同点劇を生んだ2トップの威力とこれからの可能性

2025年7月23日(水)


「福岡の町に住むみなさんがここに集って醸し出す雰囲気というのは、間違いなくサポーターの熱、『絶対に点を取るんだ、泥臭く』というのを感じます」

明治安田J1リーグ第24節・京都戦。試合後の敵将・曺貴裁監督の言葉である。終盤にかけて自然と大きくなるサポーターの声援と手拍子。スタジアムの屋根に反響して何倍にも何十倍にも増す熱気。決して映像では伝わり切れない独特の雰囲気を醸し出すのが、ホーム“博多の森”であり、福岡の選手には苦しい時間帯に1歩前に出る力を授け、相手の選手には大きなプレッシャーを与える。

0-2で迎えた84分、システムを4-4-2に変更し、ロングボール主体の攻撃でゴールに迫る。ターゲットは高くて強いウェリントン、そしてポストプレーの上手いナッシム ベン カリファ。後半アディショナルタイム、90+3分にウェリントンが1点を返すと、90+6分にナッシム ベン カリファが放ったシュートを相手GKが弾いたところに重見柾斗が詰め、土壇場で同点に。ベスト電器スタジアムは熱狂に包まれた。


「我々のこのスタジアムの雰囲気、本当に会場全体でそういう機運を高めていただきましたし、途中から入ったウェリであったり、ナッシム、シゲ(重見)、橋本(悠)、湯澤(聖人)もそうですね、そういった選手たちが躍動して、難しい中で、緊張感がある中で、しっかりと答えを出してくれたなと思います」(金明輝監督)

最後まで諦めない全員の執念、途中出場でピッチに立った選手の躍動、そして「前線に2枚ターゲットが入ったので、その周辺でセカンドボールをという意識をより強くして入りました」と同点ゴールを挙げた重見が言うように前線のターゲットが増え、ボールがより収まるようになったことで攻撃に厚みが加わり、劇的なドラマは生まれた。

今シーズンの前半戦はFW不足に苦しみ、前線に多くのターゲットを置いて迫力ある攻撃ができる試合は少なかった。城後寿は昨年負った大怪我で長期離脱を余儀なくされ、ナッシム ベン カリファは第10節、シャハブザヘディは第16節を最後に怪我で離脱。ウェリントンも怪我で5月のリーグ戦2試合を欠場した。

厳しい台所事情に転機が訪れたのは6月。富山から加入した碓井聖生がデビュー戦でゴールを挙げ、復帰したウェリントンは、JリーグYBCルヴァンカップ プレーオフラウンドで2得点を奪い、今節リーグ戦初ゴールをマークして調子は上向きつつある。さらに、7月16日の天皇杯でナッシム ベン カリファとシャハブ ザヘディが復帰。これまで1トップが主体だったが、2トップも選択しやすくなり、効果を発揮し始めている。前節の神戸戦では碓井の幻のゴールを生み、今節は2ゴールにつながるきっかけを与えた。



「今後の我々のオプションとしては必ず必要になってくる部分だと思いますので、どうするかということで言えば、本当にいい意味で悩ましい部分ですね。とはいえ、それが相手にとっての脅威にならないと意味がないし、我々のストロングにならないと意味がないので、攻撃に全振りできるような状況なのか、守備も含めるとどうなのか、そういったところを総合的に判断しないといけません。1トップでシャドーっぽい選手たちを置くのか、ツートップならストロングとしてクロスに対してもう1枚強さを置くのか、そういう認識ではいますけれど、前に強い選手を2人並べたら得点が取れるのであれば、多分、みんなそうしているんで、そういう単純な話でもないと思っています。ただ、そこに秀でている選手なのは間違いないので、チームのストロングの部分と、相手とのバランスをうまく加味しながら決めていきたいなと思います」(金監督)

ここまで得点数はJ1で16位、シュート決定率は18位(データはいずれも©JSTATS)と決定力不足に苦しむ福岡にとって目標とする「リーグ戦6位以上、カップ戦優勝」に向け、2トップが得点力アップの重要なオプションになるに違いない。

Reported by 武丸善章