【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:頼れる兄貴分とチームメイトたちの後押しを受けて。森壮一朗はここから大きく、力強く羽ばたく

プロになって初めてのフル出場は、濃密すぎる90分間となった。名古屋U-18所属で4月にクラブ史上4人目となる高校生でのプロ契約を結び、4月のルヴァンカップでプロデビュー。以降は長くて60分程度のプレータイムや試合終盤の数分の出場に留まっていた森壮一朗だが、8月に入ってそのクオリティを急激に進歩させ、81分間のプレーとなった京都戦に続き、アウェイの浦和戦というプレッシャーのかかる舞台でついにフルタイムをプレー。「右の中山と合わせて、良かったから交代を引っ張った」と指揮官が明言するほどのパフォーマンスを発揮し、またひとつステップを上ってみせたのだった。しかし本人は「その期待に応えられなかったっていう悔しい思いが今は一番大きい」と浮かれた様子は皆無。すでにプロとしての覚悟を感じさせるその言動と、時折見せる若さとのギャップはいま、森の最大の魅力として広く伝えたいところでもある。
たとえば浦和戦後、前半にマテウス サヴィオに言い方は悪いが“子ども扱い”されたような1対1が何度もあった。格の違いを見せつけられるかのように二度、三度と簡単にボールを失ってしまう森だったが、意地を見せるかのように一度、ボールをサヴィオから奪い返す場面があった。「取られてばっかで攻撃では何もできなかったので、せめて守備でも、っていう気持ちでやってやりました。結果的に取れてよかった」。言ってしまって直後、「“やってやった”って言ったらおかしいですけど」と苦笑した18歳だったが、この負けん気が心地よい。サヴィオとのマッチアップには感じたことのない圧を感じたと言い、それを考え直してみると「なんだろうな。いや、単純に自分がその名前にビビってただけですね」とまた苦笑。ただし、これを良い経験だったということで終わらないのが、森という選手の面白いところでもある。

「これが本当のJ1のトップの選手なんだっていうのを肌で感じることができて、それはすごくいい経験って言ったらいい経験ですけど、“いい経験”だけで終わらせていいチーム状況でもないですし。今は一勝が本当に大切になってくる時なので。その、言ってしまえば降格が見えちゃっている順位の中で、こんな情けないプレーをしているのはほんとに責任を感じたし、だからこそ後半に向けてはコーチたちにも『お前がビビってたら何も始まんないぞ』って何度も声をかけられて。そこからうまくメンタルを立て直せたし、自分の持ち味を前半よりも出せたかなっていうのは感じたので、そこはひとつ手ごたえかなと思います」
高校生は、10代の若手はもっと何も考えずにプレーしていいとも思うが、そこまで意識ができる選手にはその感性が次へのステップを大きく強くもする。フル出場の件についても、実はこの週半ばの天皇杯を森はユンカーとともにスキップ、つまりメンバーにも入れず温存されての浦和戦だった。「天皇杯をスキップさせていただいて、チームメイトからは『最年少が!?』って言われたんですけど、それはそうなんすけど!(笑)、だからこそこの試合にかける思いっていうのは大きかった」とバツの悪そうな表情で18歳は振り返る。ただ、まだ若い身体には無理が利く一方で、プロの負荷には逆にもろいところもある。そこを考慮しての天皇杯スキップだったわけだが、浦和戦では試合展開的にも負担は大きくなかったようで、「なんかまだやれたなっていう感覚があって、そこは余力を残しちゃダメだろって自分でも思うんですけど(苦笑)。でも90分できたのはひとつ成長したところかなと思います」と、自分にツッコミを入れつつフル出場の充実感に浸っていた。

そしてこれだけの意識や自覚、そして若手ならではの負けん気の強さを併せ持つ選手に対して、チームメイトたちもその成長を促そうという思いを隠さない。90分をアグレッシブに戦い抜いた浦和戦だが、2失点目のサヴィオのゴールの際にはシューターに寄せきれなかった森の“ミス”は事実としてあった。それで彼の責任を問う声はなくとも、本人にはやはりミスとして刻まれるもの。前述のサヴィオとのマッチアップにしても、自分がやられていればチームに負担をかけるという思いはもちろん森の心中を駆け巡る。こうした時に陥りがちなのは安全第一の方にメンタルが向いてしまい、ミスをしないように、突破されないようにとネガティブなプレーが増えること。そこである男がこの18歳に熱い、何とも男気あふれる言葉をかけていたのだと、背番号44は教えてくれた。
「仲間からほんとに『もうお前は続けろ』っていう風に言われましたし、試合が終わった後には輝綺くんにも『お前がボールを取られて、あー!ってなってるんだとしたら、俺のこと信頼してないってことだろ?』って言われて。『俺が後ろにいるんだから』って…(振り向いて「いないですよね?」と笑う)。輝綺くんがそうやって言ってくれて、ほんとに今は輝綺くんが後ろでどんと構えていてくれているからこそ、今の自分がいると思う。だからほんとに信頼していたつもりが、そうやって言われて『たしかにな』って思って。僕は18歳で、ピッチに立ったら年齢なんて関係ないですけど、自分のこのひとつのアドバンテージ、若さっていうのをどんどん出していこうと思います。もっともっと仲間を信頼して、自分の特徴とストロングポイントで、ミスをしてもそれで取り返せばいい。そういうメンタルにどんどん、どんどん自分を変化させていって、良い方向に繋げていけたらなと思います」
森の決意もさることながら、原輝綺のなんと熱いことか。自身もまた高卒ですぐ試合に出場していた選手であり、森の心境や苦労は手に取るようにわかるのだろう。そして常日頃から言っているが、彼は味方の力を引き出すことが自分のプレースタイルとしており、後輩かつ若手しかも10代という森に対しては、並々ならぬ“庇護欲”も湧き出している模様。森に話を聞いた後、運よく原が通りがかったのでそのことを尋ねると、「そんなこと言いましたか?」と一回とぼけてのち、何とも感動的な森との関係性を明かしてくれるのだった。

「今日の壮一朗は失点に関わってはしまいましたけど、あそこに寄せる、寄せに行くっていうことはできている。僕はああいう、もちろん失点に絡まないで、そこでしっかり止められる選手がやっぱり一流だと思いますけど、ただ彼はまだ高校生で、ああいう場面でビビってるんじゃあ、次にもっと寄せられなくなったり、もっとビビって、プレーできなくなっちゃったり、さらには仕掛けなくなっちゃったりする。せっかくいいもん持ってんのに、ひとつのプレーでね。ちょっと落ち込んでいるように見えたんで、言いました。最後のところで自分に当てられなくて失点したのは事実だけど、そこにDFはしっかり寄せること。怖がらずに自分が責任もって寄せきることだと。これは以前から言っていることですけど、僕は失点の場面でその失点に絡んでしまおうが、そういうシーンに今まで顔を出せていたのに、僕がそこに出ていけなくなったりとか、間に合わなくなることが増えてきたら、もう引退するって決めてるんで。もちろんそれでミスを美化しようとはしていないですし、失点に関わったことは僕も含めて、関わってしまったことはしっかり反省しないといけない。次はそこをしっかり止められるように工夫はしますけど、根本的な気持ちの面として、いつかは失点に絡んでしまうポジションだからね。
それに壮一朗の良さは攻撃にありますし、今日は前半、特に良いクロスも多かった。ボールを取られる数も多かったですけど、まあ後ろには…俺がいると(照笑)。それで点を取られてしてしまったら俺のせいだし、責任を負う必要は、18歳が負う必要なんて全くないと思うんで。周りの選手に気持ちよくプレーさせるっていうのが僕の役目ですからね。特に、僕も高卒で試合に使ってもらって、勝てない時期が続いて辛い思いをしたことがあるので、彼にはそういう思いはしてほしくない。僕とは違って、のびのびと気持ちよくプレーしてほしいなと思いますから。『やられたらやり返せ』とは言いましたけど、彼も気持ちは弱い方じゃないと思うし、負けん気もありますし、僕はああいう選手が大好き。僕はもうああいう選手を支える立場にありますし、飛躍させてあげたいなと思います。これは自分がしっかり“ケツを拭いてあげられる選手”に、もっともっとなっていかないといけないなっていう戒めも込めて言いました」

そんな立場になったことに対して問うと、原はまた照れ臭そうに笑みをこぼし、「まだなれていないですよ。それができるようになれば、僕自身ももうひとつ成長できると思うし、僕の成長のためにも『全部俺に任せろ』と。それでできなかったら俺のせいだからと。久々に年下と組むし、そう言ってあげるのも先輩の役目かなっていう感じで」と答えた。気づくと原の後ろの方に、取材を終えてバスに向かったはずの森がいる。どこか、こちらの会話を気にするようにチラチラと視線をよこしながら。
話を終え、原がバスに向かうとその後ろを追いかけるように森も出発する。この師弟、いや兄弟っぽさもある名古屋の右サイドのコンビの関係性をよく表す光景だった。初のJ1リーグでのフル出場、トッププレーヤーにやられた記憶、やり返した手応え、失点に絡んだ悔しさ、それらすべてを許容してくれる優しく頼れる兄貴分はじめチームメイトたち。森壮一朗はこの1日で、大きく得難い経験をその身に刻み込んだはずだ。今季残された実践の機会はリーグ戦だけで12試合。名古屋の若き右の翼がここからの半年で、どれほどの大きな羽ばたきを見せるか楽しみで仕方ない。
Reported by 今井雄一朗