
「今までサッカーやってて一番嬉しかったですね。もう自分の思ってるものが全部出たみたいな感じで」
喜びとか、嬉しさとか、そんなものではなかったようにも見えた。感情の爆発。心の底から湧き上がる気持ちそのものが、福井啓太のパフォーマンスに表れていた。
明治安田J2リーグ第32節、ベガルタ仙台対RB大宮アルディージャの一戦は、J1昇格戦線を戦い抜くうえで双方にとって重要な6ポイントマッチである。会場はキックオフ前から熱を帯びていたが、大宮の先制からPK失敗、直後に仙台が同点、そして仙台・井上詩音の退場と、試合が進むにつれてますますヒートアップしていった。
両者一歩も譲れない緊張感の中、ルーキーが試合を動かす。81分、大宮のコーナーキックだった。
カプリーニのキックは仙台DFがクリア、そのこぼれを小島幹敏がダイレクトで狙うが、ゴールを大きく逸れていった。誰もがラインを割ると思ったボールだが、杉本健勇が拾い、左サイドで待ち構える和田拓也に落とした。ここで、ファーサイドにいた福井が一目散でニアへ走り込んだ。
「ニアは誰も走ってなかったんで、誰か走った方がいいかなと思って、走ったらそこにボールが来ました」
ボールを持っていた和田も、「啓太の動きが一番、目に入った」と、福井に合わせてクロスを上げる。本当に微妙に、わずかにすらし、そのボールはゴールに吸い込まれていった。頭に残るかすかな感触に、プロ初ゴールを自覚した。
しかも、自身にとっての記念すべきゴールというだけではない。チームにとっても貴重な貴重な1点になった。
「本当にチームの力になりたいと、今シーズン始まってからずっと思っていたので、やっとチームの勝利に結果で貢献できたのは本当に嬉しいです」
ここまで出場した2試合、いずれも3失点と守備者としては悔やまれる結果だったが、この日はクリーンシートは果たせずとも1失点に抑えた。その成長ぶりは、笠原昂史も「初めて出てから、やっぱり前節よりも今回の方が良かったと思うし、まだまだどんどん良くなっていくんだろうなっていう選手で、楽しみですね」と、最後尾から感じ取っている。

1週間の中断を挟み、今週末リーグ戦は再開する。J1昇格争いはむしろここからが本番、そして、福井としても正念場になる。U-20代表に召集されていた市原吏音が帰ってくるのだ。それまでのレギュラー選手が戻ったからといって、あっさりとポジションを明け渡すわけにはいかない。
むしろ、福井や村上陽介は、宮沢悠生監督体制下では一日の長がある。4バックならセンターバックの枠は2つ。センターバック3人の先発メンバー争いからも、目が離せない。
Reported by 土地将靖