【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:“ファミリー”からの激励を力に変えて。残り10試合のラストスパートへ向けた、和泉竜司の誓い

優勝を争う時も、あるいは残留を争う時も、「シーズンは残り10試合が勝負」とこの世界の人々は言う。どんなに好調でも、どれだけ不調でも、最後の10試合でどれだけ勝点を積み上げられるかで目標を達成できるかは決まるのだと。今季の明治安田J1リーグは残りがちょうど10試合となり、順位表の上も下も“メインキャスト”がそろそろ定まってきた。名古屋グランパスは残念なことに残留を争う方のキャストとして、ここからの終盤戦を戦う。
リーグでの連敗を4で止めた前節、FC東京との一戦は復調の兆しと流れの悪さの両方を感じる90分間だった。止まらない失点癖を矯正すべく、長谷川健太監督は選手たちと対話を重ね、選手からの意見も受け入れて“原点回帰”を画策。昨年のルヴァンカップ優勝を勝ち取った強力なマンツーマン守備は彼らの武器であると同時に、相手の研究が進んだ現状では諸刃の剣とも化していた。キャプテンの和泉竜司はその点を指揮官に進言したと言い、「プレーが一度切れた後の失点も多かったので、それも含めて」と守備面からチームの立て直しを図ったという。ベテラン永井謙佑も「ちょっとラインが深くはなったけど。徐々にそれが高くなっていけば、攻撃への距離も短くなって厚みが出てくる」と一定の手応えを感じていた。では実際に何をしたのか、稲垣と和泉の意見はこうだった。

「チームとしての考え方。全部が全部を人につこうともしていないし、その使い分けのところで、どのくらいのエリアでゾーンで守っていくのか。そしてどのくらいまでマンツーで掴みに行くのか。ゾーンで守ったとして、どのエリアからまたマンツーに切り替えてはめに行くのか、そこの使い分けの仕方、意識のすり合わせに甘さがある。そこでフィルターがかからずに崩されている、というのもいくつかあるので、そこの改善はマスト。そこの意思統一はしっかりしなければいけない。チームとしての基準みたいなものは持っていかないといけない」(稲垣)
「前線だけ行ってもいけないし、逆に後ろが上げても前が行けていなかったら、逆にスペースを相手にあげるだけ。基本はボールに行くけど、相手も自分たちのことは研究していて、取りに来た時のこちらのボランチ脇だったり、後ろが5枚並んだ時のボランチの脇は明らかに狙われていた。相手の陣地で、後ろからも『ゴー』の声がかかっている時はマンツーマン気味に行くけど、自陣に押し込まれた時や、ひとつ外された時はしっかり5-4-1だったり5-3-2を作って、チームとしてまずは中から守る。しっかり相手の攻撃を遅らせて外回しにさせるということはみんなとも話した。人に行きすぎて空いていたボランチ脇は前の選手が2回追う、1回引くときはしっかり引いて守る。そこで穴が開かなければ、“5-3”や“5-4”の形を作っていれば、そう簡単に相手も崩せない」(和泉)
これが残り10試合の基準点となる。相手のボールに食いつくインテンシティは出していく一方、それが無謀にならないような判断を伴わせること。「自分たちがどうやって守って、どうやって攻めるかの部分で同じものを描いてやれば、そう簡単に崩れるメンバーじゃない」と和泉は付け加えた。FC東京戦ではしっかり守りを整えたところからの速攻によるチャンスも多く生まれ、特に深い位置からのフィードを永井と山岸祐也でシンプルにつないで永井が抜け出した決定機はこれぞ名古屋という迫力があった。シュートは残念ながらゴールの枠を大きく外れたが、永井は「突き刺してやろうと思ったら完全に力んだ。決めたい欲が強すぎた」と反省しきり。試合終了間際のアクシデンタルな東京の同点ゴールにも触れ、「個人的にはめちゃくちゃを責任を感じている。自分が決めていればピサノのミスなんて別に関係なかったので。ピサに申し訳ない」とうつむいた。戦い方の修正に一定の効果が認められたからこそ、両方のゴール前でのクオリティが今後はさらにものを言う。

永井はまた、「正直な感想は“もったいない”だけど、僕自身も決定機を外している。追いつかれたのはピサだけが悪いわけじゃなく、“誰が”じゃなくて“全員”でやっていかないといけない。ファミリーのみんなもすごく後押ししてくれているから、その風に僕らも乗っていきたい」と話した。この日、試合前のウォーミングアップが始まる前のゴール裏スタンドへの挨拶の際、コールリーダーからの檄に選手たちが耳を傾ける一幕があった。入場して、挨拶をして、すぐアップへ向かういつもの流れではなく、じっくりとサポーターたちと向き合い、試合への高揚感を高めるような、静かな気迫を感じる時間だった。和泉はその時間のことを「熱くさせてもらいました」と振り返り、チームと“ファミリー”が一体となったここからの残留争いに力を込める。

「スタジアムにバスで入ってきた時からそうですけど、ほんとに一緒になって戦ってくれてるなってすごく感じました。当然、ファミリーの皆さんもフラストレーションが溜まっていたと思うし、連敗が続いていて、なかなか僕らが勝利を届けられない中で、それぞれの人がいろいろに思うことはあったと思うし、それは当然のこと。それを僕たちはしっかり受け止めて、プレーで見せるしかない。試合前のあの時間はほんとにすごく熱くなるもので、熱くさせてもらいました。だからこそ勝ちを届けたかったっていう思いが一番で。そこは個人としても本当に悔しいし、『鯱の大祭典』で1勝もできなかったことにも悔しさは残ります。でも、残り10試合を残留に向けて一緒に戦ってほしいですし、皆さんの気持ちはすごく伝わっているし、その気持ちに応えたいっていう思いは強いので。悔しい想いを想いをさせている責任を感じていますし、それを忘れずに、しっかり胸に刻みながらやり続けるしかない。
ほんとにファミリーの皆さんはホームもアウェイも変わらずたくさん応援に来てくれていますし、そういう人たちのためにも、1勝でも多く届けたいです。グランパスはJ1にいなければいけないチームで、J1残留はマストで戦う。そこも責任は感じるところですけど、一緒に戦ってほしい。苦しい時の1歩が出せたり、走れたり、そういう支えになるのはファミリーの皆さんなのは間違いないので。今日みたいなすごく熱い声援にしっかり応えられるように僕らは試合も練習も、日々をしっかり取り組んでいきます」
チームの全員がもちろんそうだが、永井や稲垣、和泉らはとりわけ応援の力を強く信じている選手たちだ。そしてまた、このチームに対する帰属意識や忠誠心も強い選手たちである。こうした言葉がなくともピッチ上のプレーや振る舞い、身体を張ったハードワークによってそれを感じることはできると思うし、実際にこうして言葉にもする。今季最後のタイトル獲得のチャンスだった天皇杯の敗退を受けて、稲垣は「もうだいぶ、失望に近いような感情を抱いている方もいると思う。そこはプロとして、支えてもらっている身として、そういう思いをひっくり返せるように頑張っていきたい」と語った。約2週間ののち、リーグ戦は再開する。降格圏は近いが、その中にいない分だけまだ彼らは有利な立場にはある。勝点を積み重ね続ければ、できれば“3”を積み上げ続けていくことで、危険水域からは自分たちの力で離れていける。「あとは結果の部分にこだわっていく」(永井)。引き分けながらようやく抜けた連敗のトンネルの向こうに、力強いラストスパートが始まることを期待したい。
Reported by 今井雄一朗