【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:決意と覚悟を心機一転の移籍に込めて。求め、応えて誕生した“名古屋の木村勇大”に懸けられる期待

名古屋グランパスがこの夏の反攻を期するうえでの重要なピースを手に入れた。今季から東京Vに完全移籍加入を果たし、背番号10を背負ってプレーしていた木村勇大を獲得できたのは、この前半戦で常日頃から「FWの得点が」とボヤき続けてきた長谷川健太監督にとって朗報でしかなく、何とか結果をともがいてきたFW陣にとっては「ナニクソ」と奮起を促す材料として歓迎すべきこと。今季はリーグ2得点と木村自身も苦しんでいるが、昨季10得点の実績と、加入早々に京都、東京Vと続く古巣戦に「ほんと『これぐらい俺はできるんだ』っていうのを見せられたらいい。今は名古屋の選手なので全力で倒しに行く」という新天地での意気込みが、ブレイクスルーを期待させる。
木村にとっては悩みに悩んだ移籍で、名古屋の熱意が実った移籍成立だった。「ヴェルディ側もすごく僕のことを引き止めてくれて。すごく、一筋縄ではいかなかった移籍だった」と木村は言い、「ヴェルディ側が最初何度も『いや、出しませんよ』って言っていたんですけど、それでも何回もプッシュしてくれて、そういう姿勢に自分はすごく惹かれた」と移籍交渉の経緯における名古屋の“熱”に突き動かされたと振り返る。夏の移籍ウインドーが開くと同時に名古屋の強化部は木村の獲得に動き、当初は良好な感触を得られていたものの、途中で一度は交渉が頓挫。それでも再度獲得のオファーを出し、ついには東京Vを口説き落とした格好だった。

東京Vで徐々に出場機会が減っていた木村も「友達感覚ですごく仲が良い」チームメイトたちと闘っていく環境は捨てがたく、名古屋へ行く際の挨拶では思わず泣いてしまったほど。「やっぱり背番号10だったり、そういう決意を東京Vのファン、サポーターの方にも伝えていたので。いま出ていくのが正解なのかなっていう想いはすごくあった」と後ろ髪を引かれる思いはありつつも、選手として出場機会を求める気持ちもまた正しく、前述のように何度も自分を「欲しい」と言ってくれるクラブの存在に「一筋縄ではいかなかったけど、『名古屋に行きたい』っていうのは途中から伝えていた」と、この完全移籍がまとまったことに胸をなでおろす一幕もあった。
シーズン中の移籍だけに、合流してからの流れは急ピッチに進んでいる。この点でもクラブの準備と熱意は感じられるところは強く、過去の移籍を振り返っても、合流してすぐは「まずは慣れてもらって」という傾向がスタッフ陣にもあったが、木村は合流2日目ですでに「背後に抜けて起点を作るところだったりは監督からもすごく求められているし、そのボールを受けてから1人でゴリゴリ行くところ、シュートまで1人で打開するところは健太さんに昨日一番求められた」とコミュニケーションがとにかく具体的だった。折しも名古屋は10日のリーグ京都戦から13日の天皇杯、16日のリーグ浦和戦と中2日での3連戦と過酷な日程が待っている。チームは強度とハードワークのスタイルだけに、とりわけ前線の選手は途中交代が前提で、パワフルな上にシャドーでもプレー可能な木村がそのひと枠を埋めてくれるとあらば、チームにとってこれほど助かることもない。

自分の“職業”への理解度、そしてチームが求めているものへの理解度が高いことも頼もしい。自身を「なんでもできるタイプ」と称する木村だが、ストライカーである以上、狙うべきものの一番は得点以外にはない。「このチームは縦に速いぶん、ゴールに迫る回数は多いと思う。積極的に足を振りたいですね。10本打って10本決めるなんか無理なんで、ストライカーは1本でも多く足を振って、ゴールに近づいていけるようにしたい」というセリフは彼の哲学を示すものであり、点取り屋らしい冷静さと貪欲さの両方を感じさせるいい言葉だった。目標の数字は「空回りするから」と苦笑して明言はしなかったが、「ゴールとアシストは必ず残さないとダメ。そのためにはまずシュートの本数、チームとしてのチャンスクリエイトの数を上げていかないと。その一翼を担えるようにまずはしていきたい」と、得点に向かっていくプレーの増産を宣言した。
24歳はまだ若いようで、今回の移籍の意味を理解すればその立場に甘んじるわけにはいかない。「自分の年齢も若い年代じゃない。もちろん学べることは全部学んで、いろいろ教えてもらって吸収しますけど、それだけをしていられる立場じゃない。チームを勝たせるためにここに来たので」とは、穏やかな語り口とは裏腹の、覚悟の深さを思わせた。
「この時期に移籍金を払ってもらって、それで自分が来たっていうのはすごく大きな意味合いを持つと思います。ファンやサポーターの方にも『来てもらってよかったな』って思ってもらうには、やっぱりゴールであったり、直接結果につながる部分っていうところをどれだけ出していけるかっていうところだと思う。自分の良さを出して、チームのやり方に沿ったプレーをした中で、ゴールとかアシストという結果の部分にこだわってやっていければ」

選んだ道の正しさは、自らのプレーでしか証明できない。新天地では高校時代の思い出の番号22を背負う木村勇大は、その決意の移籍の“初心”を背中に込めつつ、心機一転のゴールで名古屋を救う。
Reported by 今井雄一朗