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【取材ノート:清水】1人だけ時間がゆっくり流れている!?マテウス ブエノ、圧倒的キープ力のルーツ

2025年10月9日(木)
清水エスパルスの今季の新戦力で、もっとも強烈な印象を与え続けている選手といえば、多くのサポーターが迷わず27歳のブラジル人ボランチの名前を挙げるだろう。

マテウス ブエノ、ブラジル2部のグアラニFC(サンパウロ州カンピーナス)から完全移籍してきた178cm/79kgのナイスガイだ。

ビザの関係でチームへの合流が1月末に伸びた影響もあって、それほど大きな注目を集めていたわけではないが、2月16日の開幕戦(vs東京V)から先発出場し、来日1カ月未満とは思えないほど高いパフォーマンスを見せて開幕2連勝に大きく貢献。そのまま代えの効かないボランチの軸に定着し、チームのJ1復帰1年目の奮闘を支えている。

さらに8月31日に投票された「エスパルス総選挙-イケメン部門-」で堂々の1位に輝き、サポーターからの愛され度も抜群。ただ、人気の秘密はジョニー デップ似とも言われるイケメンぶりだけではない。

「おばあちゃんやお母さんには怒られたけど」

ボランチは360度全方向からプレッシャーを受けるポジションだが、ブエノは複数人でプレスをかけられても全く慌てる様子を見せず、スッスッと相手が届かない位置にボールを動かしながらキープして、空いている味方に渡していく。彼に人が集まる分、味方はフリーになりやすいので、そのまま前を向いて前方向にボールを動かしていくことができる。

しかも、プレスを逃れるために横や後ろへのパスを増やすのではなく、「え、そこが見えていたの!?」と感じられる前方の選手にピタリとパスを通すシーンも目立つ。今季の清水が、ハイプレスを受ける中でもハーフウェーラインを越えてボールを前に運べているのは、ブエノのキープ力やパス能力による部分がかなり大きいことは間違いない。

そんな彼の落ち着き払ったプレーを見て「1人だけ時間がゆっくり流れているように見える」とつぶやいた人がいたが、筆者もまったく同感だ。

観る人に同様の印象を与える選手としては、ジネディーヌ ジダン(フランス代表)やセルヒオ ブスケツ(スペイン代表)といった多くの名選手の名前が挙がるが、「後ろにも目があるの?」とツッコミたくなる視野の広さも彼らと共通する。

先日、そこに関連してブエノ本人から興味深い話を聞くことができたので、それを紹介したい。それは「プレスを強くかけられても全く慌てずに冷静にキープできるのは、やはり自信が大事なんですか?」と質問したときの返答だ。

「そうですね。小さいときからそういう自信はありました。小さい頃に僕がサッカーをしているところをおばあちゃんやお母さんがよく見てくれていたんですが、僕がそういうプレーをいつもやっているものだから、『ねえマテウス、そんなことしちゃいけないよ。見てる方はヒヤヒヤしちゃうし、お願いよ』ってよく言われてました(笑)。ときどきセンターバックでも使われたんですが、そこでも同じようにやるから、家族だけじゃなくて他の人もヒヤヒヤしてるからって。でも、いくら言われても変わらずにやり続けてきましたし、それで自然に自信がついて、慌てなくなったのかなと思います。でも、リスクはもちろんありますよ。1ミリ単位でミスしてしまったら、ボールを取られて失点につながることもあるので、自信や冷静さをつねに保ってプレーすることを意識してますし、気をつけてますよ(笑)」

ただエスパルスサポーターの場合、闘牛士のように相手の突進をかわしていくブエノの姿を見て、彼の家族のような“ヒヤヒヤ”よりも“ワクワク”を強く感じているようだ。それはサッカー王国・静岡のファンが好むプレーであり、ゴールシーン以外の細かい好プレーにも「お金を払う価値がある」と感じるサッカー通が多いからだ。

だが、もし少年時代の指導者が「そんなリスクのあるプレーは禁止だ!」と言って、マテウス少年に制限をかけていたら、今の彼はなかったかもしれない。プレッシャーの早いプロのゲームで「ミリ単位のミス」を起こさない技術や自信は、子どもの頃から長い時間をかけて積み上げてこなければ身につかないだろう。

そう考えると、少年期の環境の大切さも再認識させられる。と同時に“日本のブラジル”と言われる静岡とブエノの相性の良さも実感することができた。

Reported by 前島芳雄