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【取材ノート:今治】構えるのはゴール前だけにあらず。GK立川小太郎は勝利のために隅々まで気を配る

2025年9月29日(月)


ゴール前の密集をグラウンダーのシュートが抜けてきた。大きく左に飛び、思い切り手を伸ばしたものの、はじき出すことはできず。勝利まで残り3分というところで決められた同点ゴール。それだけに全身から悔しさがあふれ出た。

初めてのJ2の舞台で、上位で堂々の戦いを繰り広げるFC今治は、勝点46の9位で明治安田J2第31節に臨んだ。ホーム、アシックス里山スタジアムに迎え撃つのは、勝点3差で5位のサガン鳥栖。勝てば得失点差で順位を引っ繰り返せる極めて重要な一戦である。

鳥栖に、想定とは違う前進の仕方で挑んでこられた。だが、今治の選手たちはピッチの中で戦い方を変化させて、流れをたぐり寄せた。

奏功したのは、1人1人が相手を捕まえてボールを奪い切ろうとする、よりソリッドなハイプレスにシフトチェンジしたことだ。試合序盤からペースを握ると、22分、エースのマルクス ヴィニシウスのJ2得点ランキング2位タイに並ぶ今季13点目のゴールで先制に成功した。

守っては前半、鳥栖のシュートを1本に抑える。その1本はハーフタイム目前の45分、鳥栖のチャンスメーカー、新井晴樹にサイドを突破されて上げられたクロスからのもので、こぼれ球を長澤シヴァタファリにプッシュされ、枠内に飛んできた。しかし慌てることなくしっかりキャッチ。落ち着きとさらなる集中力とをチームに伝播させた。

後半は鳥栖が次々とスピードのあるアタッカーを投入し、ギアを上げて反撃してきた。しばしば背後のスペースを突かれ、ピンチも増えていく。だが、相手との間合いをすばやく詰めて危険なシュートをブロックし、際どいクロスにも思い切りよく飛び出して、今治ゴールを守り続けた。

しかし87分、ペナルティエリア横で与えたFKからグラウンダーでマイナスのボールを入れられ、フリーで走り込んできた西川潤に蹴り込まれて、土壇場で勝点1を分け合う結果となった。


「普通の(シュートの)軌道だったら止めれたんですけど。味方に当たって、ちょっと外に行ってしまった。まあ、潤を褒めるしかないですね」

昨年、いわきFCで共に戦った西川の3試合連続ゴールを素直に称える表情から伝わってきたのは、結果を真摯に受け止め、すでに次の徳島ヴォルティス戦に向けて切り替えている姿勢である。

「ひと言でいえば、もったいない試合でした。90分、最後の笛が鳴るまで何が起こるか分からない。それは先週、RB大宮アルディージャ戦で自分たちが示せたところでしたから(86分の決勝ゴールで3-2で勝利)。みんな分かっていたとは思うけれど、アラートな部分がちょっと足りなかったかな、と」

鳥栖が反撃の勢いを増してくるほどに、危機感、警戒感は増していった。

「後半、こちらが隙を見せる前兆のようなものがあったので。切り替えの部分で自分たちがワンテンポ遅れ始めて、そういうところの積み重ねが一瞬の隙になって、最後の失点になったのかな、と思います。後ろから繰り返し言ってはいたけれど、もっと言わないといけないですね」

実際、声掛けの意識は顕著だった。ゴールマウスから声が届く範囲だけではなく、鳥栖のセットプレーに対して守備をセットするわずかな時間も逃さず、自陣に戻ってきた攻撃陣のところに駆け寄って言葉を伝えた。

さらに後半が始まる前には、ピッチに入っていくとき、主審の井上知大レフェリーと何やら話す光景も。前半は鳥栖のシュートを1本に抑えたし、GKが翻弄されるような際どいシーン、ピンチはなかったのだが……。

「8秒ルールの適用の仕方について、カウントするシチュエーションなど、主審の方とコミュニケーションを取りました」

守る持ち場は今治のゴール前。だが、俯瞰の視点でピッチ全体を見つめ、勝利するために抜かりがないよう神経を張りめぐらせているのだ。

「ちょっとしたことが決定的な違い、大きな結果につながりますから。細部からしっかり見ていかないといけない。でも、しっかりやれている部分はあったので、そこは自信を持って継続しつつ、徳島戦に向けて準備していきます」

次節、勝点4差で5位の徳島との対戦を経て、現時点で2位のV・ファーレン長崎(第34節)、4位のベガルタ仙台(第35節)、3位のジェフユナイテッド千葉(第38節)と、上位との直接対決がシーズン最後まで続く。奮い立たないはずがない。

「これほど白熱している昇格争いは、そうそう経験できるものではないです。今の状況を楽しみながらがんばりたい。鳥栖との引き分けは自信を失うような結果ではないし、プレーオフ圏内はもちろん、自動昇格も全然、狙えます。J1を目指すチームを勝たせられるGKにならないといけないです」

自身はもちろん、仲間の気持ちも引き締めながら、力み過ぎず、自然体で今治のゴールを守り続ける。勝利、そして昇格のために、構えを取り続ける。

Reported by 大中祐二