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【取材ノート:福岡】大一番で発揮したアビスパ福岡の真髄。一つのポジションチェンジが効果をもたらす

2025年10月7日(火)


雷雨の影響で約90分キックオフが遅れた明治安田J1リーグ第33節・横浜FC戦。クラブ創設30周年記念試合のこの日もベスト電器スタジアムには、「博多の森」の独特な雰囲気が存在した。

リーグ戦5連敗でJ2降格圏とは勝点差「6」。負ければ残留が危うくなる大一番。サポーターもこの試合の重要性を十分に理解していた。時間を追うたびに大きくなる声援と手拍子は、スタジアムの屋根に反響して何倍にも何十倍にも威力を増し、選手たちの背中を押す。

「僕らにこれだけ声を掛けてくれるファン・サポーターの方がいる。その人たちが上を向いている限り、僕らが下を向いている場合じゃなかった」(田代雅也)

ここは俺たちのホーム。福岡の意地、プライド。これまで福岡の歴史を紡ぎ、支えてきてくれた人たちのためにもこれ以上負けるわけにはいかない。勇気をもらった選手たちは、アグレッシブに戦い続けた。

51分に湯澤聖人のゴールで手にしたリード。降格圏からの脱出を図る相手も必死にロングボールを多用した攻撃で状況を打開しようとしてくる。それでも全員がやるべきことを徹底。最後まで集中力を切らすことなく、体を張って粘り強く守り抜いた。


「アビスパが紡いできた歴史をもう一度、彼らが表現してくれた」

金明輝監督は記者会見で選手たちを讃えた。8試合ぶりの勝利は、8月23日以来となる無失点によるもの。キャプテンの奈良竜樹は、この1勝を次のように捉えている。

「本当に1試合勝つということがいかに大変なことか。全員がチームのために戦えてようやく勝てる。どこかちょっと(チームの)ベースの部分が薄れていました。自分たちが綺麗にやること、攻撃的に(プレー)することは、もちろん、監督が積み上げているものであるのと同時にただ、アビスパの文化というか、一人一人がその局面でバトルするだけじゃなくて、そこで戦う選手とそれをサポートする選手、カバーする選手がいてゴール前ではみんなで体を張って守ること。もちろん、今日(横浜FC戦)は綺麗ではなかったかもしれないけど、ただこういう試合で厭わずにやるというのがアビスパがこれまで培ってきたベースの部分だと思います」

チームの基盤である堅固な守備。誰かがやられても誰かがカバーする。泥臭くてもいい。ポジション関係なく、全員でしぶとく守って勝利を掴み取り、これまでJ1昇格も、J1残留も、ルヴァンカップ優勝も果たしてきた。

アビスパ福岡の真髄を示したこの試合、一つのポジションチェンジが効果を発揮した。直近5試合で11失点。金監督は守備の安定性を高めるべく、前節までとは立ち位置を入れ替え、3バックの中央に田代、右に奈良を配置した。田代のバトルの強さと奈良のクレバーさ。それぞれの良さを増幅させ、互いを補完し合うことに成功した。

「(3バックの左の)安藤(智哉)が攻撃時は(前線に)上がっていくので、僕と奈良が2枚のセンターバックという形になる中で、左(サイド)のスペースをどうやって管理するのか。もちろん右(サイド)で湯澤がドリブルで(前に)運んだ時には奈良も上がっていったり、安藤が中に入る機会もあるので、僕は(空いた)スペースをどの選手でどう管理するのかを意識しました。誰がチャレンジして誰がカバーするかというのは本当に必要以上にミーティング含めて確認したので、そこはピッチで出て良かった」と田代は言い、奈良は「田代はやっぱりあそこで(相手の)頂点の選手にバトルで戦えるというところ。そこを僕とドウー(安藤)と(ボランチの松岡)大起でカバーするというところ。向こうのアタッカーはやっぱり強力だったし、そこのバトルで後手を踏むと横浜FCのリズムになってしまうという中で、田代もそうだし、ドウーもそうだし、大起もそうだし、本当に局面で負けなかったこと。そこに全集中できるような周りのしっかりとしたサポート、カバーがあったというところ。チームとしてのオーガナイズは、横浜FCに対してというところで言うと良かった」と振り返る。

これまで見せてきた後方から丁寧にパスをつないでのビルドアップや流れの中でDFの選手が攻撃参加するシーンは、この日少なかった。攻撃の前にまず守備。リスクを最小限にし、相手の特徴を抑えることに重きを置いた。全ては残留争いに巻き込まれないために。タスクをシンプルにして、目の前の試合に勝つことだけにフォーカスした。

「(横浜FC戦は)監督も自分のやりたいことじゃなくてチームが勝つため(というところをより意識していたと思います)。もちろん、それはどの試合でもそうですけど、よりこの試合に関してはそこの部分(にこだわりました)。ドウーも(いつもと比べると)多少(攻撃参加を)抑えめにやっていたと思うし、ただ、その中で彼の強さと高さを出してくれました。それはドウーだけじゃなくて、田代もそうだし、ウェリントンもそうだし、選手それぞれが(自分の)強みをしっかりと発揮してチームの力になっていたと思います」(奈良)

当然、監督も選手たちもこれで満足はしていない。まだ一つ勝っただけ。最低限の仕事を果たしただけ。敵陣でボールを多く走らせ、相手を揺さぶって作った決定機を確実に仕留めて勝つ。これまで培ってきた堅守を大事にしながら、目指すのは攻撃の進化。残り5試合、上の順位だけを見据え、自分たちの理想に向かってチャレンジすることが、福岡に課せられたミッションだ。

Reported by 武丸善章