
会心の一撃だった。
明治安田J1リーグ第29節・セレッソ大阪戦の41分、左コーナーキック。キッカーの名古新太郎はショートコーナーを選択する。短くパスをつないで橋本悠、そして、中央にポジションを取る見木友哉へ。フリー。約20メートルの位置から背番号11は迷わず右足を振り抜いた。
「相手のスカウティングがあった中で、セットプレーコーチの案でした。結構フリーでしたし、とにかく枠に(入れる)ということと低く抑えるということは意識して。できればグラウンダーのほうがいいかなと思っていたので、狙い通りに打てました」
激しい雨が降りしきるスリッピーなピッチを考慮して奪った先制ゴール。今シーズン、チーム最多となる5得点目は、得意のミドルシュートからだった。
「ミドルシュートはできるだけ枠内に収めるようにはしています。ふかしたらノーチャンスなので。枠にさえ行けばこぼれ球だったり、セカンドチャンスもあるので、枠に入れるというのは意識しています。ミドルシュートはやっぱりパンチ力が大事。枠にさえ飛べば(GKに)そこまでキャッチはされないと思うので」
ボックス・トゥ・ボックスのプレースタイルを支える正確な足元の技術、冷静な状況判断、豊富な運動量。ここまでボランチやトップ下でプレーする見木は、10番を背負った東京ヴェルディから今シーズン福岡にやって来た。
「ヴェルディは(昨シーズン)6位という順位で終えましたし、ヴェルディに残る選択肢もあったんですけれど、やはり自分の価値をもっと高めるためにはと考えた時に、アビスパに移籍した方がいいのかなと思い決断しました。攻守にアグレッシブなスタイルで、かつ論理的なサッカーをするというところが自分のサッカー観と似ているところがあったので、このチームの方が自分の力を発揮できるのかなと思い移籍しました」
ピッチを縦横無尽に走って積極的にボールを奪い、力強くボールを前に運び、ゴールに絡んでいく。開幕から攻守に期待通りの活躍を見せ、昨シーズンまで福岡の「心臓」だった前寛之(現・町田ゼルビア)に代わって瞬く間にチームの中心になった。
だが、5月の第16節・横浜FC戦で右足に違和感を抱え、途中交代。ルヴァンカップで一度は復帰したものの、その後、長期離脱を余儀なくされ、苦しい時間を過ごしてきた。それでも焦ることなく、自分がやるべきことにフォーカスし、再び試合のピッチに立つ準備を進めてきた。
「自分は自分のできるパフォーマンスをするだけですから、練習から常に100パーセントを出してやっていって、(どのように選手を起用するか)最後は監督が決めるだけなので。どのポジションで出るかにもよるとは思いますが、ボランチで出た時に、自分だったらこうできるなとか、そういうふうに思うこともあるので、自分が試合に出たらそういったところを発揮して、見ている人に『見木が入ると違うな』と思わせられればいいなと思います。結局、『ゴール数が』というところだったり、最後にどうやって点を取るのかというところで、自分が入ったら違いを作り出さなければいけないというふうに思っていました」
8月の第26節・鹿島戦で復帰を果たすと、C大阪戦で5月の第14節・広島戦以来となる復帰後初ゴールを決め、彼本来の姿を取り戻しつつある。
ここまでの1年の歩みは、当然シーズン前に思い描いた形ではない。福岡で活躍し、E-1選手権で日本代表に選ばれ、実力をしっかりと証明して海外のクラブへと羽ばたく。見木の頭の中でイメージしていたステップアップの理想から怪我によって変化が生じた。
「もちろん代表に入りたいし、海外のいいクラブでという部分ももちろんありますけど、年齢を考えれば、海外移籍はこの1年がラストチャンスだと自分でも思っています。けれども、ただ海外へ行くのが全てでもないと思っているので、まずは1試合、1試合、1日、1日を大事にして、残りの試合で自分の価値をどれだけ上げられるかという部分にフォーカスしたいですし、そのためにアビスパを勝たせるだけです。自分自身は、本当にアビスパで心地よくやれているし、アビスパでタイトルを取りたいという気持ちがめちゃくちゃあります」
全ては福岡を勝たせるために、福岡を強くするために。これからの自身のキャリアのためにもまず、自分が福岡でできることに集中する。27歳の見木は今、それだけしか考えていない。
「(C大阪戦で)一つ(ゴールという)結果が出たのは個人的にも嬉しい部分はありますけど、やっぱりチームが勝てていないというところで責任を感じます。自分が勝たせるという強い意志をもって残り9試合プレーするだけだと思いますし、そこには今日みたいなゴールを残り9試合で量産する必要があると思うので、残り9試合、ゴールに絡むことを常に狙いつつチームの勝利に貢献したいと思います」
開幕前に掲げた個人的な目標は「二桁ゴール、二桁アシスト」。見木は福岡の「心臓」としてこれからもチームを引っ張っていく。
Reported by 武丸善章