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【取材ノート:東京V】城福浩監督の重要視する「選手層の厚さこそ最大の補強」を支える“エクストラ”の価値と、担当コーチ森下仁志コーチの存在(後編)

2025年7月25日(金)
“エクストラ”と称される全体練習後の追加練習についてと、それを担当する森下仁志コーチの意図を前編でお伝えした。

全員が全員「キツイっす」と言って憚らない過酷なトレーニングを毎日続けることで得られる自身の成長の手応えと同時に、参加選手たちが必ずといっていいほど口にするのが、森下コーチの愛情深さへの感謝の言葉である。

その理由は、森下コーチから話を聞けば聞くほど強く深く伝わってくる。例えば、昨季は染野唯月と木村勇大の両FWがそれぞれ6得点、10得点を記録したが、今季はともに2得点ずつと、思うようにゴールを挙げられていない。先発メンバーからも外れることもある現状について、同コーチはこう力説した。

「うちの前線は、たしかに他のチームよりもタスクは多いと思います。でも、それができることで、ステージが上がりやすくなると思う。この世界は走力と強度とメンタリティーだけでもある程度上に行ける世界。もちろん、その先からは技術と判断力が必要となってきますが、逆にいえば、その走力、強度、メンタリティーというやるべきことをやれなければ試合には使ってもらえない。当たり前のことを当たり前以上にできていなかったから、元いたチームで自分の良さを出す時間もなかったと思うんですよね。『やるべきこと』と『やりたいこと』があって、『やるべきこと』こそがチームとしても個人としても勝つために必要なこと。ただ、そのやるべきこと、つまりは当たり前のことで苦労する選手が多い。そこは、チームが変わろうが監督が変わろうが、絶対に求められるところ。とにかく、穴がある選手はスタートからは外されますよね。スタートから出ようと思ったら、限りなく穴がない、当たり前のことを当たり前以上にできる選手じゃなければならない。ただ、それってなかなか難しいんですけどね」

その上で、森下コーチは続ける。

「僕が思うのは、サッカーもプレーも人生と一緒で。自分が嫌なことというか、『ちょっとこれはやりたくねーな』ということをやることで、やりたいことができるようになる。やっぱり、何かを犠牲にしなければ、得るものも得られない。マイナスなことをやっていかなければプラスは訪れない。そのメンタリティーになれるかどうかがポイントだと思っています。

どの選手もみんな、自分が『結果を出したい、出したい』と焦って、そのことばかりにフォーカスするけれど、意外と泥臭くて、目に見えないところを徹底して、それを続けられるかどうかの方が大事なんですよね。それを伝えて、ちょっと意識が変わってやることはやるのですが、うまくいかなかったら、そこでやめてしまったりする選手が多い。でも、大事なのは、そこで踏ん張ること。つくづく思うのは、サッカーをしていることが、ものすごく人生に生きてくるなということです。特にヴェルディの選手は若い選手が多いので、そう思ってほしい。思うようにいかない時は、逆にチャンス。まさに勇大やソメは今こそが本当にサッカー選手としても人間としても大きく成長する大チャンスだと思います」

また、その一方で、コーチとしてそうした持論を胸に貫いたトレーニングの積み重ねができるのは、選手たちが厳しい指導の中でも耐えながらも、日々の努力や成長を見逃さずに評価してくれる城福浩監督のおかげだと最大のリスペクトを口にする。

「本当に城福監督の存在は大きいと思います。わかりやすい例を挙げるとするならば山見大登ですよね。インアウト交代の試合があっても、次の試合でスタートから使ってくれる。そういう環境って、実はありそうでないんです。もちろん、『それがプロだろ』と言われたらそれまでですが、1人の人間だからこそ、それでも、もがきがいがあると感じさせてくれる監督なんだと思いますよ。なので僕は『ここでもがけずに他のチームに行ったら、諦められるでしょうね』と思っています。だって、プロ選手である以上、育成選手ではない。手も目もかける必要はないわけですから。それでも、城福さんはとことん選手それぞれの個性と課題を見極め、日々の姿勢や成長度合いを重んじて平等にチャンスを与えてくれる。だからこそ、選手たちはこのクラブに来た時の気持ちや、『これが当たり前じゃないんだ』という気持ちを絶対に忘れてはいけない。どうしても、環境に慣れてしまうことで現状が当たり前のようになってくるので、不満が出てきたり、不安だったりする。そうすると、根本なところをみんな忘れがちになってしまうんです。でも、極端に言えば、まずサッカーをやれていることだって当たり前ではない。それ自体が幸せなことなんですよ。それに加えて、あれだけお客さんが来てくれて熱い応援をし続けてくれていることを、みんな忘れがちなんですよ。それは絶対に忘れてはダメ。『人に感動や勇気を与えよう』と思うのであれば、自分が、よりしんどい時にこそ踏ん張れる人にならないと。そんな大それたものを与えられるわけがないんです」

きっと、こうした内容の言葉を、森下コーチは時に厳しく、時に寄り添いながら日々選手一人一人の性格に合わせて上手に伝え続けているに違いない。

高校3年次に所属したガンバ大阪U-23で監督と選手として出会って以来の関係である食野壮磨は語る。

「仁志さんは熱いけど、めちゃくちゃ愛情ある人ですね。僕にとっては父親みたいな人です。たぶん、選手の性格に合わせて接し方を変えていると思うのですが、高校時代から知っていたり、兄貴(食野亮太郎)との関係も深いので、僕にはめちゃくちゃ厳しいんですよ。ただ、たまに出る“飴”がすごい甘い(笑)いざという時には気持ちが上がるというか、自信を持てるような言葉がけをしてくれるのが本当に胸に刺さるんです。それに、自分がいま不安に感じてることとか不満に思ってることとかを、『おまえいまこう思ってるだろう』って、心を見透かされてるような感じ。その上で、『踏ん張らないとダメだぞ』とか、『その気持ちはわかるけど、もっと頑張らなあかん』みたいなことを言ってくれる。そういう言葉の1つ1つのおかげで、仁志さんと話したあとは絶対に『よし、頑張ろう!』という前向きな気持ちになる。そういう力を持っている方だと思います」

深澤大輝も続ける。

「仁志さんも城福監督も、本当に見てくれているなと思います。『こいつらを本当に試合に出させたい』という思いが伝わってきますし、『お前らがこれ以上上に行かなくていいなら、俺はここまでのことをしない』とはっきりと言っています。それって、愛情を持ってくれているからこそであり、本気で一回一回の練習にすべてをかけてるからこその言葉だと思っています。毎日の1つの練習をどうでもいいと思っているスタッフだとしたら、別にそこまで厳しいこと、細かいことは言わないはず。それでもあえて言ってくれることを、本当に僕ら選手はありがたいと思ってやらなければいけない。いつか絶対に『あの時があったから』と言えると僕は信じていますし、心からそう思える日が来るまでやり続けられるかは自分次第だとも思う。こんなにも『こいつらを成長させたい』というエネルギーに溢れている人に対して、僕ら選手が絶対に負けてはダメ。『練習はお前らが作るんだ』と仁志さんが言ってくださっているように、やるのは選手。それを特に若い選手にはもっともっと感じながらやってもらいたいなと思います」

「寄り添う」。言うのは簡単だが、真の意味でお互いがそう確信できるまでの関係性を築くのは決して容易なことではない。それでも、森下コーチを「寄り添ってくれている」と慕う選手はあまりにも多い。

城福監督も常々話す。「選手それぞれ課題というのがあるが、一回言ったぐらいや、たった数週間の取り組みで直るぐらいのものは、課題ではないんですよ。そう簡単には直らないものこそが課題。そこに対して、このチームで戦うことを選んでくれた選手には、絶対に見捨てることなくとことん向き合って一緒に乗り越えたい」と。

これほどまでの情熱をもった指揮官とコーチングスタッフの指導を受ける環境がいかに当たり前ではなく恵まれているか。

いろいろな意味での“当たり前”を意識することで、人生もサッカーキャリアも大きく変わるのかもしれない。

Reported by 上岡真里江